天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司

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第一部「ハルコン少年期」

37 研究所の長い一日_02

   *          *

 ハルコンは、王立学校が夏休み期間に入っているため、ここ最近は朝から晩まで研究所で過ごすことの方が多かった。
 
 現在30のプロジェクトが進行中で、そのひとつひとつの会議に出席しては、各プロジェクトの進捗具合に気を配っている。
 
 ホンと、……私はまだ11歳なのに、ちゃんと所長をしているよなぁと、ハルコンは思う。
 
 あまりの激務に、たまに意識が飛びそうなことがあるものの、懐にいつも忍ばせているハルコンBの小瓶を取り出すと、こくりこくりと飲み干した。
 すると、いつものように、丹田の辺りから沸々とパワーが漲ってくる。
 
 ふふふっ。管理者なんてガラじゃないと思っていたけれど、……。
 
 まぁ、私がこの役職を務めることで、周りが十二分に動くことができるのだから。
 適材適所、何とかやっていきますか!
 
 ハルコンは両頬を軽く叩いて気合を入れ直すと、深夜の光魔石の灯りが煌々と照らされた廊下を、足早に歩いていった。
 
 翌朝早くのことだ。
 いつものように所長室に入ると、机に山と積まれた書類のひとつひとつに目を配り始める。

「おはようございます。ハルコン所長、今朝もお早い出勤ですね?」

 秘書が笑顔で訊ねてくる。
 それに対し、「いいえぇ、昨晩仮眠室で2時間ほど寝た後、こうして書類に目を通していたのですよ」と、事もなげに返事をしたら、秘書は年上らしくお小言をいう素振りを見せ始めた。

「所長。あなたはもっとご自分の体を大事になさるべきですよ。今、ここで倒れられてしまっては、我々の計画が全て頓挫してしまいかねません。いいですか? 所長に今必要なのは、適度な休暇なんですからね!」

 こちらの目の色を探るように話しかけてくれるのは、大変ありがたいんだけど。
 でも、この仕事って遣り甲斐があって、とても毎日が充実しているんだよね。

「ワカりました。善処します」

「はい。それでは所長。先ほど早便でこちらが届いたのですが、……」

 ハルコンは笑顔でその書簡を受け取ると、開封してからざっと目を通す。

「ふむふむ、……いいですね!」

 ハルコンはその書簡に改めて目を落とした後、思わず感心して、自然と笑みがこぼれた。

「所長。サスパニア国からは、よい返事が頂けたのですか?」

「はいっ。サスパニアとは永らく国交が途絶えていましたが、この度、国交回復に前向きに検討して頂けるようです」

 サスパニアは、隣国コリンドの西に位置し、ハルコン達のいるファイルド国からは、一度コリンド国内を経由することになる。

 数年前までコリンドとは戦争状態にあったため、サスパニアと接触するには急峻な山岳ルートを使わざるを得ず、どうしても疎遠にならざるを得なかったのだ。

 それがコリンドとの国交を樹立以降、サスパニアとも接触する機会が増え、貿易量も年々増加傾向にあるのだ。

「そうでしたか。さすがはハルコン所長。今回もまた、エリクサー外交が上手くいったようですね」

「はいっ。先方がエリクサー(ハルコンBのこと)を欲していることと、我が国の衛生環境インフラに強い関心を持ったようです。これもひとえに国が『善隣外交』にシフトしたことが大きいですね」

「では、我々は王宮と連携して、今後の日程を調整したいと思います。今回、所長も現地までご足労頂くことになりますが、……それは構いませんか?」

「はい。学校が夏休み期間に入りましたので、9月まで2カ月の余裕があります。ハルコンBが用意出来次第、我々も現地に向かうこととしましょう!」

 その言葉を聞き、秘書は廊下に待機していたメッセンジャーボーイに言伝を依頼する。
 すると、少年はこくりとひとつ頷くと、いつものように駆け足で早朝の王宮に向かっていった。
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