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SEASON1

7.薄幸寡黙美少女と心も身体も繋がる的なおはなし そのいち

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〈キーンコーンカーンコーン〉

~放課後 部室~

「………………」 
「………………」

 今、自由部部室には二人の姿がある。
 部長の【白磁雪音】  
 そして俺、新入部員【響木 一斗】だ。

 入部5日目ーー部活には毎日出ている俺ではあったが、こうして部長と二人きりになるのは初めてだった。

 それまでは生理休暇中の【群青雨】さんや社会勉強でたまにいない【黒檀夜永】さんは別として……もう一人の新入りやかまし娘【紅太陽】が常に部室にいたため部長と二人きりになる事はなかったからだ。

 それが今日は
 いや今日もか
 朝の登校中に
 アタシより強いヤツに会いに行きますとストリートファイターみたいな事を言い出し
 登校中の小学生にカードファイトを挑んで
 全治一週間のケガを負って入院したのだった。

 もう自分でも何を言っているのかわからないが
 あいつの奇行はいつもの事なので深く考えないようにする。
 とりあえず『とろけるギースは武器印』というLINEがきたので無事なんだろう。

 もう何もかもわけがわからないよウヒヒ。

 まぁそんなわけで今、部室には部長と二人きりだ。
 会話は一言も交わしていない、何故なら来た時から部長は本を読み耽(ふけ)っていて俺の存在に気づいているかも定かではないからだった。
 真剣な顔をして本と向き合う美少女。
 光により透明にも見える真白髪、美しい顔立ち、清廉な佇まい。
 第一印象のとおりに文学が似合いそうな、消え入りそうな薄幸な少女という雰囲気を醸し出していた。

 第一印象だけだが。

 読んでいる本は
 『うんこ歴史上の人物』という
 少し前に流行ったうんこ漢字ドリルに似た物なんだろうか
 窓辺で本を読む美少女に相応しくない物だった。

 もうそろそろ部員の奇行に慣れてきてしまった俺はそんな事には反応しない。
 とりあえず読み終わるまで俺は待つ事にする。
 色々と今後の部活の事とか話し合いたいしな。

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「………ふぅ」

 少し爽やかな顔をした雪音さんが吐息を漏らし本を閉じた。
 うんこ歴史上の人物に何を感じたのかは知らないが……読了感に浸っている雪音さんもとても綺麗だった。

 あれから約30分くらいたっただろうか
 一言の会話もなく、俺もこたつにノートを広げ暇をつぶすように勉強していた。

「……ねぇ」

 雪音さんが俺に声をかける、俺の存在には気付いていたらしい。
 勉強の手を止め俺は雪音さんと向き合った。

「はい、何ですか?」
「『板前』って本当にいたと思う?」

 ……果たして今のは日本語なんだろうか
 質問の意味が全くわからなかった。

 うんこ歴史上の人物に何か感化されたのだろうか。
 しかし、いくらうんこ歴史上の人物大全の本とはいえ
 うんこ歴史上の人物に板前の話が載っているとは思えない

 板前さんはうんこ歴史上の人物ではない
 現時代に普通にいる
 歴史上の人物は本当にいたと思う? とかの言い間違いではないだろうか

(……しかし待てよ、果たして本に感化されたのだろうか)

 もしかしたら静かな空間に間のもたなかった雪音さんが、読んでいた本とは全く関係なく絞り出したただの雑談なのではないだろうか。

「………」

 雪音さんは応えを待っている
 それともこれは何かの試練なんだろうか。

 とにかくあまり間をあけるのは気まずい、もしかしたらそんなに真剣な話題ではないかもしれない。
 ジョークを交えながら適当に話す雑談かもしれない。

 そう思った俺は応えた。

「当たり板前」
「あ?」

 聞き間違いではなければ、俺の応えた冗句に
 キレた時のヤンキーみたいな言葉が飛んできた。

 当たり前と板前を交えたジョークだったが和やかになるどころか
 一瞬にして険悪なムードに包まれてしまった。
 ジョークは不正解だった。

 どう取り直すか考えていたらーー

「……グスッ」

 ーー美少女が泣き出した。

「!」

 そこで俺は後悔とともに気付いてしまった。

(もしかしたら……大事な人……父親か恋人が板前さんで……その人を亡くしてしまったのではないだろうか……!?)

 それならば
『板前(自分の大事な人)は本当に存在していたのだろうか』という
 嘆きともとれる心の葛藤に当てはまる。

 それなのに俺はよく考えもせずダジャレを使い雪音さんを傷つけてしまった。

(なんて愚かだったんだ俺は)

 キレるのも当たり前だ。
 真剣な問いかけに駄洒落で返されたのだから。

 とにかく何とか慰めの言葉をかけなければ。
 少女が泣く姿なんて見たくない。

 何より
 泣く雪音さんが
 本当に消えてしまいそうに思えたから
 消えてほしくないから
 おかしな人ではあるけど
 きっと心は名前の通り真っ白な雪の音ように
 綺麗な人だと思ったから

「……板前さんは……ずっと心の中にいます」
「!」

 使い古されたありきたりな言葉だが変に飾るよりいいと思えた
 俺が同じ状況でも
 一番欲しい答えだと思ったから

 はっとする雪音さん
 そして雪音さんは言った。

「……ありがとう………いいの?」

 また難解な質問が飛んできた。
 『いいの?』とは?

 しかし今度こそ間違えない、間違えたくない。
 言葉の真意を探る。

「!」

 今度こそ間違える前に真実を見つけ出せたような気がする。

 きっと大事な人を亡くした雪音さんには心の拠り所が必要なのだろう。
 つまり、俺に新たな心の拠り所になってほしいという事ではないだろうか。
 それならば、『(拠り所にして)いいの?』という意味で質問とも繋がる。

 正直俺がそんな存在になれるのかはわからないが
 消え入りそうな少女のため
 頑張ろうと素直に思えた。

「もちろんです」

 その答えを聞いた雪音さんは
 頬を赤らめ、スカートの上から両腕を股にはさみモジモジしだす。

「……じゃあ……」

 そう言って彼女は下着を脱ぎ出した。

 『ジャア』とは?
 赤い彗星の人ではないことは確かだ。
 この期に及んで冗談を言っている場合ではない。

 つまりはそーいう事なのだろうか
 心の繋がりを強固にするためには
 まず身体から繋がるという事なのだろうか

 流石にそれは段階を飛ばしすぎのような気がするが、彼女は四つん這いになりスカートに手をかけながら、こちらにお尻を向け大事な部分を晒そうとしている。

「……これで、少しわかりあえる気がするから……」

 口下手な彼女、もしかしたらこの方法しか思いつかなかったのだろうか。
 見ると顔を赤らめながらも、その手は震えていた。
 しかし、この方法はまだ早すぎると思う。
 そう言って場をおさめようとした時ーー

 ーー同じシチュエーションが過去に何度もあった事をようやく思い出した。

「また油断……学習が下手だな……俺も」

 そう口に出した時には既に手遅れだった。

ブリリリリリリリリリリリリ

 彼女からの大量の飛散物(う○こ)を浴びながら俺は悟った。
 この人とは何一つわかり合えない事を

              〈真相編へ続く〉




































    
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