109 / 484
第一部「ハルコン少年期」
18 シルファー殿下の査察_04
しおりを挟む
* *
翌日、シルファー殿下の査察団一行は、ロスシルド領の普請工事の現場に向かっている。
一方、ハルコンとミラは、午後に査察予定のシルウィット領の現場に直行していた。
でも、ハルコンとしては、他領の様子も大変気になるところだ。せっかくだから、殿下の侍女セロンに思念を同調させて、向こうの様子を観察しようと思った。
数刻程経過した後、殿下達がご覧になられたのは、とにかく作業人員でごった返す過密な現場だった。
とにかく、旧式の道具のみでひたすらマンパワーに頼って掘り進むという、かなり手際の悪い工事。
セイントーク領の現場が完了している噂を聞き、工期圧力を現場に必要以上に迫る技官達の悲鳴。不満そうに働く作業員達の群れ。
さすがのハルコンも、その様子を見て、これは酷いねぇと思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「ねぇ~っ、どうしたのハルコン? 何かうんざりした顔をしてるよ?」
ミラが不思議そうな顔をして訊ねてくる。
ハルコンとミラの目前の現場は整然としており、人員が適材適所に配置されていて、極めて合理的だ。
対岸には、殿下の午後の到着を前に現場の指揮を執る、ローレル卿と家臣団の一群が見られた。
「うぅん、何でもないよ。殿下が査察に向かわれたロスシルド領の現場が、ちょっと気になっただけさ」
「ふぅ~ん、そうなんだ」
ハルコンは、ひとつ頷くと、再び殿下の侍女セロンに思念を向け始めた。
遅々として進まない現場に、ロスシルドの技官は苛立ちを隠せない様子。
中には仕事のハカがいかない若年層や高齢の作業員達を鞭で脅したり、逆に強面の輩を宥めすかしたりする技官もいた。
とにかく、早く工事を終わらせようと躍起になっている有様だが、……いやぁ~、これは酷いブラック現場ですなぁと、ハルコンの眉間の皺がますます深くなる。
「まぁ、これが通常の工事なのですが。昨日のセイントーク領を見た後では、いやはや……」
査察団の技官が、現場の酷さに圧倒された殿下の気持ちを汲み取るように、正直に感想を述べているのが印象的だった。
「ロスシルド領は大体ワカりました。ですから、午後はシルウィット領の現場に向かうことにしましょう! ハルコン様とミラさんもお待ちなそうなので!」
シルファー殿下はそう仰って、査察団に向かってにこやかに微笑まれるが、疲労の色は隠せない。
侍女セロンの目を通して、殿下、大変お疲れ様でございましたと、ハルコンは心からそう思った。
翌日、シルファー殿下の査察団一行は、ロスシルド領の普請工事の現場に向かっている。
一方、ハルコンとミラは、午後に査察予定のシルウィット領の現場に直行していた。
でも、ハルコンとしては、他領の様子も大変気になるところだ。せっかくだから、殿下の侍女セロンに思念を同調させて、向こうの様子を観察しようと思った。
数刻程経過した後、殿下達がご覧になられたのは、とにかく作業人員でごった返す過密な現場だった。
とにかく、旧式の道具のみでひたすらマンパワーに頼って掘り進むという、かなり手際の悪い工事。
セイントーク領の現場が完了している噂を聞き、工期圧力を現場に必要以上に迫る技官達の悲鳴。不満そうに働く作業員達の群れ。
さすがのハルコンも、その様子を見て、これは酷いねぇと思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「ねぇ~っ、どうしたのハルコン? 何かうんざりした顔をしてるよ?」
ミラが不思議そうな顔をして訊ねてくる。
ハルコンとミラの目前の現場は整然としており、人員が適材適所に配置されていて、極めて合理的だ。
対岸には、殿下の午後の到着を前に現場の指揮を執る、ローレル卿と家臣団の一群が見られた。
「うぅん、何でもないよ。殿下が査察に向かわれたロスシルド領の現場が、ちょっと気になっただけさ」
「ふぅ~ん、そうなんだ」
ハルコンは、ひとつ頷くと、再び殿下の侍女セロンに思念を向け始めた。
遅々として進まない現場に、ロスシルドの技官は苛立ちを隠せない様子。
中には仕事のハカがいかない若年層や高齢の作業員達を鞭で脅したり、逆に強面の輩を宥めすかしたりする技官もいた。
とにかく、早く工事を終わらせようと躍起になっている有様だが、……いやぁ~、これは酷いブラック現場ですなぁと、ハルコンの眉間の皺がますます深くなる。
「まぁ、これが通常の工事なのですが。昨日のセイントーク領を見た後では、いやはや……」
査察団の技官が、現場の酷さに圧倒された殿下の気持ちを汲み取るように、正直に感想を述べているのが印象的だった。
「ロスシルド領は大体ワカりました。ですから、午後はシルウィット領の現場に向かうことにしましょう! ハルコン様とミラさんもお待ちなそうなので!」
シルファー殿下はそう仰って、査察団に向かってにこやかに微笑まれるが、疲労の色は隠せない。
侍女セロンの目を通して、殿下、大変お疲れ様でございましたと、ハルコンは心からそう思った。
193
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる