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第一章 箱使いの悪魔
#009.■ギルドに入ろう③『ステータス鑑定』
しおりを挟む「これは我がギルドの所有するステータスを測定する古代遺物(レジェンダリ)の【真実の咆口(カタストロフ)】というアイテムだ。鑑定師や付術師がいなくても測定、紋章付与、その全てをこれ一つで一挙に行える優れものだ。使用者はこの神の遣いとされている獅子を模した彫刻の口に手を入れるだけでいい」
イルナはそう言って人間の成人ほどもある四角い石細工の彫刻を軽々と片手で運び、ソウル達の前に置いた。
石細工に彫られていたのは翼の生えた獣──獣は大口を開き、まるで咆哮しているかのようだ。
頭部の部分だけが四角い壁のような石から突出し、絵から飛び出してきたかのようにその存在感を主張している。
イルナの言では、この獅子の口に手を入れるだけで能力測定や紋章付与を行えるらしい。まるで本物の獣に腕を差し出すようで人によっては尻込みしてしまうかもしれない……それほどに神々めいたものを感じさせる遺物だった。
(しかし……何者なんだイルナは。普通のギルドにこんな代物が普及されるわけない、精々が測定は【身分証(ステータスカード)】と呼ばれるアイテムで行なわれるはずなのに……)
通常、ギルドで測定を行う場合はソウルの思考の通り、量産されているそのステータスカードに触れる事により測定を行い、それを付術技術を持った者が付与する形が通例化されている。
勿論、魔獣が増えた事によりギルドが乱立されその統制が煩雑になってしまった今では全てのギルドがその限りではないがソウルの経験上では大体がその形式だった。
(こんなレベルのレジェンダリアイテム……王族か教会関係の人物でなければ所有権はないはずだが……)
ソウルが多少の疑念を抱いていることを余所にイルナは話を進める。
「まずは言い出しっぺである私のステータスを見せようか」
そう言ってイルナは獅子の口に躊躇いなく手を挿入(いれ)る。
すると彫刻一面に紫がかった魔法陣が浮かびあがり、魔法陣から放たれた光は獅子の頭上にある空間に収束され──空中に文字や記号、数式を刻んだ。
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【イリュリョナー・ルゥンラタリア】
・LV72
・称号『魔術師連盟 冒険者連盟 頭領』
・階級 『エメラルド』
・体力(HP) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『SS』
・知力(INT) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『A』
・腕力(POW) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『S』
・防力(DEF) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『A』
・マナ総量(MP) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『S』
・魔総導力(MAG) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『SS』
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空中に投影されたイルナのステータスにそれを見た酔っぱらい達がざわめき出す。
それは決して古代遺物が産み出した最新鋭の測定様式に驚いたわけではない、イルナのステータス……その数値の高さに。
(凄いな……【白銀の羽根】に入ったとしてもおかしくない能力値だ。さすがに『あの四人』には劣ってはいるが……ますます何者なんだこのエルフは……)
深まるソウルの疑念を微塵も気にする素振(そぶ)りもなく、測定を終えたイルナは何事も無かったかのように手を引き抜いた。
「私は既に身分紋章が刻まれているから何も無かったが、君達二人はステータスの表示後に獅子の口から付与魔法が腕を通り抜けマナの器に刻み込まれる。多少の痛みを伴うから先に言っておこう……さて、ではまずは貴様らの中から一番能力値が高いと思う者を選べ」
イルナは集まった酔っぱらい達に向かって言った。
すると、先程マインに手を出そうとした大柄で横柄な騒動の中心人物が名乗りをあげた。
「はっはっはっ! じゃあ俺だな! 帝国ギルド『斧銀(シルブクス)』のAランク戦士のステータスを特別に見せてやるよ!」
男はそう言って太い腕を躊躇なく獅子の口に入れる。
(帝国ギルド『斧銀(シルブクス)』……その名はよく聞く……主に傭兵稼業で戦士達を派遣する武闘派ギルド……その実力は決して口先だけじゃない)
