従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第100話 見つけた亡骸

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せっかく洞窟の在り処が分かったかもしれないというのに、湖の中ではどうすることもできない。
誰かが湖の水を全部吸い上げてくれたら助かるんだけど……
でも、そんなことをしたら湖の生き物たちにも影響が出てしまう。
そう考えると、やっぱり諦めるしかないのか……?


「パーパー!」

「ん? なぁに、あっくん。」

「あっくんは凄いんだよ。あっくはアクアベアなんだから」

「……え?」

「見てて。ちゃんと、見ててねパーパー」

「え、ちょ、あっくん?!」


完全に詰んだ――
その場にいた全員がそう思っていた、まさにその時だった。

ひょこひょこと前に出てきたあっくんは、「自分はアクアベアなんだからね」と胸を張り、湖の前に仁王立ちした。
そういえば、あっくんは元々アクアベア。水辺で生活できる特殊な魔獣だった。

ただ……今は子供の姿だ。
この状態で無理をさせたら、負担が大きすぎるんじゃないか?

そう思いはしたものの、ここは見守るしかない。
皆で視線を向け、あっくんが何をするのかを見届けることにした。


「僕は、あっくんだよー!
この湖は、あっくんの縄張りだよー!」


なぜか自己紹介を始め、しかも縄張り宣言までし出した。
意味が分からず戸惑っていると、湖の水面がざわざわと揺れ始める。

波紋が、逆流するように中央へ集まっていく。
一体、何が起きているんだ……?

そう思った次の瞬間、あっくんは大きく息を吸い込み――


「グオオオオオオ!」

「ええええええっ!?」

「あっくん声でけぇ主!!」


可愛らしい外見からは想像もできないほど、野性味あふれる雄たけびが湖に響き渡った。
その瞬間、水面は大きく揺れ、まるで荒波のようにバシャバシャと暴れ出す。

そして、一瞬静まり返ったかと思った次の瞬間――
中央から左右へ、ドォンッ!!と音を立てて水面が割れた。

まるで――“十戒”。

あまりの光景に、誰一人として言葉を失った。
ただ一人、あっくんだけが満面の笑みで、
「今すぐ褒めて!」と言わんばかりに俺を見つめてくる。


「あっくんだって、皆の役に立てるんだからね!」

「あっくん!! とんでもない子だよ!!
もうっ! 本当に凄いよ、あっくん!!」

「へへへへっ!」


思わず抱き上げて、全力で褒めちぎる。
あっくんはますます嬉しそうに笑い、その笑顔に、俺の心は一気に癒された。

……だけど。

モモにしても、あっくんにしても。
やっぱり、能力値が高すぎないか?
俺の家族、優秀すぎて……
正直、俺の存在がかすんでる気がする。
……まあ、いいけどさ。


「降りるぞー。皆、気を付けてな」

「今回はモモとあっくんが良い仕事をしておるな」

「だな。まだ子供だと思ってたけど、力は大人顔負けだ。普通にエグい」


あっくんのおかげで、俺たちは何の苦労もなく湖の底まで降りることができた。
湖の壁の向こうでは魚たちが悠々と泳いでいて、まるで天然の水族館のようだ。

しかも聖水の湖だけあって、水は驚くほど澄んでいる。
その中を泳ぐ魚の姿は、息を呑むほど幻想的だった。


「ここが……洞窟か。
よし……ルーメンス!」


洞窟まではさほど距離もなく、すぐにたどり着けた。
灯りを灯すと、入口付近には海藻や貝殻が散らばっている。
普段は水中にある場所なのだろう。

少し進むと階段が現れ、水辺を抜けて陸地エリアへ。
魔物の気配はなく、ただ静寂だけが広がっている。
響くのは、俺たちの足音と、かすかな呼吸音だけだった。


「あっくん、あの湖の割れはいつまで持続するの?」

「えー? 知らなーい! でも、ずっとじゃないよ!」

「そっかぁ……
じゃあ、この洞窟が森のどこかに出口として繋がってるといいんだけど」

「木々の香りがします!
多分、出口はあると思います、あるじさま!」

「さすがユキ。鼻が利くな。
じゃあ、出口までに騎士を見つけられるのが理想だな」


湖の“十戒割れ”がどれくらい持つのかは分からない。
それでも、ユキの言葉で、この洞窟から出られる可能性が見えたことで、少しだけホッとした。
あとは――眠る王国騎士を見つけてあげられれば、それでいい。

