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第27話 自由の檻
しおりを挟むこの世界は、自由であるべきだ。
生まれた時から、ずっとそう教えられてきた。
私の両親は【越境自由論】グループの一員だった。
これはAUPDの思想とは反する考え方で、縛られる事がない自由を求めた組織だ。
もちろん法律を違反する様な危険思考なので、普通の人からは忌み嫌われ、異端者として扱われる。
私の両親は、その越境自由論の熱心な信者だった。
だから私はそれが普通の考えだと思っていた。
「AUPDはおかしい、皆の自由を奪う悪い組織だよ。」
両親は子供の私に、毎晩そう言い聞かせた。
自由とは観測されない事なのに、奴らは観測する事で我々の自由を奪っていると。
子供にとって、両親の言う事は絶対だ。
両親がそうと言えば、私もそうだと思う。
だから私もその思考に染まり、AUPDは悪だと本当に心から思っていた。
私たちが過ごしていた世界線では、そう考える人は少数だった。
AUPDにより秩序が守られ、世界崩壊リスクもなく普通に暮らせる。
それが殆どの人の意見だった。
それでも私達のグループは滅ぶ事もなく毎週2回、とある場所で集会をしていた。
集会には両親も私も毎回参加した。
でも私は小さかったので、いつも暇を持て余していた。
それでも大人達は熱心に色々な事を議論していた。
大人達の目は誰もが真剣だった。そのピリピリとした緊張感は今でも直ぐに思い出せる程だ。
「AUPDは自由を奪う。」
「世界線を閉ざすことで、人の可能性を縛る。」
「越境は、人間の当然の権利だ。」
そう言った声が次から次へと聞こえ、議論は白熱していく。
幼心には迷う事なく素直にその言葉が浸透していった。
自由って素敵だな。そんな思いだった。
この様な集会が誰かに知られると、AUPDに通報される。
危険思想と見做され、越境禁止タグをつけられたり最悪AUPDの独自世界線に収容されてしまう。
なので集会は秘密裏に行われていた。
場所は毎回違う所、交代制で周囲を見張る役割すらある。
私の両親は、その組織のリーダーの様な役割を与えられていた。
母親はこの思想に賛同する人を集めるスカウト役。
父親は会合場所や今後の活動について考える幹部。
両者共、捕まるリスクは格段に高かった。
私はそんな両親を心配していたけれど、それでも2人は積極的に活動をしていた。
特に母親は、そう言った思考を持っている人を見つけるのが上手かった。
何度も合って、慎重にメンバーに入れるかを定める。
こうしてメンバーはどんどん増えていった。
メンバーが集まりすぎるとAUPDに通報したりと裏切る人も出てくると思うが、
今まで誰も裏切らなかった。
それほどまでにメンバー全員が団結し、結束が強かった。
両親共々、研究職が本業で世界線の構築理論等の高次元に関わる職についている。
勿論表向きは真っ当な研究者で、社会からも高い評価を受けている。
だが、裏ではその理論を活用して、
越境自由論を確立出来ないかと秘密裏にプロジェクトを進めていた。
当たり前だが、両親は公の場では決して反思想を話さない。
AUPDの話題が出ても、徹底して自分の意見を押し殺し賛同するらしい。
私は小さな頃からずっとその思想を受け続けていた。
だから私は両親と共に【自由】をずっと追い求めていた。
ORAXが発足したのは数年前の事だ。
当時の私達は、その行動に衝撃を受けた。
AUPDにも我々と同じ思想の人がいて、それを実行した人がいる。
反AUPDを掲げたアクシスと言う人物は、当時まるで神様の様に扱われた。
会合ではアクシスの話題で持ちきりだった。
「彼は、AUPDに身を置きながらもやはり間違いに気付いていた」とか、
「我々はやはり間違っていなかったのだ」とか、会合にいた皆が興奮し歓喜していた。
私達は、ついに本当の自由を手に入れられると両親が私を抱きしめて泣いていた。
それから暫く経った頃、越境自由論者のメンバー全員に、アクシスからコンタクトがあった。
ORAX独自の世界線に来ないか、と言う誘いだった。
「自由が欲しければこちらに来なさい」と。
アクシスは、色々な世界線から反AUPD思想の人達を救いたく招待していると言った。
我々は歓喜と共に、自分達の世界線を捨てORAX独自の世界線へ移住した。
私は幼い頃から両親に、高次元に特化した勉強をさせられていた為、
19歳になる今では立派な研究者としてORAXで活動をしている。
十分知識はあったし、周りからは優秀だと言われていた。
私はそこで活躍出来る事が嬉しかったし、両親と共に研究出来て誇らしく思っていた。
ORAXの最大のプロジェクトである「Project Azure」
