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第一章 箱使いの悪魔
#028.■一連の裏
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「んっ……んん……」
「やっと目ぇ覚ましたか、ようこそ俺の実験場へ」
溶岩地帯での戦闘後、一時気を失ったエリーゼが目を覚ます。ソウルとマインはエリーゼを運びながら【箱庭】の力を使って溶岩地帯をあとにしていた。
その道中、エリーゼの使用していたであろう炭坑地下を発見する。幾重にも結界が施され隠されていた──正に秘密基地には学術書、用途不明の小瓶に入った液体、マナを込められた数々の導具や技具……そして、かつてエリーゼに実験台とされて散ったのであろう人々の血や体の一部分が保管された……悪趣味としか言い様のない肉の塊のようなものが散乱していた。
流石にマインに見せるわけにはいかないとソウルは直ぐにインベントリに収納する。犠牲となった人達には悪いが所持していてあまり気持ちのいいものではないので後で埋葬する事にした。
「──っ、な……にが『俺の実験場』よ……っ! ここはあたしのっ……っ!」
「なはは、そうだったものをこれから俺が有り難く使ってやろうってんだよ」
エリーゼは決して軽くはない火傷を全身に負っていた。特に下半身は治癒術を施さなければ歩く事すらできない程に赤く爛(ただ)れている。胴体に繋がっているだけ奇跡だろう。
「てめぇはもうこのままじゃあ決して日の目を浴びる事はねぇ。散々好き勝手してきた報いだ、因果は巡る。生は諦めることだ──」
「──ッ……」
この現状と行く末を憂慮(ういりょ)し、エリーゼは怒り、悔しさ、悲観、敵意、そして僅かながらに恐怖を混じえた表情を見せる。その表情を理解したソウルは続ける。
「──だが、てめぇが俺の知りてぇ情報を話すってんなら別だ。その暁(あかつき)には生かしてやるだけじゃねぇ、火傷の治癒もやってやる。俺が知りてぇのはただ一つ……【ミランダ】に関するもんだけだ」
ミランダの名を出すとエリーゼの表情には罪悪、悔悟の念が混じる。
だが、ソウルは畳み掛けるように続ける。虚偽と真実を織り交ぜながら。
「安心しな、お前さんから漏れたなんざ言わねぇし……どちらにせよあいつは俺が殺す。それにお前さんから聞かなくてもミランダの別の手足(つかい)の居場所は割れてる。そいつに同じ事をするだけだ、どの道ミランダは───死ぬ」
「……っ、あっ、はは! あんった如きがっ……御姉様をっ!? 笑わせないでっ……むぐっ!」
ソウルは笑うエリーゼの頬を掴み、口を手で塞ぐ。そして、炎魔の発動準備をしながら笑った。
「てめぇが口にしていいのは『情報』だけだ、話す意志がねえなら黙ってろ。ちなみにだが……お前さんの顔は綺麗に残ってる、火傷はねぇ。それを台無しにするかは俺の気分次第だ」
僅かに熱を帯びてきた右手の感覚が伝わったのかエリーゼはうっすらと涙を浮かべながらソウルを睨む。
「それとお前さんの火傷は今、氷魔術の加護に覆われてるから痛みも感じないだろうが……残念ながらそれは20分程度しかもたねぇ。つまり、話すなら今のうちっつーことだ。解ければ空気に触れるだけで激痛が走る。医者じゃねえから詳しくはないが……熱傷指数だったか? 見立てではお前さんの火傷範囲は死亡率80~90%ってところだ。何もしなければそのうち勝手に死ぬわけだ」
これは虚偽ではない、ありのままの真実を伝えた。マインが霊薬を飲み、加護を施したからこそエリーゼの意識は戻ったのだ。これは紛れもない事実……そうでもしなければ盲信者の口は割れないと踏んでいた。
(こいつは盲信者ではあっても……狂信的ではない。必ず策に自分が生き残る術を組み込んでる、俺を恐れながらも自爆道連れにしなかったのがいい証拠だ)
ミランダの為に命を捨てる覚悟まではない、理想を掲げる人間を支持しているのではなく理想そのものを崇拝しているタイプだろうとソウルは判断した。
「【ステラ・クルシェ・ラ・ウルフヘンジ】【アマリア・エラルドリア】【カレン・アマクサ】……」
「!!」
ソウルがある名前を告げると、エリーゼは驚きを隠せなかったようで表情が更に強張った。
情報を喋らせるための止(とど)めとして、かつて【白銀の羽根】在籍時に耳にしていた……そして独自に調べあげていたミランダへ繋がる手足を挙げたのだ。
実際にソウルが持っているカードはこれだけで名前以外には顔も所在地も知らなかったが……エリーゼはどうやら彼が虚偽を述べているわけではないと観念したのか話し始める。
「……本当に……生かしてくれるんでしょうね……?」
「そこは信じてもらうしかねぇな。だが、嘘だったとしてもお前さんから得た情報を真実か確認するまでは確実に猶予は得られる。あと20分で死ぬよりかは懸命じゃねえか?」
「…………………なにが知りたいの?」
「とりあえず一番知りたいのはミランダの所在だが……んなもんを末端のお前さんが知るわけないからな。お前さんと『街にいた金ランク貴族』達に指示してる奴の名前と所在、ここからだ」
「…………ある程度は推測がついてたってわけね………」
そう言うと、エリーゼはため息をついた。
マインは横で話についていけない様子を見せたが……事情を聞かずに堪(こら)えていた。エリーゼに主導権を握らせないための駆け引きとして──弱みや無知を晒すわけにはいかないと肌で感じて察したのだろう。
「………察しの通り……カルデアにはあたしと同じように御姉様の手足がいる。全員が末端も末端で……偶像崇拝者として理想に傾倒してる役立たずしかいないけど………曲がりなりにも貴族だからね……出資面(サポート)の役割のそいつらとあたしとで街に潜り込んで今回の【新米狩り】を始めたのよ……」
「それぁ知ってる。ミランダの『美的理念(おぞましさ)』の残滓(ざんし)みてぇなもんをあいつらからも感じたからな。だが、ここまでことが表沙汰になってねえのはある程度の権力者が裏にいねぇと成立しない。そいつは誰だ?」
「…………【バットランド大国】の【政務官シルヴァラント】……御姉様と通じてる可能性があるのが……あたしなりに調べて出てきたそいつよ……」
「なはは、これまた大物が出てきたもんだ。だがおかしな話だな……バットランドの王は確か帝国の王とは犬猿の仲だったはずだ。【白銀の羽根】を抱えてる帝国の利になるような事をするか?」
勿論、ソウルの言ったことは一年前の情報でしかなく……この発言は気になっていたことを聞くための誘導尋問でしかなかった。
それは【白銀の羽根】の失墜の原因。
一年前まで【白銀の羽根】はオーバーワールドでは最大の国力を持った……神聖大帝国とまで呼ばれている【ゼスティア帝国】の管理下にあった。
その国の王【帝王ヴィシュヌ】とバットランドの王【破壊王ブラフマン】が幾度に渡り争っていることはオーバーワールドでは周知の事実であった。ソウルもギルド在籍時にはバットランド所属ギルドと何度か戦ったこともあった──それほどまでに互いをいがみ合っていた。
(ミランダは少なからず【白銀の羽根】と【帝国と帝王】の下にいる事を誇っていたように見えた……その害になるような原因を自らつくるほど馬鹿じゃないはず……やはりこの一年でギルドが急落したこととなにか関係があるのか?)
そして次にエリーゼが放った言葉には、ソウルも動揺を隠せなかった。
「………全部『ある一人の男』が原因だ、と聞いたことがあるわ……確か……名前は…………【ソウル・サンド】」
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