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第二章 命名研究機関との戦い
第五十一話 暗雲
しおりを挟む俺とアイは通路を抜け、柱が立ち並ぶ大広間にたどり着く。
装飾が施された柱が登るその空間の天井は高く、暗闇に呑まれて見えなかった。
まるで棄てられた聖堂の地下のような空間。
「ここなのっ!?」
「わからない、ただ人の気配があった」
その言葉の通り、柱の間の暗闇…
俺達の真正面から誰かが歩いてくる。
フードを深々と被った人物、背は高いが男か女かはわからない。
「……お前が親玉か?リーフはどこだ?」
「話すのは初めてじゃなナナシ君、残念ながら儂は所長ではない。中央研究所分室、海底研究室室長の肩書きをもつものじゃよ」
「室長……」
アイがたまらず前へ出る。
「じゃあ、あんたがお姉ちゃんを酷い目に合わせるよう命令したの?」
フードの男は少し驚いたような様子でアイの質問に少し間をあけ答える。
「…………ほう、瓜二つじゃな……妹がおったのか。それは…初耳じゃの」
「質問に答えて!」
「……信じてもらえるかわからんが、儂は何も命令などしておらんよ。あれは部下の暴走じゃ」
俺は間に割って入る。
「そんなのどっちだろうが同じ事だ、お前ら全員同罪だ」
「ふむ…全くもってその通りじゃ」
「リーフの場所を教えろ、連れて帰る」
「……ふむ、いいだろう」
俺達は予想外の答えに少し驚く。
「ただし、その代わりに娘…お前さんと交換であればな」
「……?アタシっ…?」
「ふざけるな、そんな条件呑むわけないだろう。何が目的だ」
「ティアラップとヒトめ…あやつらを偵察に送り込む事自体間違いであったか……報告を怠りおって…」
フードの男は答えず、ブツブツと独り言を呟く。
「……まぁ良い。どちらも手に入れれば良い事よ、これで二人共殺すわけにはいかぬか……厄介な事じゃな…」
独り言を終えた後、男はフードをとる。
「所長室の鍵は儂と所長しか持っておらん、欲しければ儂を倒す事じゃな」
白髪に眼帯をした初老の男が姿を現した。
初老の男はその風貌に似合わず、自身の身長をも越える大剣を背中の鞘から抜き出し構える。
ガチャン!
「はて、お主の能力は封じたはずなんじゃが…その様子じゃと解けたようじゃな。ならばまた封じるだけの事…」
「アイ、援護を頼む。やるぞ」
「うん!」
三人それぞれが構え、戦闘が始まった。
--------------
◇
<アウクストラ王国王都、玉座>
「………というわけなのなのです、御父様。証拠はまだありませんがその者達が必ず揃えます。なので兵を動かす許可を」
「ふむ…にわかには信じられぬ話だがお前がこんな嘘をつくはずはないしな」
荘厳な間である王の玉座には国を治めるアウクストラ王、その娘ルール、執務を執り行う意見役の大臣が三人でルールから聞かされた研究所の問題を話し合っていた。
「しかし『命名研究機関』は絶対君主制の国、オルクスベル王による管轄の研究機関です。あの王が素直に従うとも思えません」
「ふむ、確たる証拠もなしに踏み込む事はできぬか……だがあの王は恐らく関わってはおるまい、愚直な王ではあるが悪事を働く度胸があるとは思えん」
「私もそう思います、一部の高官達の独断であるとは思いますが……しかし下手に踏み込めば一気に戦争に発展する可能性も有り得ます」
「重々承知していますわ、ですですから証拠を揃えてからと言っているのです。動くための準備をさせてほしいだけです」
「ですが堂々と兵団を余所の国に入れる事すら余計な軋轢を生む事態になりかねません、それなりの理由を揃えてからでなければ」
「ですからっ!それから兵を動かしていては遅いと言っているのですです!」
「………」
「理由など何でもいいのですですわ!研究所は火山噴火によりこの国の町を消し、奴隷商を引き入れ、更に我が国の王国騎士団長を誘拐し国の領土を侵していた!これ以上放っておくわけにはいきませんわ!」
「……王、しかしサイは……」
「……ふむ……ルール、お前には話していなかったな」
「?何がですです?」
「サイは研究所に元々潜入させていた工作員だ」
「!」
「俺も元々研究所は怪しいとは踏んでいたのさ、だからサイとブリッジを研究員として潜り込ませ、尻尾を掴もうとしていた」
「……でしでしたら尚更っ!」
「姫様、研究所の悪事を白日の元に晒した場合…私達も民からの信用を失いかねない事になります」
「何故っ!?」
「事が誘拐だけにおさまっていればよかったのですが…町二つを消滅させる事態にまで発展してしまった。これを潜入捜査を行った者達が黙認したと見なされかねないからです、例えその事実を知らされていなかったとしても」
「!」
「間違いなくサイとブリッジは刑を免れません、免罪してしまえば今度は国の威信を失います。つまり二人が犠牲になるか国が責任をとるかの二択になります。もしも事が公になれば」
「………っでしたらこのまま研究所をのさばらしておくとでもでも言いたいのっ!?」
「いえ……方法はあります。王、私は研究所に乗り込んだ連中とやらも姫を騙している可能性があるかと」
「!?」
「もしかしたらですが火山の噴火騒動もその者達の仕業……それを研究所に擦り付けた。余所の工作員である可能性も捨てきれない」
「馬鹿な事言わないでっ!高潔なエルフの国の騎士リーフレインもいるいるのよっ!?」
「閃光騎士もその者たちにたぶらかされた、その確証がないと言いきれますか?」
「言いきれきれるわ!彼らはそんな人達じゃない!」
「……」
「アールステッドの町の人達に聞いてみなみなさい!彼らは町の住民を命を懸けて守った!それが何よりの証拠よ!」
「それすらも自演で行った可能性もあります、王…彼らに罪を被ってもらえれば国も最小限の信用被害におさまります。私達は研究所と第三者、双方から攻撃されたと」
「!!」
「そうすればサイもブリッジも誘拐幇助の件だけで済むかもしれません、願いの少女の件はまた別の問題ですが」
「ふざけないでっ!!御父様!あたくしの目を信用してくださいっ!彼らはこの国の掲げる『正義』そのものの人物よ!その正義を国が見捨てるって言うの!?」
「………」
「その者達が本当に正義であったとしても、国の戦争と信用失墜を回避するためにはそれしかありません。王」
「御父様っ!!」
「………………ルール、部屋に戻っていなさい」
「御父様っ!!何故っ!?」
「連れていってくれ、部屋から出ないように見張っておくんだ」
「「はっ!」」
ガッ
「……離しなさいっ!!御父様っ!何故ですか!?御父様っ!」
…
……
バタンッ!
「……」
--------------
<中央研究所>
-殺&不思議ちゃんチーム-
「ミラクル~ダイナミッ!」
ドゴンッ!
「わっ!?何をするでありますか!」
「ごめ~ん、また失敗しちゃったんだよ。なんか調子悪くなってきたんだよっ」
「急造チームで勝てると思ってーるる?舐めてると怒るんだーるる」
「裏切り者……不思議……殺す…」ブツブツ…
「くっ…!」
殺は相手の能力と不思議ちゃんの能力の失敗により苦戦を強いられていた。
--------------
-エレメント&しゃんチーム-
ドゴッ!!
「くあっ!?」
「人魚ちゃんっ!!」
「いつ見ても醜い戦闘だ、それはただ武器を振り回してるだけって言わないかい?」
「別にい~のよんっ、だってアタシは『死なない』んだから」
「…なんでにゃ…?能力が全部跳ね返ってくる…」
エレの能力はその全てが跳ね返され、大男が振り回す武器によって近接戦闘のできない二人は既に傷だらけだった。
--------------
佰仟VSインフィニティ
【時間短縮】!
「無駄だ」
ザクッ
「…くっ!」
「いくら時間を操れようが無限の前では意味が無い、そう言わなかったか?」
ガクッ…
「…………くそっ……!」
数字遣いの傭兵は全ての能力を見抜かれ、数字において全て相手に支配されていた。
当然だった、無限には全ての数字が含まれているのだから。
--------------
◇【船にて援軍を待つ古心】
<アストレア大陸、海岸>
「嬢ちゃんっ!嵐がこっちに来そうだ!中に入っといた方がいいぞっ!」
「…う、うん」
海岸から見える広い空には暗雲が立ち込める。
それはそこに立つ少女の心模様であり、嫌な予感を示しているようでもあった。
それは雷雲になり音を鳴らし、やがて雨を降らせる。
ゴロゴロゴロ………
サアアァァァァァッッ…………
「……みんな…っ」
「ぎゃひっ、ぎゃひひっ」
「!!」
「ひっさしぶりじゃねぇかぁ、こころ。お前裏切ったんだろぉ?」
「…あんた…生きてたのっ…!?」
「溶岩なんかで、ぎゃひっ、俺が死ぬかよぉ……あ~……あの女……男かぁ女かぁ…女男かぁ~?どっちでもいいけどよぉ……居場所教えろよぉぉこころぉ、じゃねーとお前を殺すぞ。あぁぁあっ!殺してぇぇぇっ!」
「……………っ!させるかよっ!」
漆黒の雲が大陸全土を呑み込もうとしていた。
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