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【ブルドク・ハザーマン】
・LV52
・称号『帝国戦士連盟 戦士』
・階級『金』
・体力 ☆☆☆☆☆☆☆☆ 『A』
・知力 ☆☆ 『E』
・腕力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『S』
・防力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『S』
・マナ総量 ☆☆☆☆ 『D』
・魔総導力 ☆☆ 『E』
------------------------------------------
男の測定が終わりステータスが表示される。
イルナの後だからどうしても見劣りはしているだろうが、ステータス値に『S』のランクが一つでもある奴は突出した人物で大型魔獣だろうが簡単に捻り潰せる。
それが二項目も『S』ランクがあろうものなら国の騎士に選出されてもおかしくはないほどの傑物なのだ。
「はっはっはっ! どうだカス野郎ども!? 魔術師なんぞ目じゃねえんだよ! その枝みてーな体を捻っちまえばてめえらなんぞ簡単に犯せる事を忘れんじゃねえ!! まぁ余興として付き合ってやるが今のうちに俺様のご機嫌を取っておいた方がいいんじゃねえか!? はっはっはっ!」
「………ふむ……これは意外な値だったな。驚いたよ」
イルナは険しい顔をして何かを考え込んだ。男のステータスが予想より上回っていて驚いたのだろうか……ソウルの目から測ってめそんな感じの難しい顔つきをしていた。
「や、やっぱりわ……私は嫌ですよぉっ!? ラ……ラインさんっ! お願いですから勝ってくださいねっ!? 勝って頂けたら何でもしますからぁっ」
ルルリラはイルナの顔つきを見て慌てふためく。
勝っても何も戦闘するわけじゃないんだから俺にはどうしようもないのだが……とソウルは嘆息しつつ【真実の咆口】の前に行って手をかざした。
(どう考えてもステータスで俺に勝てる要素はない、俺が魔獣達を相手どれたのは【箱庭】と【黒耀剣】の力であってステータスが上がったからじゃない)
一年前よりかは多少上昇はしているだろうが、それでも『S』ランクの項目が俺にあるとは思えない──どう見積もってもこの酔っぱらいより数値は下だろうと自身でも冷静に分析する。
(悪いな、マイン)
そして、マインに心の中で謝罪する。
何故か?
彼が負ける事でマインはこの男たちの慰み物になるから?
イルナとルルリラは自業自得のようなものだからどうでもいいが、マインは騒動に巻き込まれただけだから、その謝罪?
そのどれもが的外れであり、戯言だった。そもそもそんな事態をソウルが許すわけはないのだから。
(こんな茶番劇に付き合う義理なんかない、俺達はイルナの何かしらの思惑に巻き込まれただけだ。隙を見て逃げ出すしかなさそうだ、またどこかでギルドを探さなくちゃな)
そうなると、また当分の間……街へ入ることはできないだろう。
故に不自由を強いる事への謝罪──そして、信じてくれたにも関わらず逃走する事への謝罪だった。
「はっはっはっ! どうしたどうした!? ビビっちまったか!?」
男達は寸前で腕を止めたソウルを見て嘲笑する。
ソウルはというと……目配せをして逃げるように合図を送ろうとマインの方を見る。
そして、笑った。
マインは、何も言わずに、ただ黙って彼を真っ直ぐに見つめて微笑んでいたから。
まるで、『大丈夫、信じています』とそれだけを、それだけしか思考していないかのように。
一抹の不安をも見せずに、ただただ彼を信じていたから。
「おぅ!! ビビっちまったんなら勝負は俺様の勝ちだな!! てめえの連れは俺様が気持ち良く使ってやるからとっとと失せな!!」
「……なはは、悪い悪い。笑いをこらえるのに必死だっただけだ、なぁ? 知力『E』ランクの酔っぱらい? 7歳の子供でももうちょっと高いと思うぜ? 道理で家畜みてえに喧しいわけだ。脳の足りなさを披露しちまって恥ずかしいのはわかるがもう少し声量を落としたらどうだ?」
「なっ…………んだとテメエっ!!?」
ソウルは喚(わめ)く酔っぱらいを無視して、獅子の口に手を入れる。
(俺はまた逃げようとした、もう嘲笑われるのが嫌で。嫌なことが起こる前に逃げる事を考えた、昔の俺みたいに)
もう、それじゃ駄目なんだ。
もう、昔の俺じゃない。
目に見える力をつけた、こんな俺を信じてくれている相棒もできた。
なら、俺がやる事は逃げる事じゃない──と。
(どうとでもなれ、もしも……最悪の事態になりそうだったなら……その時は───『鏖殺(みなごろ)し』にすればいいだけだ)
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