12 / 76
チュートリアル
#010~箱庭入門『家造り』
しおりを挟む雨の止まない中、俺とマインは野晒しになっている遺体を全て町の下に埋めて祈った。
燃えた家屋に埋もれた遺体も全て埋葬したため、瓦礫の撤去にクラフトを使わざるを得ず……町のあちこちが箱だらけになってしまっている。そのまま放置しておくのもあれなので箱も全て回収する。
昨日まで港町であったはずが……本当に家屋も木々も露店も船も積み荷も……人も。何もかもが無くなってしまった。
あるのは自作して立てた住民達の墓……それだけだった。
マインはいつまでも墓の前で手を合わせて祈っている。そんなマインを尻目にして俺は考える。
(……さて……どうするか……町にある物は全て燃えてしまっていた……資材も地図も食糧も船も……)
まるでサクラ達が俺達を(俺の事は死んだと思ってるだろうけど)島に閉じ込めて殺そうとしているようだ。
きっと実際その通りなんだろう、全てが入念に破壊され燃やされている。
(船は【シンザシス(合成)】でいかだでも造れば何とかなるかもしれない……食糧も島で採取した物を【インベントリ】に貯めておけばどうにかなる……だが、海図や羅針盤は造れない……方角がわからないと島を出るどころの話じゃないぞ……)
実際にこの島に来る時には最寄りとされている大陸の港からでも7日以上の日数を要した。
優秀な航海術も持っている大賢人の『ナイツ』を以てしてもその道のりは決して楽ではなかった。
迂闊に海へ飛び出しても彷徨って死ぬだけだ、どうにかして大陸にたどり着ける方法を考えなければならない。
「………………ウルさん………ソウルさん?」
「…………え?…………わっ!」
俺の名を呼ぶ声が聞こえて思案するのを中断すると、視界いっぱいにマインの綺麗な白肌が飛び込んできた。
マインが俺の顔を覗き込んでいたようだ。俺は少し驚いて声をあげる。
「す……すみません……お声かけしても反応なさらなかったものですから……つい……」
「い……いや、ごめん。ちょっと考え込んでて気づかなかった、謝るのはこっちだ。それで……どうかした?」
全てが白く、まるで祈っている姿を見ると天使のようで……そのまま何処かへ消えてしまいそうなマインではあったが、どうやら一旦気持ちの整理はついたようだ。表情が少し晴れやかになっている。
「ソウルさんは……これからどうなさるおつもりでしょうか……? ギルドの方へ戻られるのでしょうか……?」
マインはそう言うと何やら複雑な表情をする。
俺はこの町に来るまでの道中にマインの話を聞くと同時に自分の素性も話していた。なるべく嘘偽りなく……この町を燃やしたギルドの面々と同じギルドに所属している事……俺を殺したあいつとは同郷である事……そして荷物とされて棄てられた事を。
唯一、【箱庭】の力だけは不思議な魔法という事で誤魔化した。
どうやらマインにはハコザキの声は聞こえていないらしいし、経緯を話したところで【箱庭】が不思議な魔法であることには変わりはないから同じ事だ。
だったら『この島に伝わる悪魔の伝承の通りにこの不思議な力を得た』なんて話さない方がいい。特に今は。
俺は少し考えたのちに答える。
「そうだな……そのつもりだ。あいつらのした事は許されることじゃない、必ず罪は償わせる。個人的に恨みもある」
「………」
俺がそう言うとマインは何かを考え込んでいるようだった。
(そういえば……ハコザキはずっと話しかけてこないな……? 何処か行ったのか?)
「ハコザキ、聞こえるか?」
…………………と、問いかけても応答はなかった。
(これからどうするかを相談したかったのに。現状は……航海に必要な方位を測る物と航海術を見つけるか造るかしない限り何もできない。
クラフトでそれらがどうにかなるかを聞いておきたい……確かこの島にはもう一つ……『要塞』があったはずだ。そこでなら何か見つかるかもしれない)
ハコザキからの応答が無ければその『要塞』に行ってみるのもいいだろう。
しかし、時計は無いが時刻が既に夕暮れを迎えようとしているのを水平線辺りで切れている雲間から差し込む橙色の光で確認できた。
遺体を埋葬するのと瓦礫の箱化と回収に半日以上費やしていたようだ。
(今日はもう休むか……雨に濡れたし……マインもこのままじゃあ風邪をひく)
そう思った俺は墓を掘る際に回収した町の床である基礎コンクリートのセメント材や町の石壁をアイテムスロットから取り出し、周囲辺り一面に並べた。
それを見たマインが驚いている。
「……ソウルさん……? この箱は……一体何を……?」
「まぁ見ててくれ」
そしてそれらを画一的に並べていく、まずは床一面……そしてそれを囲うようにセメント箱を壁状に積み上げる。高さは大体4ブロック、7~8メーターくらいあれば充分だ。これで簡易的な風よけになる『家』の外壁部分が完成した。
あとは屋根だが、これまでに【箱庭】の『ちょっとした裏技』を見つけていた俺はそれを使ってセメントの屋根を完成させた。
豆腐型の『壁家』が出来上がる、あとは換気のために壁箱を一つ消去していくつかの窓と入口をつくる。
殺風景で何もないが、とりあえずこれで雨風は凌げるだろう。
「……………」
マインはその作業を唖然とした顔で見ている、俺は出来上がった『箱家』に入るよう促して作業を続けた。
家の中に仕切りを作り、外壁と隣接するようにしてセメント壁を並べて人一人分が入れるくらいの長方形の容れ物を造る、高さは箱二段分だ。
セメント床では熱は伝わらないので一部分だけのセメントを消去して町で入手した『鉄板』を敷き詰める。
そしてその中に事前に箱に貯めておいた雨水を入れる。
一度外に出て先ほどの裏技を使う、それは『積み重ねた状態の箱の下の部分を消去すると乗っている箱は宙に浮いたままになる』というものだ。
容れ物と隣接した壁の下一段目を消去する、壁の土台を削ったが裏技により家は崩れない。
そして削った壁から続く容れ物の一段目を掘っていく、外壁から容れ物の鉄板の下まで外から続く空洞が出来上がる。
あとは鉄板の下の空洞部分に木材を敷き詰め、松明で火をつければ鉄板は熱せられ……水はお湯となり地球で言う『かまど風呂』が出来るというわけだ。
一応壁を一部削って空洞部分を天井まで繋げて排煙できる仕組みも造った。
「……………………すごい……」
黙って作業風景を見ていたマインが口を開く。
(これで一応今晩は雨風を凌げるだろう、あとは食糧の問題だな)
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。
王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。
なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。
自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。
11月14日にHOT男性向け1位になりました。
応援、ありがとうございます!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる