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第23話 ギャンブルに賭ける情熱
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この世界線では、自分の寿命「ライフメータ」が自分自身に埋め込まれている。
それは自分の残り寿命(年や月、日や秒)全てが可視化されて見る事が出来る。
そして最大の特徴は、このライフメータを【時間通貨】として使用出来る事だ。
何か物を買う時は、その時間通貨で買うか、普通の通貨を払うかどちらかを選べる。
仕事で得られる金額は、時間通貨に比べるとかなり少ない金額だ。
だが、一般的に普通に暮らす位だったら、その通貨だけで何とかやっていける。
家を買う時とか、大きな金額が動く際に限定して時間通貨を使う人もいるが、
ごく平凡に暮らしていればよっぽどの事がない限り、普通の通貨だけで生きていけるのだ。
ただ、その普通に当てはまらないヤツも数多くいる。
良い例で言うと、ライフメータが裕福な奴らは買った寿命で何百歳も生きる。
奴らは通常の通貨も沢山持っていて、更に時間通貨も持て余るほど持ってる。
親から子へと引き継がれていくので、その家に生まれた時点で勝ち組確定だ。
悪い例で言うとその反対、貧困層は自分の寿命を切り売りして生活費を賄っている。
病気で仕事につけない人とか、時間通貨を売り尽くして親が亡くなった孤児だとか。
そう言った貧困層は、生きる為に時間通貨を使うしか方法がない。
寿命は短くなり、それでいて一生貧困からは抜け出せないのが現実だ。
一見すると勝ち組負け組の差が激しいクソみたいな世界だが、
俺からすると、この世界は最高に楽しくて狂った世界だ。
俺は生粋のギャンブラーで、毎日命を賭けて勝負をしている。
元々俺の両親が貧困生まれで、生まれた時から時間通貨を両親に使われていた。
貧困層は、沢山子供を作る家庭が多い。
何故なら親の時間通貨が少なくなると、子供を産んでその子供分の通貨で生活をするからだ。
例にも稀ず、自分は6人目の子供だ。
最初の5人は、親の借金時間の肩代わりに使われ死んだ。
俺はギリギリ生きていたが、ある日親がまた借金時間を背負った。
返済を俺の時間で使うと言われた瞬間、俺は逃げ出した。
もう親がいなくても生きていける年齢だったし、そのまま搾取され死ぬのは嫌だった。
その後、両親がどうなったか知らない。
と言うか5人の子供の命を使って返済したのに、また借金を作る馬鹿だ。
俺は消費されるだけの人生で終わるのが嫌だった。
親を見捨てた、と言う罪悪感は少しあるが相手も俺を見捨てた訳だから両成敗だ。
それから俺は、普通に働く事などせず、生粋のギャンブラーとして生きてきた。
正直勝った負けたよりも【自分の寿命を賭けている】
そのスリルを味わう事が、死ぬほど堪らなく、好きなのだ。
ギャンブルの一喜一憂の高揚感を味わってしまうと、普通の仕事なんか出来る訳がない。
そんな俺だが、現時点で残り寿命は後3年だ。
心がギャンブラーなのは良い事だが、正直俺はかなり弱い。
何でか分からないけど、確率が2分の1勝負でも、よく負ける。
やる気はあっても運はない。それが俺だ。
実は正規に認可されていない裏ルートで、時間通貨40年分を前借りしている。
毎月コツコツ返さなければ、延滞3回で強制的に自分の残り寿命を奪われる。
まあ、つまり40年分自分に時間通貨が残ってなければ、死ぬって事だ。
しかし既にもう2回延滞をしている。
後数時間すれば、返済されていない事がバレて連絡が入る筈だ。
俺は返せる当てが見つかっておらず、どうしたものかと腕を組む。
自分を見渡しても、汚い服にボロボロの靴。
貧困層が集まる路地裏では、皆同じ様な服装をしている。
今更自分の身の回りの物で、売れる物など1つもない。
「よーし!残りの人生賭けるっきゃねーよなあ!」
俺は一世一代の勝負に挑むべく、足を踏み出した。
一瞬目がチカチカしたと思ったら、
ここは今までいた路地裏ではない事に直ぐに気がついた。
目の前には沢山の人が行き交っており、
人の頭の上には【獲得賞金】が表示されていた。
俺の世界ではライフメータは任意で表示される様になっており、普段は見えない。
でもこの人達は、そのライフメータの様に獲得賞金が常に頭の上に表示されている。
俺はその光景を見て直ぐに、
自分は今世界線の越境をしていると気付いた。
周りの様子を見るに、ここは俺のいた世界線に近い、もしくは先の世界線だと考察した。
獲得賞金、と言うことならここでもギャンブルが中心となって世界が動いている。
規則なのでAUPDに通報するか、と思ったがある人物と目が合った。
その人は20代位の女性で、こちらに近づいてくる。
「あなた、獲得賞金かなり少ないね。」
そう言われて自分の頭の上を覗き込むと、【80EF】と表示されていた。
彼女を見ると、【97,302,789EF】と他の人よりもかなり大きい額だった。
「目が合うと勝負をする。それが鉄則でしょ。」
女性は俺の戸惑った様子など関係ない様に話す。
「全額ベット。どっちにする?」
そう言って、1枚のコインを出した。
表は何も書かれていない、裏は花の模様が記載されたコインだった。
俺はギャンブラー、スリルに燃える男。
この勝負、乗らない筈がない。
「表、全額ベット。」
そう言うと、女性はウインクをしてコインを真上に高く弾いた。
彼女がコインを受け止めると思って見ていたが、彼女は弾いた瞬間直ぐに後ろへ下がった。
そのままコインは空中から地面へと転がっていく。
地面に落ちた反動で、数回コインがバウンドした。
俺は、高揚する気持ちが止まらなかった。
心の中で表、表!表!!と叫ぶ。
そして、チャリン、と音がしてコインは止まった。
「あら、表ね。あなたの勝ち。」
俺の頭の上に、先ほどまで彼女に表示されていた【97,302,789EF】と言う膨大な額が移動した。
代わりに彼女は【0EF】となった。
俺の世界線だと時間通貨の寿命が0になると死んでしまうのだが、
目の前で彼女は亡くなるのだろうか。
そう心配していたが、彼女は残念そうに「じゃ、対戦ありがと。」と言って普通に去っていた。
ここでは時間通貨で賭け事をしている訳ではないらしい。
0になっても、相手は死なない。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、今度は男と目があった。
男は近づいてきて言った。
「やりますか。全ベット。」
彼は【469EF】だった。
ここの通貨の価値は全然分からないが、数字の差を見ると俺の賭け損じゃないかと思う。
やらないと告げるが、目があったらやらなきゃいけない決まりですよ、と言われた。
仕方なく「じゃあ表で全ベット。」と言うと、彼は先ほどの女性と同じく高くコインを弾いた。
結果は表だった。
彼の数字は0になり、俺は97,302,789,000EFとなった。
「わ、100倍だったんだ。ラッキーだねお兄さん。」と彼は言った。
そのまま立ち去ろうとする彼を引き止めて、少し話を聞いた。
全ベットは共通で、目が合えば勝負開始。
負けたら0になるし、勝った時は1~100倍のレートがランダムに貰えるそうだ。
今回の様に100倍になる可能性はかなり低く、相当運が良いねと言われる。
男性が去った後も、何人も目が合い挑戦を挑んでくる。
元の世界線では運の悪かった俺だが、何故かここでは運が良い。
30人程勝負したが、なんと全勝したのだ。
2分の1の勝負で、連続して30人勝利するのはとてつもない確率だった。
頭の上の額はここらにいる誰よりも数字が大きくなっていた。
俺は興奮しながら、周りにあった色んな店に入った。
今まで着た事がない様な、高そうな服や靴。
店員は客と決して目を合わせない様にするので、店ではギャンブルはしないのだろう。
今まで抑えていた気持ちが爆発し、あれよこれよと目に入る全ての服を買った。
抱えきれない程大量の袋と共に店を出る。
「こんな楽しい経験初めてだー!」
誰に言う訳でもなく、店前で叫んだ。
クスクスと周りの人が笑っている様だが、俺はお構いなしに叫ぶ。
「人生!サイコー!」
この世界線は、大当たりにも程がある。
俺は、ここに来る為に生まれたに違いない。
この世界線で生きていくんだ。
そう思った瞬間、男性2名が目の前に現れた。
「勝負します~?」
無精髭で黒髪の男性がコインを見せて俺を見る。
もう1人、カーキー色の髪の男性が素早く俺の腕を強く掴んだ。
「AUPDでーす。あなたね、通報しないといけないでしょう。気付いてんなら。」
黒髪の男性が俺の胸元に指を突きつけた。
「あー!クッソ!AUPDかよ!俺はここにいたいんだ!離せー!」
腕を掴んでいる男性に殴り掛かろうとするが、その人は華麗に避け更にキツく俺を拘束した。
「何でか知らないですけど、この世界線ではあなたかなりの強運の持ち主みたいですねえ。」
カーキー色の髪をした男性が呆れた様に呟く。
「あ、セイガ。こっちアマギリ。君のその荷物没収ね。」
セイガと言う男が名乗りながら、先ほど買ったばかりの服達を押収する。
「これから移送するのは、限りなく近い世界線で…」
アマギリがそう言ったが俺はそれに遮る様に言う。
「そんなん誰でも知ってるよ!逃げられないしこの世界線に留まる事もできねえんだろ!」
2人は分かってんなら大人しくしてろと言わんばかりに、同時にため息をついた。
「…じゃあ移送しますからね。」
そう言ってアマギリは転送装置を起動した。
「あーーークッソ。戻ってきちまった。」
見渡すと、俺は先ほどと同じく汚らしい格好をしており、
ライフメータを確認するも、今までと同じく3年と記載があった。
0.0001%違う世界線ならちょっとでも変わってないかと期待したが、特に変化は見られなかった。
「あ、もう直ぐ連絡くる時間じゃん。」
ふと思い出して慌てる。
3回目の延滞に王手がかかっているのだ。
迫る借金時間返済の為、俺は賭場へと向かった。
最初のギャンブルで全3年分の時間を賭けた。
さっきまでの億万長者が今やコレだ。
もうヤケクソだった。
死ぬならもうこれで良いか、と全時間通貨をベットした。
すると何と言う事だろうか。
運のない筈の俺が、ハイリスクハイリターンの1発勝負で、見事勝利したのだ。
一気に時間通貨が、104年に増えた。
そのまま慌てて借金時間を返済した。
全時間の即返済を終え、俺は安堵した。
でも、そんなスリルのない人生には興味がない。
このまま普通に働く?
そんな人生楽しくないだろ。
そして数日が経ち、俺は30年分の時間を使い違法の転送装置を購入した。
正直闇ルートからの転送装置は失敗する事が殆どで、世界線の越境はかなり難しい。
模倣に模倣を重ねた実験的な装置だ。
最悪自分の消滅か、越境出来ても誤った座標につく事もある。
30年分の買い物なんて初めてしたので、買った時には冷や汗が出た。
でも、俺はあの世界線を忘れられない。
目が合ったらギャンブルなんて、最高じゃないか。
全額ベットで人生が決まる。
あの世界線では何故か強運の俺だ。
何だって買えるし、何だって手に入る。
「よし、やるか。」
俺は転送装置に座標を打ち込んだ。
正確な座標じゃないかもしれない。
だが、俺の世界線に限りなく近い世界線なのは間違いない。
恐らく、この世界線の更に未来の世界線。
そう検討をつけて座標をある程度絞って入力した。
「さらば、クソッタレの我が世界よ。」
俺はそう呟いて、転送装置を起動した。
「はあ?」
目を開けると、目の前にあの2人、セイガとアマギリが立っていた。
「君ね、懲りないねえ。」
セイガが呆れた様に頭を抱える。
「あー?何でAUPDにバレてんだ?」
俺は困惑して周りを見渡すも、そこはいつも通りの路地裏だった。
転送装置を確認したら、座標はエラー表示が出ており発動もしていない。
「残念ですが、貴方は越境リスクが高いとして、保護観測してます。
そして存在波にも越境禁止タグを仕込んでありますので越境不可ですよ。」
アマギリは淡々と説明した。
「こいつやらかす、って思ってたんだよ。ホントにやるかね普通。」
セイガが近寄ってきて、肩を組んだ。
「いや、違うんだって!ちょっと装置をいじっただけ!」
俺は笑いながら必死でセイガに向かって言い訳をする。
個人での世界線の越境は、違法でAUPDによって捕まる。
それは、何とか回避したい。
「装置もたまたまって言うか、手に入っちゃって!ね!偶然手に入ったの!」
「言い訳はいいですよ。そもそも世界線越境は出来てないですから、注意するだけです。」
アマギリはそう言って大きなため息をついた。
「あ、そっか。結果越境出来てないから捕まんねーのか。なんだ。」
俺はそれに気付いて安心する。
今回は仕方ない、まあ、また次やれば…
「ねね、今。またやればいいって思ったでしょ。」
セイガが鋭く指摘する。
俺はドキッとしたが「いや、思ってない。」と笑った。
「残念、もう一生出来ません。そもそも越境不可だし、次トライしたら絶対捕まえるからね。」
セイガはそう言ってにっこりと微笑んだ。
その後、アマギリによって世界線越境のリスクや違法行為である事など
もうそれは散々と、耳にタコが出来る程言い聞かされた。
もう分かった、分かったからと言い、ようやく2人は帰って行った。
「くそー、30年分使って買ったのに…。」
使えなくなった装置を見て無性に腹が立ち、路地裏に投げ捨てた。
バラバラになったその装置を踏みつけて、俺は悔しさのあまり叫んだ。
「こうなったらギャンブルしかねえ!大金持ちになってやる!」
そうして、俺はまた賭場へと繰り出した。
それは自分の残り寿命(年や月、日や秒)全てが可視化されて見る事が出来る。
そして最大の特徴は、このライフメータを【時間通貨】として使用出来る事だ。
何か物を買う時は、その時間通貨で買うか、普通の通貨を払うかどちらかを選べる。
仕事で得られる金額は、時間通貨に比べるとかなり少ない金額だ。
だが、一般的に普通に暮らす位だったら、その通貨だけで何とかやっていける。
家を買う時とか、大きな金額が動く際に限定して時間通貨を使う人もいるが、
ごく平凡に暮らしていればよっぽどの事がない限り、普通の通貨だけで生きていけるのだ。
ただ、その普通に当てはまらないヤツも数多くいる。
良い例で言うと、ライフメータが裕福な奴らは買った寿命で何百歳も生きる。
奴らは通常の通貨も沢山持っていて、更に時間通貨も持て余るほど持ってる。
親から子へと引き継がれていくので、その家に生まれた時点で勝ち組確定だ。
悪い例で言うとその反対、貧困層は自分の寿命を切り売りして生活費を賄っている。
病気で仕事につけない人とか、時間通貨を売り尽くして親が亡くなった孤児だとか。
そう言った貧困層は、生きる為に時間通貨を使うしか方法がない。
寿命は短くなり、それでいて一生貧困からは抜け出せないのが現実だ。
一見すると勝ち組負け組の差が激しいクソみたいな世界だが、
俺からすると、この世界は最高に楽しくて狂った世界だ。
俺は生粋のギャンブラーで、毎日命を賭けて勝負をしている。
元々俺の両親が貧困生まれで、生まれた時から時間通貨を両親に使われていた。
貧困層は、沢山子供を作る家庭が多い。
何故なら親の時間通貨が少なくなると、子供を産んでその子供分の通貨で生活をするからだ。
例にも稀ず、自分は6人目の子供だ。
最初の5人は、親の借金時間の肩代わりに使われ死んだ。
俺はギリギリ生きていたが、ある日親がまた借金時間を背負った。
返済を俺の時間で使うと言われた瞬間、俺は逃げ出した。
もう親がいなくても生きていける年齢だったし、そのまま搾取され死ぬのは嫌だった。
その後、両親がどうなったか知らない。
と言うか5人の子供の命を使って返済したのに、また借金を作る馬鹿だ。
俺は消費されるだけの人生で終わるのが嫌だった。
