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第1章
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勃起した男のペニスを美しいと思ったのも、そのせいで私の体がこんなふうに淫らに欲情すると知ったのも、このときが初めてだった。
綾瀬カリナ、27歳。
平凡な会社員だった私が世にもふしだらな性癖を自覚してしまったのは、夏の終わりのこと。きっかけはネットサーフィンで。
その日は仕事の些細なミスのせいですっかり落ち込んで、やや自暴自棄気味に自宅でひとりヤケ酒を煽っていた。SNSに愚痴を書き込んでやろうかと手にしたスマホの、偶然開いた画面に表示されたアダルト広告。
普段ならばノールックで「閉じるボタン」をタップするところだが、その夜はわずかな好奇心が私の判断を鈍らせた。
そうして迷い込んでしまった、有料会員限定のアダルトサイト「裏Fans」。どうやらプロのアダルト動画を閲覧できるサイトではないらしく、素人のエロ動画が投稿されているいわゆる裏垢サイトらしかった。
画面いっぱいにずらっと並ぶサムネイルは、陰部や顔にこそモザイクがかけられているが、いや、モザイクがかけられているからこそ、静止画だけでも卑猥だとわかるようなものばかり。
「うっわぁ、露骨なのばっかだな⋯⋯」
お酒が入っているとはいえ、知らない男女のセックス動画を見たいとは思わないし、これまでにそう思ったことなど一度もない。
慎ましやかな学生生活を終えた後、都内の小さな印刷会社に入社して真面目に労働していた私にとってここは未知なる領域だ。恋人は過去に片手で数えるほどしかいなかったが、まさか夜の営みをネットに投稿しようなどと思いついたことすらなかった。
だからだろうか、女性が恥ずかしげもなく肌を晒すサムネイルの絵面に、少しグロテスクさを感じる。私とは住む世界の違うひとたち。関わることのない世界。
そう思っていた、のに。
惰性でスクロールした先に現れた、サムネイルに映るひとりの男に目を奪われた。
口元は黒いマスクに覆われ、目元しか見えない。その瞳が魅力的だった。
ミステリアスな薄灰色の双眸を囲むアーモンドみたいな形のまぶた。切れ長でいてどこか人懐っこさを覚えるのは、まなじりのあたりに小さなほくろがあるからだろうか。泣きぼくろ。
ふんわりとセンター分けになった漆黒色の前髪が目元に翳りを作り、男性らしく骨張った広く白い額とのコントラストを演出している。
そしてなによりその肉体だ。衣服は着ておらず、美しく隆起した胸板と腹筋を惜しげもなく披露してくれている。私の視線を釘付けにしたのはそのもう少し下のほう。
彼の右手に握り込まれた立派なペニスが、息を呑むほど美しい形をしていたのだ。
「すご、おっきい⋯⋯」
太い幹に張り付くように浮き立つ血管の筋。丸みを帯びた亀頭は赤く剥き上がり、その先端からぷくりと汁を溢れさせている。不快感を感じない理由は、下生えが無いからだ。本来ならばそこを覆っているはずの黒い茂みが綺麗さっぱり剃毛されているから、勃起ペニスが生々しく大写しになっても嫌悪感がないのだ。
口内の奥のほうから、生唾がじゅわっと込み上げてくる。
かつての恋人たちのそれを思い出してみても、形やサイズだけでなく反り返りの角度でさえ比べ物にならない。というか、彼らのそれをこんなふうにじっくりと観察したことなどなかったのかもしれない。
そこでようやく、彼のサムネイルにだけモザイクがかかっていないことに気がついた。
「あれ、なんで……?」
よく見ると「LIVE」というアイコンがついている。ということは、これは生配信ということ? 反射的にサムネイルをタップすると「有料会員限定」というポップアップが出た。そりゃそうか、無料で見られるわけがない。
ずびびっと缶ビールを飲み下す。
サムネイルの下には動画のタイトルと初期設定のままのアイコン、ユーザーネームらしき文字が並んでいる。
『【生配信】デカマラ現役DDがシコるとこ見てシコって寝ろ』@KYO
挑発的なタイトルに、ふっと笑みがこぼれる。DDが何の略だかわからないけど、ちょっと生意気そうなキャラってことはわかった。
あと「デカマラ」って何。自称? 自信ありすぎて笑えるんだけど。確かにサムネイルで見る限りはかなり大きいけれど。
ふたたび缶ビールを口につけると同時に、指先が向かうのは新規会員登録のボタン。
ほんの少しの好奇心だ。怖いもの見たさ、というのもあるのかもしれない。
