従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第40話 ラピスの勇気

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あれから、数日が過ぎた。
連れてきたスライムたちは、家の周りを自由に過ごせるようにしていて、特に行動の制限は設けていない。
ラピス以外の子たちは外で好きなように過ごしていて、
野菜で彩られていた家の周囲は、スライムたちによってさらに賑やかに彩られていた。

そこで分かったのは、スライムたちは、俺の言うことを驚くほどよく聞いてくれるということだ。

畑で「雑草だけ食べてほしいな」と伝え、野菜と雑草の違いを教えると、
きちんと雑草だけを食べ、野菜には一切手を出さなくなった。

さらに、何でも食べられるこの子たちは、
家から出るゴミの処分まで引き受けてくれるようになった。

お腹を壊したりしないか少し心配だったけど……
ラピスが「何でも消化できるから大丈夫だよ」と言ってくれたので、
思い切って任せることにした。

スライムたちが、こんなふうに家の周りで過ごす日々が、
ここまで癒しになるとは思わなかった。

――これだけでも、
のんびりライフに一歩近づいている気がする。

そんなことを考えながら数日を過ごし、
再び家を離れて、今日は王都に来ていた。

目的はもちろん、ギルドの別館に転移ゲートを設置するためだった。


「ふぅ! ガーノスさん、できましたよー!
これで、このゲートに俺の記憶を登録して……」

【転移場所の登録が完了しました。
これにより、別館と自宅が繋がりました】

「これで一応、最終工程まで終わったので……
ちょっと、確認してみますね」


いつもと同じように、ごっそりと魔力を持っていかれながら生成し、
最後に俺の記憶を流し込んで、無事に完成した転移ゲート。

恐る恐る、水の壁へと手を入れてみると、
濡れはしないけど、ひんやりとした冷たさだけが伝わってくる。

そして意を決して、
顔をぐいっと水の壁の中へ入れて目を開けると――

そこにあったのは、別館の壁ではなく、ちゃんと俺たちの家と庭だった。


「すご……
本当に、転移ゲート……できちゃったよ……」

「俺にも見せてー!」
「僕も見せてください!」
「おれも、はいる!」
「……我も、一応な」


転移ゲートが完成してしまったという感動と、
これから何かあるたびに呼び出されるんじゃないかという嫌な予感。

その二つが入り混じる中、
クロたちは勢いよくゲートの中へと飛び込んでいった。

そして、転移先が自分たちの家だと分かると、
テンション高めに喜び始めた。


「ヨシヒロ……お前、本当にすげぇな?」

「いやぁ……
正直、ここまでちゃんとできるとは思ってなかったんですけどね?
このゲートは、俺と魔力や魂が繋がっている者しか通れないようにしてあるので、
俺の領地が荒らされる心配もありませんし、安心して使えるのが売りです!」

「じゃあよ。俺たちがお前に依頼を出したい時は、どうすんだ?
これまで通り、伝書ガラスか?」

「あー……そうですね。
伝書ガラスが可哀想なので、
その子だけは通れるようにしておきます」


出来上がった転移ゲートを前に、
ガーノスさんは感心した様子で何度も壁に触れていた。

そして、依頼の連絡手段について聞かれ、
やっぱり来たか……と内心で思う。
伝書ガラスに、わざわざ足を運ばせるのも気が引けたので、
その子だけは通れるように、カラスの記憶をゲートへ登録することにした。

