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第五十五話 家族の心配
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長い夢を見ていた。
目が覚めたのは、自室のベッドの上だった。
「あれ……?」
ぼんやりと天井を見上げていると、ドアが開いた。
「隼人!」
月歌が、滑り込むようにベッド脇に近づく。
「お姉ちゃん」
「目が覚めたんだね、よかった……」
月歌の目には、涙が滲んでいた。こぼれ落ちそうなそれに、手を伸ばそうとして、体中痛くて怠いのに気づく。
「辛かったね、隼人。もう大丈夫だから……」
お母さん、と月歌がドアの向こうに、何度も母をくり返し呼んだ。
◇
どうやらあれから隼人は倒れてしまったらしい。病院に連れて行ってもらい、家に帰ってきた。打撲から熱が出て、今まで寝込んでいたと。今日は終業式の日、つまりあれから一日経過していた。
「びっくりしたわ。学校から連絡が来て……」
母が、涙ながらに隼人の手を取る。隼人は、そういえば夢うつつに、母や月歌、父が自分を見下ろす顔を見たような気がした。
そうか、全部夢じゃなかったんだ。体を起こして、水を飲む。体の中にひんやりと染み渡ってしくのがわかる。美味しかった。
「龍堂くんて子がね、ずっと付き添ってくれたのよ。荷物も持ってきてくれて……」
「龍堂くんが?」
『中条!』
龍堂の焦った声がよみがえる。
そうだ、俺はあのとき倒れたんだから、龍堂くんが抱きしめてくれたときに……。隼人は、頰がぱっと熱くなった。
どれだけ心配をかけただろう。隼人は胸が、ぎゅっと苦しくなった。隼人は顔を上げ、母と月歌を見つめる。
「お母さん、お姉ちゃん、心配かけてごめん。ありがとう」
にこ、と笑うと頰に貼られた湿布がべろりと剥がれた。ついでに唇が引きつって、「痛!」と身を屈めた。
「隼人」
母が泣き顔で、隼人の背をさすった。
「無理しないで。ゆっくり休みなさい」
「そうだよ。……ほんとに大変だったね」
隼人は、もうしばらく眠ることにした。まさか、丸一日も寝込んでしまうとは。終業式なのに、間に合いそうにない。
「皆に心配かけちゃったな」
隼人は、感謝と申し訳無さでいっぱいになる。
「……どう説明しよう……」
母も月歌も、たいそう怪我のことを心配していた。隼人の体調などを思って、あえて聞かないでいてくれている、という感じがした。
これだけ心配かけたのだ、話す義務が自分にはあるような気がした。
「でも……」
小説がバレて、めちゃくちゃ殴られた――と言うのだろうか。それとも、もっと前から? どちらにせよ。
「言いづらい……」
目を閉じて、隼人はううんと唸った。皆の誠意に、噓はつきたくない。けれど、言いたくない、それが本音だった。
龍堂がやってきたのは、昼過ぎのことだった。
目が覚めたのは、自室のベッドの上だった。
「あれ……?」
ぼんやりと天井を見上げていると、ドアが開いた。
「隼人!」
月歌が、滑り込むようにベッド脇に近づく。
「お姉ちゃん」
「目が覚めたんだね、よかった……」
月歌の目には、涙が滲んでいた。こぼれ落ちそうなそれに、手を伸ばそうとして、体中痛くて怠いのに気づく。
「辛かったね、隼人。もう大丈夫だから……」
お母さん、と月歌がドアの向こうに、何度も母をくり返し呼んだ。
◇
どうやらあれから隼人は倒れてしまったらしい。病院に連れて行ってもらい、家に帰ってきた。打撲から熱が出て、今まで寝込んでいたと。今日は終業式の日、つまりあれから一日経過していた。
「びっくりしたわ。学校から連絡が来て……」
母が、涙ながらに隼人の手を取る。隼人は、そういえば夢うつつに、母や月歌、父が自分を見下ろす顔を見たような気がした。
そうか、全部夢じゃなかったんだ。体を起こして、水を飲む。体の中にひんやりと染み渡ってしくのがわかる。美味しかった。
「龍堂くんて子がね、ずっと付き添ってくれたのよ。荷物も持ってきてくれて……」
「龍堂くんが?」
『中条!』
龍堂の焦った声がよみがえる。
そうだ、俺はあのとき倒れたんだから、龍堂くんが抱きしめてくれたときに……。隼人は、頰がぱっと熱くなった。
どれだけ心配をかけただろう。隼人は胸が、ぎゅっと苦しくなった。隼人は顔を上げ、母と月歌を見つめる。
「お母さん、お姉ちゃん、心配かけてごめん。ありがとう」
にこ、と笑うと頰に貼られた湿布がべろりと剥がれた。ついでに唇が引きつって、「痛!」と身を屈めた。
「隼人」
母が泣き顔で、隼人の背をさすった。
「無理しないで。ゆっくり休みなさい」
「そうだよ。……ほんとに大変だったね」
隼人は、もうしばらく眠ることにした。まさか、丸一日も寝込んでしまうとは。終業式なのに、間に合いそうにない。
「皆に心配かけちゃったな」
隼人は、感謝と申し訳無さでいっぱいになる。
「……どう説明しよう……」
母も月歌も、たいそう怪我のことを心配していた。隼人の体調などを思って、あえて聞かないでいてくれている、という感じがした。
これだけ心配かけたのだ、話す義務が自分にはあるような気がした。
「でも……」
小説がバレて、めちゃくちゃ殴られた――と言うのだろうか。それとも、もっと前から? どちらにせよ。
「言いづらい……」
目を閉じて、隼人はううんと唸った。皆の誠意に、噓はつきたくない。けれど、言いたくない、それが本音だった。
龍堂がやってきたのは、昼過ぎのことだった。
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