そう思いながら歩き続けていると、
力尽きた人々の姿が、次第に増えていった。

手に“お宝”とされる貴金属を握り締めたままの者。
最後まで戦おうとしたのか、武器を離さなかった者。

ここまで多くの人の最期を目にする人生なんて、今まで送ってこなかった。
胸の奥が、言葉にできない感情で埋まっていく。

重く、静かで、どうしようもなく――
ただ、歩みを止めずに進むしかなかった。


「主ー! 向こうに見たことある鎧あったー!」

「見たことある鎧? 行ってみようか」


複雑な気持ちを抱えながら歩いていると、前を進んでいたユキとクロが「見覚えのある鎧がある」と叫んだ。
あの二人が“見たことがある鎧”と言うなら……もしかして。

淡い期待を胸に、クロたちが呼ぶ方へ向かう。
そこに横たわっていたのは、痛々しい姿となった王国騎士だった。

……多分、この人だろう。


「明らかに魔物にやられておるな……」

「そうだね……お腹のあたり、えぐられてるもんね……」


王国騎士団の鎧を身に纏ったその人は、腹部を鎧ごと半分ほどえぐられていた。
一目見ただけで、致命傷だと分かる。

どういう経緯でここまで来たのかは分からない。
だけど、不運にも魔物に襲われ、この場で命を落としたのだろう。

そして、この傷を負わせた魔物は、間違いなく大型だ。
ここまでえぐれるなんて、普通じゃない。


「とりあえず……見つけられて良かった。連れて帰ろう……
……クレオ!」

「棺か……」

「うん。簡易的なものだけど……
そのまま空間収納に入れるわけにはいかないだろう?
シトリン、強化しておいてくれる?」

「オッケー! じゃあオイラがやるね!」


騎士を連れ帰るには、空間収納に入れる必要がある。
そのためには、最低限の礼として棺を用意しなければならない。
知らない人とはいえ、雑に扱うことはできない。
そう考え、クレオで棺を生成し、シトリンに強化を頼んだ。


「我が連れ出そう。」

「わ、浮かせられるんだ?すごいね、ロウキ。」


白骨化していることもあり、どう棺に収めるか悩んでいたところ、
ロウキが前に出て浮遊魔法で騎士を持ち上げ、そのまま静かに棺へと収めてくれた。
……いざという時、本当に頼りになるな。ロウキって。


「よし……もう少し待っててくださいね。
ちゃんと、連れて帰りますから」

「主、じゃあ出口まで行こうぜー!」

「そうだな。出発しよう」


無事に騎士を空間収納へ収めた俺たちは、少し早足で洞窟を進んだ。
この洞窟に、他にも危険な魔物が潜んでいる可能性は十分にある。

……まあ、俺以外はとんでもなく強いから、心配はいらないんだけど。
困るのは俺だ。
やっぱり非力な人間にとって、こういう場所は危険すぎる。

そんなことを考えながら歩いていると、ところどころに貴金属が落ちているのが目に入った。
ロウキに「拾っておけ」と言われ、手分けして鞄に詰め込む。
あとで換金すれば、きっといい値で引き取ってもらえるんだろうな。


「あ、出口だー!
ちょっと見てくるから待ってて主! ユキ、行くぞー!」

「はい! クロ兄さん!」


そうして進んでいくと、出口らしき光が見え始めた。
俺が怖がっているのを分かっているクロは、ユキと一緒に先に外の様子を確認しに行ってくれる。

「大丈夫だよ」という声を聞いて外に出ると、
そこは森の中とは思えないほど開けた場所だった。

木々はなく、広場のような空間。
……あの騎士や、他の人たちも、ここから洞窟に入ったのだろうか?


「ここ、もしかしてキャンプ地なのかな?
誰かが開拓して作った感じがしない?
明らかに人の手が入ってるよね」

「そうだな。誰が作ったかは分からぬが、過ごしやすい空気ではあるな。」

「わぁ! 今日はパッパたちとお泊り?!」

「違うよー、シンゴー!
こんな怖いところにお泊りしないからね!」

「大丈夫だよー! シンゴが護ってあげるからぁ!」


この場所を見た途端、シンゴたちは「お泊りだ」と大はしゃぎし始めた。
絶対にそんなことしないからね!?

そう思いながら周囲を見回すと、やっぱり誰かが意図的に整えたように感じられる。
洞窟もあり、雨風をしのげて、寝泊まりもできそう。

ということは――
この森に住んでいる人がいるのか、
もしくは、この森を攻略するために能力を使って開拓した人物がいるのか。
どちらにしても、考えれば考えるほど不安になる。

一刻も早く、この森を出たい。
そう思いながら、俺だけが心の中で悲鳴を上げていた。

……どうしよう。
皆、ここで遊ぶ気満々なんですけど?!

ロウキには「諦めろ」と言われるし、
ミルもこの場所が気に入ったのか、本来の大きさに戻って皆とはしゃぎ始めている。

まあ、分かる。
本来の姿で過ごすのが、一番楽に決まってる。

それでも――
どうやって皆を説得して、この森を出る方向へ持っていくか。
俺は必死に頭をフル回転させていた――……
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