上 下
19 / 28
SEASON1

11. 自由部始動

しおりを挟む

※今回は普通の話をお送りします。

「「「「部活動紹介発表?」」」」

 自由部部員にしては珍しく皆が一斉に声を揃える。
 部室にはまた珍しく自由部全員が揃っていた。
 発端はつい先週自由部の顧問になってくれた変態ヤンキーちょろいん先生、香茶の一言だった。

「なんだおめーら知らねーのか? ウチの学校は少し遅くて4月の終わりにやんだよ、丁度明後日だな」

 そういえば普通は入学式かその近くに全校集会で部活動紹介があるはずなのにやっていなかったな。
 何故4月も終わりかけの連休を前にしたこんな時期に。

「さぁ? うちの校長何考えてっかわっかんねーからなー」

 ヤンキー先生は興味なさそうに足を組み、もう話をする気もなさそうに畳に寝転がった。

「宣伝するいい機会」

 部長の雪音さんはそう言って本を読むのをやめる。

「ふむ、初の部活の宣伝の場だ」

 夜永さんはそう言って腕捲りをして台所に消える。

「頑張らなくっちゃね、文化祭前に部員を増やすチャンスだよ」

 雨さんはそう言ってノートに何かを書いている。

「ですね」

 太陽はそれだけ言って瞑想していた。

(何だ、この違和感は)

 皆が普通の事を言っている。
 怖すぎる。

「あ……あの……それで何を発表するんですか?」

 俺はその普通さに戦慄しつつ、恐れながら聞いてみる。

「秘密、カズトには会場を温める前座と紹介を任せる」
「ふむ、男前な主が前座を務めれば女子の気をひけるだろう」
「響木くん!責任重大だよっ」
「お願いします、お兄ちゃん」

(別にそれは構わないのだが、何でこんなに普通なんだ)

 今まで狂いに狂った姿を見せた面々が普通の会話をしている。
 それがたまらなく恐ろしかった。

「きょ、去年とか文化祭では何を発表されたんですか?」
「何も。部活動紹介の時はまだ創設していなかったし」
「祭事の時はうちらはまだちゃんとした形になっていなかったしな」
「だから大々的に御披露目するのは今回が初めてなんだよっ」
「楽しみです」

 まさかとは思うが、皆緊張しているのだろうか。
 一般生徒の場の目に触れる公の舞台に晒されるのは初めてだから……
 ……いや、そんなわけあるか。
 こいつらがそんなタマなわけない。

 俺は潮の満ち引きを思い出す。
 引き潮は引けば引くほどにより巨大な波となって押し寄せてくる。
 これは大津波の前触れ。
 そんな感覚が俺の体に直感として訪れていた。
 一体何を企んでいるのだろうか。

「ふ、普通の部活動紹介をするんですよね?」
「当たり前、何を言っているの」
「公衆の面前でふざけた真似をするわけなかろう」
「いくら私達でもそんな事しないよっ」
「その通りです」

 完全に前フリじゃないか。
 嵐の前の静けさ。
 それを今、俺は体感している。







しおりを挟む

処理中です...