これはあらゆる観測干渉から完全に自由なゼロ情報空間を作り出し、
その中で初期条件を成形しビックバンを起こす。
つまり、新たな【宇宙生成】が目的だ。
ここにいる全員が賛同し、その「観測されない宇宙」を作り出す事に全力を注いでいる。
私はORAXが掲げている目的を両親から教えてもらった。
自由を得られるんだ、と父親が興奮しながら言った。
最初に聞いた時、そんな事が出来るのかと思ったけど、
そんな壮大な事を計画するORAXはやっぱり凄いし、
そこにいる私も両親もなんて幸運なんだと思った。
私がもう少し大きくなった頃には、
研究室を与えられ、日々研究に没頭する日々を送っていた。
順調に研究は進んで行ったが、やはり高次元の理論構築が出来ていないと
進められない研究も多くなてきていた。
私や両親もその事に頭を悩ませる事が多くなった。
だが、ある時に私は気付いてしまった。
このまま計画が進めば、全宇宙の相位そのものが崩壊する可能性がある事を。
我々の「自由」のために、「全て」を壊してしまうかもしれない。
ORAXの技術力はまだまだ不安定である事は理解していた。
日々最新の技術を持つAUPDとは違い、ここでは独自に研究を重ねている。
現実に、高次元理論が構築出来ていないので研究にも限りがある。
これからもっと優れた人物をスカウト出来れば、消滅のリスクは軽減するかもしれない。
私達も研究は続けていくので、技術力はもっと向上するかもしれない。
でも、その「かもしれない」の可能性では不十分過ぎる。
0.0001%でも間違えば、全部が消えるのだ。
私はそれに気付いてから暫く悩んだ。
今までと同じく、自由を求めてきた思想は変わる事はないが、私達が選択するリスクは大きすぎる。
もしかしたら、私達は、身勝手な存在なのだろうか。
もし失敗したら全ての人の自由を奪い、存在を消滅させる可能性がある。
失敗しなければ良い、でもそんな事今の技術力で可能なのであろうか。
その時、初めて心が揺れた。
AUPDが正しいのではないかと。
彼らは世界線の自由な越境は禁止している。
それを自由を奪うと教えられてきたが、それは世界を守る為に必要なのではないだろうか。
だがそこまで考えて、直ぐに考える事を止めた。
これは決して、絶対に許されない思想だ。
夜、研究室から帰宅した私は両親の目と合わせられなかった。
一時的とは言え反ORAX思想を考えてしまった自分が情けなく、両親に顔向出来ない状態だった。
悪い事を考えてしまった、そんな自覚が十分にあったからだ。
でもそんな私の様子を、鋭く察知したのは母だった。
自室に戻ろうとしている私の手を、強い力で掴み大声で叫んだ。
「こっちを見なさい!」
母がこんなに大きな声を出したのは初めてだった。
恐る恐る目を合わせると、今までに見た事がない位怒った表情だった。
「ナナギ、あなた…何を考えているの。」
母は鋭い眼差してこちらを見ている。
その声に、背筋が凍った。
「なんでもな…」
私がそう言った瞬間、私の声に被せて母が大きな声で言った。
「まさか、“向こう”の考えに染まりかけているのではないでしょうね!」
鋭い目。
いつも柔らかかったはずの母の声が、今は檻のように重かった。
まるで私の心の中を覗かれている様で、私は声も出せなくなった。
近くにいた父も、思い口を開いた。
「私たちは“自由”を信じている。おまえもそのはずだ。」
静かにゆっくりとそう言われ、私は頭の中が真っ白になった。
小さな頃から聞かされているその言葉は、完全に私の思考を奪った。
私は俯いた。
母親は更に強い力で私の手を握っていた。
「……うん。信じてる。」
そう言った言葉は、形だけだった。
何が正しくて、何が悪いのか。
今までは両親の意見が絶対で揺るぎなかった。
でも外部の情報も得られるこの世界では、私は両親の思想を俯瞰して見られる様になっていたのだ。
その後は暫く、何も考えない様に研究に没頭した。
両親を裏切る事は絶対にしたくないが、自分の意見と言うものが芽生え始めてしまった。
それは良くない事だ、恥ずかしい事だと思い込んでは考えるのを止めたが
「考える事」すらいけない事なのだろうか。
自由を求めている組織の筈なのに、思想すら自由でいてはいけないのだろうか。
私にとって、自由とはなんだろう。
私はもしかしたら両親に、ORAXに、この世界線に囚われているのではないだろうか。
AUPDとORAX。
どちらが正しいのか、今はまだ確信は持てない。
でもきっと近い将来分かる日が来るだろう。
その結果が出るまで、私はこの自由という名の檻に閉じ込められている。
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