304 / 485
第一部「ハルコン少年期」
37 研究所の長い一日_02
しおりを挟む
* *
ハルコンは、王立学校が夏休み期間に入っているため、ここ最近は朝から晩まで研究所で過ごすことの方が多かった。
現在30のプロジェクトが進行中で、そのひとつひとつの会議に出席しては、各プロジェクトの進捗具合に気を配っている。
ホンと、……私はまだ11歳なのに、ちゃんと所長をしているよなぁと、ハルコンは思う。
あまりの激務に、たまに意識が飛びそうなことがあるものの、懐にいつも忍ばせているハルコンBの小瓶を取り出すと、こくりこくりと飲み干した。
すると、いつものように、丹田の辺りから沸々とパワーが漲ってくる。
ふふふっ。管理者なんてガラじゃないと思っていたけれど、……。
まぁ、私がこの役職を務めることで、周りが十二分に動くことができるのだから。
適材適所、何とかやっていきますか!
ハルコンは両頬を軽く叩いて気合を入れ直すと、深夜の光魔石の灯りが煌々と照らされた廊下を、足早に歩いていった。
翌朝早くのことだ。
いつものように所長室に入ると、机に山と積まれた書類のひとつひとつに目を配り始める。
「おはようございます。ハルコン所長、今朝もお早い出勤ですね?」
秘書が笑顔で訊ねてくる。
それに対し、「いいえぇ、昨晩仮眠室で2時間ほど寝た後、こうして書類に目を通していたのですよ」と、事もなげに返事をしたら、秘書は年上らしくお小言をいう素振りを見せ始めた。
「所長。あなたはもっとご自分の体を大事になさるべきですよ。今、ここで倒れられてしまっては、我々の計画が全て頓挫してしまいかねません。いいですか? 所長に今必要なのは、適度な休暇なんですからね!」
こちらの目の色を探るように話しかけてくれるのは、大変ありがたいんだけど。
でも、この仕事って遣り甲斐があって、とても毎日が充実しているんだよね。
「ワカりました。善処します」
「はい。それでは所長。先ほど早便でこちらが届いたのですが、……」
ハルコンは笑顔でその書簡を受け取ると、開封してからざっと目を通す。
「ふむふむ、……いいですね!」
ハルコンはその書簡に改めて目を落とした後、思わず感心して、自然と笑みがこぼれた。
「所長。サスパニア国からは、よい返事が頂けたのですか?」
「はいっ。サスパニアとは永らく国交が途絶えていましたが、この度、国交回復に前向きに検討して頂けるようです」
サスパニアは、隣国コリンドの西に位置し、ハルコン達のいるファイルド国からは、一度コリンド国内を経由することになる。
数年前までコリンドとは戦争状態にあったため、サスパニアと接触するには急峻な山岳ルートを使わざるを得ず、どうしても疎遠にならざるを得なかったのだ。
それがコリンドとの国交を樹立以降、サスパニアとも接触する機会が増え、貿易量も年々増加傾向にあるのだ。
「そうでしたか。さすがはハルコン所長。今回もまた、エリクサー外交が上手くいったようですね」
「はいっ。先方がエリクサー(ハルコンBのこと)を欲していることと、我が国の衛生環境インフラに強い関心を持ったようです。これもひとえに国が『善隣外交』にシフトしたことが大きいですね」
「では、我々は王宮と連携して、今後の日程を調整したいと思います。今回、所長も現地までご足労頂くことになりますが、……それは構いませんか?」
「はい。学校が夏休み期間に入りましたので、9月まで2カ月の余裕があります。ハルコンBが用意出来次第、我々も現地に向かうこととしましょう!」
その言葉を聞き、秘書は廊下に待機していたメッセンジャーボーイに言伝を依頼する。
すると、少年はこくりとひとつ頷くと、いつものように駆け足で早朝の王宮に向かっていった。
ハルコンは、王立学校が夏休み期間に入っているため、ここ最近は朝から晩まで研究所で過ごすことの方が多かった。
現在30のプロジェクトが進行中で、そのひとつひとつの会議に出席しては、各プロジェクトの進捗具合に気を配っている。
ホンと、……私はまだ11歳なのに、ちゃんと所長をしているよなぁと、ハルコンは思う。
あまりの激務に、たまに意識が飛びそうなことがあるものの、懐にいつも忍ばせているハルコンBの小瓶を取り出すと、こくりこくりと飲み干した。
すると、いつものように、丹田の辺りから沸々とパワーが漲ってくる。
ふふふっ。管理者なんてガラじゃないと思っていたけれど、……。
まぁ、私がこの役職を務めることで、周りが十二分に動くことができるのだから。
適材適所、何とかやっていきますか!
ハルコンは両頬を軽く叩いて気合を入れ直すと、深夜の光魔石の灯りが煌々と照らされた廊下を、足早に歩いていった。
翌朝早くのことだ。
いつものように所長室に入ると、机に山と積まれた書類のひとつひとつに目を配り始める。
「おはようございます。ハルコン所長、今朝もお早い出勤ですね?」
秘書が笑顔で訊ねてくる。
それに対し、「いいえぇ、昨晩仮眠室で2時間ほど寝た後、こうして書類に目を通していたのですよ」と、事もなげに返事をしたら、秘書は年上らしくお小言をいう素振りを見せ始めた。
「所長。あなたはもっとご自分の体を大事になさるべきですよ。今、ここで倒れられてしまっては、我々の計画が全て頓挫してしまいかねません。いいですか? 所長に今必要なのは、適度な休暇なんですからね!」
こちらの目の色を探るように話しかけてくれるのは、大変ありがたいんだけど。
でも、この仕事って遣り甲斐があって、とても毎日が充実しているんだよね。
「ワカりました。善処します」
「はい。それでは所長。先ほど早便でこちらが届いたのですが、……」
ハルコンは笑顔でその書簡を受け取ると、開封してからざっと目を通す。
「ふむふむ、……いいですね!」
ハルコンはその書簡に改めて目を落とした後、思わず感心して、自然と笑みがこぼれた。
「所長。サスパニア国からは、よい返事が頂けたのですか?」
「はいっ。サスパニアとは永らく国交が途絶えていましたが、この度、国交回復に前向きに検討して頂けるようです」
サスパニアは、隣国コリンドの西に位置し、ハルコン達のいるファイルド国からは、一度コリンド国内を経由することになる。
数年前までコリンドとは戦争状態にあったため、サスパニアと接触するには急峻な山岳ルートを使わざるを得ず、どうしても疎遠にならざるを得なかったのだ。
それがコリンドとの国交を樹立以降、サスパニアとも接触する機会が増え、貿易量も年々増加傾向にあるのだ。
「そうでしたか。さすがはハルコン所長。今回もまた、エリクサー外交が上手くいったようですね」
「はいっ。先方がエリクサー(ハルコンBのこと)を欲していることと、我が国の衛生環境インフラに強い関心を持ったようです。これもひとえに国が『善隣外交』にシフトしたことが大きいですね」
「では、我々は王宮と連携して、今後の日程を調整したいと思います。今回、所長も現地までご足労頂くことになりますが、……それは構いませんか?」
「はい。学校が夏休み期間に入りましたので、9月まで2カ月の余裕があります。ハルコンBが用意出来次第、我々も現地に向かうこととしましょう!」
その言葉を聞き、秘書は廊下に待機していたメッセンジャーボーイに言伝を依頼する。
すると、少年はこくりとひとつ頷くと、いつものように駆け足で早朝の王宮に向かっていった。
92
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる