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第一章 箱使いの悪魔
#016.■お金を稼ごう③『ワヲン・クサナギ』
しおりを挟む「…………素晴らしい、どれも本物のようですね……まだ収納空間にお持ちなのでしょうか?」
「なはは、勿論だ。だが……今はあるだけ換金してくれりゃあいい。さしあたって必要な額はさっき言った通りだ」
ソウルは商会連盟にて頭取である【ワヲン・クサナギ】と商談していた。ワヲンはソウルが収納魔法で取り出した財宝の数々を鑑定して驚きの表情を見せている。対面するソウル達に挟まれる長尺のテーブルには『ネザー要塞』深階で見つけた財宝が所狭しと積み重なっている。
「10億コイン、それが現在私共が即金で出せる最大の額となります。それ以上ですと王都にある商会本部に足を運んでいただく必要がありますが……」
「ああ、いずれ向かうとするさ。だからその10億で構わない、ここにある財宝で足りるだろ?」
「いえ、足りるどころか多すぎるくらいです。この金塊は全てお返しします」
ワヲンはテーブルに乗っていた金塊を全て返し、テーブルに残ったのは宝石や王冠、貴金属、鉱石のインゴットだけだった。
「なはは、馬鹿正直だな。俺には鑑定眼がねえから騙そうと思えば騙せるのによ」
「私共は信用を第一に考えるギルドですから。そこにいる傲慢な糞馬鹿のような考えの人間もたまにいますが……失礼しました。お聞き苦しかったですね、お客様にお聞かせする事ではありませんでした」
ワヲンは目を覚まし隅に正座させられている中年男を一瞥(いちべつ)し、再び頭を下げながら続ける。
「それになにより……金ではないこちらの鉱石によるインゴット。これらは遥か昔に枯渇してしまった鉱石で【EX遺物(レジェンダリ)】にも指定されている【アダマンタイト】【ダマスカス】【オリハルコン】のインゴットで……この三種だけでも5億なぞゆうに越える歴史的発見です」
鉱石のインゴットを手に持ち、ワヲンは何度もそれをマジマジと眺めている。僅かに興奮して表情が赤みがかっていたが、自身でもそれに気づいたようですぐに取り直した。
「そして……【ダイヤモンド鉱石】。ご存知でしょうが……SSランク以上のギルドの長のみが所持を許される最高峰身分の証明となるこの鉱石……採掘地と採掘方法を知るのはごく限られた王族と一部のドワーフだけと聞いております。それが今この手に……」
再び、ワヲンは無表情ではあるが感情を抑えきれない様子で微かに震えた。しかし再度、直ぐ様にそれを抑える。商人という特性上、ポーカーフェイスを装うような癖を持っているようだった。
「なはは、聞かないんだな? 一体これを何処で手に入れたかってよ」
「……無論、私共としましてはお聞かせ願いたいところではあります。しかし貴方様の望む対価をご用意できるかは……」
「勿論、それは信頼できると判断してからさ。俺も慈善事業まで手掛けているこの連盟には信用を置いている。だが、そこにいるような奴もいるからな。こっちの情報を与えるのは慎重にしていきたい」
ソウルがそう言うとワヲンは中年男を睨む、男はバツの悪そうな表情をしており気まずそうだ。
「実はここ一年ほど地下迷宮に潜っていて昨今の世情に疎いんだ、カネも欲しいが情報も同じくらいに欲しい。だから対価は情報でいい、そうすりゃあ儲けさせてやる」
「成程、かしこまりました。他の者にもライン様、マイン様を特別待遇で迎えるように指示致します」
「なはは、重畳(ちょうじょう)だ。ちなみに聞くが俺をお得意様として引き入れたあんたの取り分はいくらになるんだ?」
「……ライン様……それは秘匿情報なので流石に──」
と、言いかけたところでワヲンはその質問の意図を汲み取り、無表情を少しだけ崩して口端を上げて言った。
「──と言いたいところですが、これほどのEX遺物を商会の手に納めたのですから手数料(もうけ)はそれなりになるかと思われます。ギルド内ランクも上がるくらいに。真心を以て接するように心がけております故の評価と有り難く受け止めさせていただきます」
「なはは、そういうこったな。あんたとは長く付き合えそうだ、じゃあなそこのオッサン。千載一遇のチャンスを逃したな、お前はカネには好かれてないようだ。精々商才を一から磨くこった」
そう言ってソウルとマインは10億コインを受け取り、深々と頭を下げるワヲン達を尻目に商会を後にした。
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余談ではあるが、その後、ソウルはマイン用に上等な装備と普段着、礼装などを思い切り買い揃えた。
マインは遠慮してはいたが、純白のドレスを試着させた時に照れながらも明るい笑顔を見せた。彼女によく似合う、貴族の社交界用のドレスだった。
それに付随し、ソウルは決して派手すぎない髪留めや装飾品も買い揃えた。これでどこからどう見ても貧相だ奴隷だのと言ったクソみたいな事を言われる心配もなくなるだろう、と。
無論、マインも内心ではとても喜んでいた。帰り路もソウルが『綺麗だ』と言ったドレスや装飾品を嬉しそうに身につけたまま歩いていた。
何度も死んで財宝を手に入れた甲斐があると親心さながらにしみじみとソウルは思う──いつか語れる良い思い出となり彼の心も安堵する。
買い物の帰り路──女達に絡まれた商店通りがなにか騒がしかった。野次馬に話を聞いてみたところ、マインを見下していた女達が『みすぼらしい女に魔術で攻撃された』と衛兵達を呼んで騒いでいたらしかった。衛兵達は長い事それに付き合わされているのかうんざりした表情をしている。
「だからっ! 街中での魔術の使用は違法でしょう!? さっさとあの貧乏ったらしい白髪の女を探しなさい!」
「えー……そう言われましてもね……そんな情報だけでは探しようがないんですよねー……」
すると、女達は野次馬の中から目敏(めざと)くソウル達を見つけ、目が合った──ソウルはマインの手を引き、堂々と女達の前を通過する。
「あっ!! あいつらよっ!! あのみすぼらしい……………!??」
「なはは、何騒いでんのか知らねぇが人違いじゃねえか? どこにみすぼらしくて貧乏ったらしい女なんかいるんだ?」
女達も衛兵達も野次馬達も、着飾ったマインを見てその時を止めた。どこからともなく次々に『美しい』『天使のようだ』といった呟きが聞こえてくる。
マインは注目を浴びたせいか、来た時とは違った意味で耳を紅らめている。
「なぁ? 衛兵さんよ、この女達の勘違いだろ? 用がないなら行っていいか?」
「え……えぇ、とんだご迷惑をおかけしてすみません。とても美しいお嬢様です、ここは我々に任せてお通りください」
「なはは、重畳だ。ちなみにあの女達ぁ隠れて【透視魔術】を通行人に使って見定めてやがる。注意することだ」
その後、女達が衛兵にしょっ引かれたのはソウルの記憶から直ぐに消え去るような、語るまでもない思い出となったのは言うまでも無いだろう。
ソウルは既に、未来を見据えていたのだから。
(さぁ、金も情報源も身分も手に入った。あとは【課金】して能力を手に入れたら……調べてみるか。『あいつ』に繋がっているかもしれねぇしな)
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