親を見捨てた、と言う罪悪感は少しあるが相手も俺を見捨てた訳だから両成敗だ。
それから俺は、普通に働く事などせず、生粋のギャンブラーとして生きてきた。
正直勝った負けたよりも【自分の寿命を賭けている】
そのスリルを味わう事が、死ぬほど堪らなく、好きなのだ。
ギャンブルの一喜一憂の高揚感を味わってしまうと、普通の仕事なんか出来る訳がない。
そんな俺だが、現時点で残り寿命は後3年だ。
心がギャンブラーなのは良い事だが、正直俺はかなり弱い。
何でか分からないけど、確率が2分の1勝負でも、よく負ける。
やる気はあっても運はない。それが俺だ。
実は正規に認可されていない裏ルートで、時間通貨40年分を前借りしている。
毎月コツコツ返さなければ、延滞3回で強制的に自分の残り寿命を奪われる。
まあ、つまり40年分自分に時間通貨が残ってなければ、死ぬって事だ。
しかし既にもう2回延滞をしている。
後数時間すれば、返済されていない事がバレて連絡が入る筈だ。
俺は返せる当てが見つかっておらず、どうしたものかと腕を組む。
自分を見渡しても、汚い服にボロボロの靴。
貧困層が集まる路地裏では、皆同じ様な服装をしている。
今更自分の身の回りの物で、売れる物など1つもない。
「よーし!残りの人生賭けるっきゃねーよなあ!」
俺は一世一代の勝負に挑むべく、足を踏み出した。
一瞬目がチカチカしたと思ったら、
ここは今までいた路地裏ではない事に直ぐに気がついた。
目の前には沢山の人が行き交っており、
人の頭の上には【獲得賞金】が表示されていた。
俺の世界ではライフメータは任意で表示される様になっており、普段は見えない。
でもこの人達は、そのライフメータの様に獲得賞金が常に頭の上に表示されている。
俺はその光景を見て直ぐに、
自分は今世界線の越境をしていると気付いた。
周りの様子を見るに、ここは俺のいた世界線に近い、もしくは先の世界線だと考察した。
獲得賞金、と言うことならここでもギャンブルが中心となって世界が動いている。
規則なのでAUPDに通報するか、と思ったがある人物と目が合った。
その人は20代位の女性で、こちらに近づいてくる。
「あなた、獲得賞金かなり少ないね。」
そう言われて自分の頭の上を覗き込むと、【80EF】と表示されていた。
彼女を見ると、【97,302,789EF】と他の人よりもかなり大きい額だった。
「目が合うと勝負をする。それが鉄則でしょ。」
女性は俺の戸惑った様子など関係ない様に話す。
「全額ベット。どっちにする?」
そう言って、1枚のコインを出した。
表は何も書かれていない、裏は花の模様が記載されたコインだった。
俺はギャンブラー、スリルに燃える男。
この勝負、乗らない筈がない。
「表、全額ベット。」
そう言うと、女性はウインクをしてコインを真上に高く弾いた。
彼女がコインを受け止めると思って見ていたが、彼女は弾いた瞬間直ぐに後ろへ下がった。
そのままコインは空中から地面へと転がっていく。
地面に落ちた反動で、数回コインがバウンドした。
俺は、高揚する気持ちが止まらなかった。
心の中で表、表!表!!と叫ぶ。
そして、チャリン、と音がしてコインは止まった。
「あら、表ね。あなたの勝ち。」
俺の頭の上に、先ほどまで彼女に表示されていた【97,302,789EF】と言う膨大な額が移動した。
代わりに彼女は【0EF】となった。
俺の世界線だと時間通貨の寿命が0になると死んでしまうのだが、
目の前で彼女は亡くなるのだろうか。
そう心配していたが、彼女は残念そうに「じゃ、対戦ありがと。」と言って普通に去っていた。
ここでは時間通貨で賭け事をしている訳ではないらしい。
0になっても、相手は死なない。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、今度は男と目があった。
男は近づいてきて言った。
「やりますか。全ベット。」
彼は【469EF】だった。