頻繁に来られるのは困るけど、俺の都合で時間を使わせるのも申し訳ない。

そう考えて登録を終えると、ガーノスさんが声をかけてきた。


「ゲートが無事に完成したってことは、俺からアーロンに伝えておく。
何なら、今から一緒に行くか?」

「おっと、残念! 俺、これから海岸の洞窟に行かなくちゃいけなくて。
ラピスの仲間を迎えに行くんです。」

「……なんかよ。
ここに来るたびに従魔が増えてんの、
お前は本当に面白いな、ヨシヒロ」

「ははは……
なんか、増えちゃうんですよね。なぜか」

「じゃあ、それが終わったら戻ってこい。
一緒に晩飯でも食おうぜ」

「我は、肉が良いぞ。ガーノス」

「ははっ、分かってるよ!
ちゃんとうまい飯を用意しておくから、楽しみにしとけ!」

「うむ。良かろう。では、行くぞヨシヒロ」

「では、行ってきます!」


ゲート完成の報告をしに一緒に行くかと誘われたものの、
ラピスの仲間を迎えに行く予定があることを伝えると、
ガーノスさんは「相変わらずだな」と笑った。

用事が終わったら一緒に夕食を取ろう、という約束までしてくれて、
ロウキは当然のように「肉がいい」とリクエスト。

……もう完全に常連だな。

そんなことを思いながら、俺たちはギルドを後にし、
海岸の洞窟へと向かった――








「ヨシヒロ様……僕は、間違っていたのでしょうか?」

「え?」

「人間は、いつも僕たちを討伐します。
初心者には倒しやすいから、と。
それに、薬の材料や衣服の素材になるそうで……誰もが僕たちを苦しめます。
そんな人間に僕が頼ったことで、
あのスライムたちは僕を受け入れられなくなったんじゃないかなって……」

「ラピス……」


海岸へ向かう道中、
ラピスは、いつになく元気のない声で俺に問いかけてきた。
その質問に、どう答えるのが正解なのか、俺には分からなくて。
でも、恨む対象である人間を頼ったことを、
素直に受け入れられない子がいるのは理解できる自分がいた。
そう思っていると、ラピスは言葉を続けた。


「でも、直感したんです。
ヨシヒロ様は、絶対に僕たちを苦しめないって」

「どうしてそう思ったんだ?
俺、別に何もしてなかっただろ?」

「何もしていなかったからです。
一緒にいたロウキ様やクロちゃん、ユキちゃん、
そしてミルくんの表情を見れば、すぐに分かりました。
傷つけるのではなく、討伐対象として見るのでもなく、
家族として一緒にいるんだって」

「……」

「だから僕は、あの日……
ヨシヒロ様の鞄に、必死にもぐりこんで、ついて行ったんです」

「え? あの時、ラピスは鞄に入ってたのか?!
全然、気づかなかった……」


ラピスは、俺が魔物を討伐対象としてではなく、
家族として見ているから助けを求めたと言ってくれた。
その言葉は、俺にとって何より嬉しいものだった。


「勇気を出して、一歩踏み出して良かったって思いました。
これで、皆が討伐されずに済むって……
でも、あのスライムたちは違いました。
人間に頼るなんて間違ってるって……
どうせ、最初だけ優しくして、裏切るんだって……」

「……そうか」

「……」

「そうだな。
いつも討伐される姿を見てきた子たちからすれば、
俺は所詮、人間だ。
信用も信頼もできるはずがない……そう思われるのも、無理はない」

「……」

「でも、だからこそだ。
ラピスの覚悟と、俺の覚悟を、
いつか受け取ってもらえたらって、俺は思うよ」

「ヨシヒロ様……」


ラピスは仲間の為に必死に頑張った。
だけど、その想いが素直に全員に伝わる訳じゃない。
そう思うと、何だかとても切なくなった。

だから俺は、頼ってくれたラピスの願いを、叶えてやりたい。
……とはいえ、無理やり連れ帰ることはできない。

だから今日こそ、少しでも話ができたら――
そんな思いで、洞窟へと向かっていた。


「あれ……?」

「どうした? ラピス」

「スライムの気配がします。
外でスライムの気配がするなんて……」

「もしかして……洞窟から出てきたんじゃ?」

「その可能性はあるな。
この辺のスライムは、もう家にいるのだろう?
となると……あの4匹の可能性が高いな」

「そんな……!
この辺り、冒険者だっているのに!」

「とにかく、探そうぜ!」


洞窟のすぐ側まで近づいた、その時だった。
俺には感知できなかったけど、
ラピスが「スライムの気配がする」と言って、きょろきょろと辺りを見回し始めた。

あの洞窟には結界を張ってある。
人間は入れないけど、スライムたちは出入りできる。

――まさか。
洞窟を出て、どこかへ行ってしまったんじゃないか……?

そう思った瞬間、一気に不安が押し寄せ、俺たちは手分けして探すことにした。

この洞窟が嫌になったのか?それとも、何か事件が起きて飛び出したのか……

ここは海岸で、森のように隠れられる場所はほとんどない。
あの時のように液体化して岩場に溶け込んでいるなら、まだいい。

だけど、外には危険な魔物だっている。
早く、見つけないと。

そう思いながら、俺はラピスが感じ取っているスライムの気配を、必死に追いかけた――
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