自称デカマラの彼のペニスがどんなふうに快感を得て達するのかを、見てみたかった。
私は光の速さで会員登録を終え、気づけばサムネイルの再生ボタンを押していた。
綾瀬カリナ、27歳。
平凡な会社員だった私が世にもふしだらな性癖を自覚してしまったのは、夏の終わりのこと。きっかけはネットサーフィンで。
その日は仕事の些細なミスのせいですっかり落ち込んで、やや自暴自棄気味に自宅でひとりヤケ酒を煽っていた。SNSに愚痴を書き込んでやろうかと手にしたスマホの、偶然開いた画面に表示されたアダルト広告。
普段ならばノールックで「閉じるボタン」をタップするところだが、その夜はわずかな好奇心が私の判断を鈍らせた。
そうして迷い込んでしまった、有料会員限定のアダルトサイト「裏Fans」。どうやらプロのアダルト動画を閲覧できるサイトではないらしく、素人のエロ動画が投稿されているいわゆる裏垢サイトらしかった。
画面いっぱいにずらっと並ぶサムネイルは、陰部や顔にこそモザイクがかけられているが、いや、モザイクがかけられているからこそ、静止画だけでも卑猥だとわかるようなものばかり。
「うっわぁ、露骨なのばっかだな⋯⋯」
お酒が入っているとはいえ、知らない男女のセックス動画を見たいとは思わないし、これまでにそう思ったことなど一度もない。
慎ましやかな学生生活を終えた後、都内の小さな印刷会社に入社して真面目に労働していた私にとってここは未知なる領域だ。恋人は過去に片手で数えるほどしかいなかったが、まさか夜の営みをネットに投稿しようなどと思いついたことすらなかった。
だからだろうか、女性が恥ずかしげもなく肌を晒すサムネイルの絵面に、少しグロテスクさを感じる。私とは住む世界の違うひとたち。関わることのない世界。
そう思っていた、のに。
惰性でスクロールした先に現れた、サムネイルに映るひとりの男に目を奪われた。
口元は黒いマスクに覆われ、目元しか見えない。その瞳が魅力的だった。
ミステリアスな薄灰色の双眸を囲むアーモンドみたいな形のまぶた。切れ長でいてどこか人懐っこさを覚えるのは、まなじりのあたりに小さなほくろがあるからだろうか。泣きぼくろ。
ふんわりとセンター分けになった漆黒色の前髪が目元に翳りを作り、男性らしく骨張った広く白い額とのコントラストを演出している。
そしてなによりその肉体だ。衣服は着ておらず、美しく隆起した胸板と腹筋を惜しげもなく披露してくれている。私の視線を釘付けにしたのはそのもう少し下のほう。
彼の右手に握り込まれた立派なペニスが、息を呑むほど美しい形をしていたのだ。
「すご、おっきい⋯⋯」
太い幹に張り付くように浮き立つ血管の筋。丸みを帯びた亀頭は赤く剥き上がり、その先端からぷくりと汁を溢れさせている。不快感を感じない理由は、下生えが無いからだ。本来ならばそこを覆っているはずの黒い茂みが綺麗さっぱり剃毛されているから、勃起ペニスが生々しく大写しになっても嫌悪感がないのだ。
口内の奥のほうから、生唾がじゅわっと込み上げてくる。
かつての恋人たちのそれを思い出してみても、形やサイズだけでなく反り返りの角度でさえ比べ物にならない。というか、彼らのそれをこんなふうにじっくりと観察したことなどなかったのかもしれない。
そこでようやく、彼のサムネイルにだけモザイクがかかっていないことに気がついた。
「あれ、なんで……?」
よく見ると「LIVE」というアイコンがついている。ということは、これは生配信ということ? 反射的にサムネイルをタップすると「有料会員限定」というポップアップが出た。そりゃそうか、無料で見られるわけがない。
ずびびっと缶ビールを飲み下す。
サムネイルの下には動画のタイトルと初期設定のままのアイコン、ユーザーネームらしき文字が並んでいる。
『【生配信】デカマラ現役DDがシコるとこ見てシコって寝ろ』@KYO
挑発的なタイトルに、ふっと笑みがこぼれる。DDが何の略だかわからないけど、ちょっと生意気そうなキャラってことはわかった。
あと「デカマラ」って何。自称? 自信ありすぎて笑えるんだけど。確かにサムネイルで見る限りはかなり大きいけれど。
ふたたび缶ビールを口につけると同時に、指先が向かうのは新規会員登録のボタン。
ほんの少しの好奇心だ。怖いもの見たさ、というのもあるのかもしれない。
自称デカマラの彼のペニスがどんなふうに快感を得て達するのかを、見てみたかった。
私は光の速さで会員登録を終え、気づけばサムネイルの再生ボタンを押していた。
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