ここの通貨の価値は全然分からないが、数字の差を見ると俺の賭け損じゃないかと思う。
やらないと告げるが、目があったらやらなきゃいけない決まりですよ、と言われた。
仕方なく「じゃあ表で全ベット。」と言うと、彼は先ほどの女性と同じく高くコインを弾いた。
結果は表だった。
彼の数字は0になり、俺は97,302,789,000EFとなった。
「わ、100倍だったんだ。ラッキーだねお兄さん。」と彼は言った。
そのまま立ち去ろうとする彼を引き止めて、少し話を聞いた。
全ベットは共通で、目が合えば勝負開始。
負けたら0になるし、勝った時は1~100倍のレートがランダムに貰えるそうだ。
今回の様に100倍になる可能性はかなり低く、相当運が良いねと言われる。
男性が去った後も、何人も目が合い挑戦を挑んでくる。
元の世界線では運の悪かった俺だが、何故かここでは運が良い。
30人程勝負したが、なんと全勝したのだ。
2分の1の勝負で、連続して30人勝利するのはとてつもない確率だった。
頭の上の額はここらにいる誰よりも数字が大きくなっていた。
俺は興奮しながら、周りにあった色んな店に入った。
今まで着た事がない様な、高そうな服や靴。
店員は客と決して目を合わせない様にするので、店ではギャンブルはしないのだろう。
今まで抑えていた気持ちが爆発し、あれよこれよと目に入る全ての服を買った。
抱えきれない程大量の袋と共に店を出る。
「こんな楽しい経験初めてだー!」
誰に言う訳でもなく、店前で叫んだ。
クスクスと周りの人が笑っている様だが、俺はお構いなしに叫ぶ。
「人生!サイコー!」
この世界線は、大当たりにも程がある。
俺は、ここに来る為に生まれたに違いない。
この世界線で生きていくんだ。
そう思った瞬間、男性2名が目の前に現れた。
「勝負します~?」
無精髭で黒髪の男性がコインを見せて俺を見る。
もう1人、カーキー色の髪の男性が素早く俺の腕を強く掴んだ。
「AUPDでーす。あなたね、通報しないといけないでしょう。気付いてんなら。」
黒髪の男性が俺の胸元に指を突きつけた。
「あー!クッソ!AUPDかよ!俺はここにいたいんだ!離せー!」
腕を掴んでいる男性に殴り掛かろうとするが、その人は華麗に避け更にキツく俺を拘束した。
「何でか知らないですけど、この世界線ではあなたかなりの強運の持ち主みたいですねえ。」
カーキー色の髪をした男性が呆れた様に呟く。
「あ、セイガ。こっちアマギリ。君のその荷物没収ね。」
セイガと言う男が名乗りながら、先ほど買ったばかりの服達を押収する。
「これから移送するのは、限りなく近い世界線で…」
アマギリがそう言ったが俺はそれに遮る様に言う。
「そんなん誰でも知ってるよ!逃げられないしこの世界線に留まる事もできねえんだろ!」
2人は分かってんなら大人しくしてろと言わんばかりに、同時にため息をついた。
「…じゃあ移送しますからね。」
そう言ってアマギリは転送装置を起動した。
「あーーークッソ。戻ってきちまった。」
見渡すと、俺は先ほどと同じく汚らしい格好をしており、
ライフメータを確認するも、今までと同じく3年と記載があった。
0.0001%違う世界線ならちょっとでも変わってないかと期待したが、特に変化は見られなかった。
「あ、もう直ぐ連絡くる時間じゃん。」
ふと思い出して慌てる。
3回目の延滞に王手がかかっているのだ。
迫る借金時間返済の為、俺は賭場へと向かった。
最初のギャンブルで全3年分の時間を賭けた。
さっきまでの億万長者が今やコレだ。
もうヤケクソだった。
死ぬならもうこれで良いか、と全時間通貨をベットした。
すると何と言う事だろうか。
運のない筈の俺が、ハイリスクハイリターンの1発勝負で、見事勝利したのだ。
一気に時間通貨が、104年に増えた。
そのまま慌てて借金時間を返済した。
全時間の即返済を終え、俺は安堵した。
でも、そんなスリルのない人生には興味がない。
このまま普通に働く?
そんな人生楽しくないだろ。
そして数日が経ち、俺は30年分の時間を使い違法の転送装置を購入した。
正直闇ルートからの転送装置は失敗する事が殆どで、世界線の越境はかなり難しい。
模倣に模倣を重ねた実験的な装置だ。
最悪自分の消滅か、越境出来ても誤った座標につく事もある。
30年分の買い物なんて初めてしたので、買った時には冷や汗が出た。
でも、俺はあの世界線を忘れられない。
目が合ったらギャンブルなんて、最高じゃないか。
全額ベットで人生が決まる。
あの世界線では何故か強運の俺だ。
何だって買えるし、何だって手に入る。
「よし、やるか。」
俺は転送装置に座標を打ち込んだ。
正確な座標じゃないかもしれない。
だが、俺の世界線に限りなく近い世界線なのは間違いない。
恐らく、この世界線の更に未来の世界線。
そう検討をつけて座標をある程度絞って入力した。
「さらば、クソッタレの我が世界よ。」
俺はそう呟いて、転送装置を起動した。
「はあ?」
目を開けると、目の前にあの2人、セイガとアマギリが立っていた。
「君ね、懲りないねえ。」
セイガが呆れた様に頭を抱える。
「あー?何でAUPDにバレてんだ?」
俺は困惑して周りを見渡すも、そこはいつも通りの路地裏だった。
転送装置を確認したら、座標はエラー表示が出ており発動もしていない。
「残念ですが、貴方は越境リスクが高いとして、保護観測してます。
そして存在波にも越境禁止タグを仕込んでありますので越境不可ですよ。」
アマギリは淡々と説明した。
「こいつやらかす、って思ってたんだよ。ホントにやるかね普通。」
セイガが近寄ってきて、肩を組んだ。
「いや、違うんだって!ちょっと装置をいじっただけ!」
俺は笑いながら必死でセイガに向かって言い訳をする。
個人での世界線の越境は、違法でAUPDによって捕まる。
それは、何とか回避したい。
「装置もたまたまって言うか、手に入っちゃって!ね!偶然手に入ったの!」
「言い訳はいいですよ。そもそも世界線越境は出来てないですから、注意するだけです。」
アマギリはそう言って大きなため息をついた。
「あ、そっか。結果越境出来てないから捕まんねーのか。なんだ。」
俺はそれに気付いて安心する。
今回は仕方ない、まあ、また次やれば…
「ねね、今。またやればいいって思ったでしょ。」
セイガが鋭く指摘する。
俺はドキッとしたが「いや、思ってない。」と笑った。
「残念、もう一生出来ません。そもそも越境不可だし、次トライしたら絶対捕まえるからね。」
セイガはそう言ってにっこりと微笑んだ。
その後、アマギリによって世界線越境のリスクや違法行為である事など
もうそれは散々と、耳にタコが出来る程言い聞かされた。
もう分かった、分かったからと言い、ようやく2人は帰って行った。
「くそー、30年分使って買ったのに…。」
使えなくなった装置を見て無性に腹が立ち、路地裏に投げ捨てた。
バラバラになったその装置を踏みつけて、俺は悔しさのあまり叫んだ。
「こうなったらギャンブルしかねえ!大金持ちになってやる!」
そうして、俺はまた賭場へと繰り出した。
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「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
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青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
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ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
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