天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司

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第一部「ハルコン少年期」

43 サスパニア出張旅行 その6_09

   *          *

「……ルコン殿、ハルコン殿っ!」

「えっ!?」

 私(ハルコン)が目の前の重症患者に対し、気持ちを大いに揺さぶられていたところ、……。元女盗賊さんは、繰り返し私の名を耳元に囁きかけてきた。

 少し困惑しつつも、「どうしましたか?」と私が目で応じたら、元女盗賊さんは苦虫を噛んだ何とも言えない表情で、口を寄せてこう続ける。

「あの者ば、……血ぃの匂いばプンプンしてるでやんしぃ!」

 なるほど。元女盗賊さんの前職の勘が、そう訴えてくるのだろう。

「かなり、マズそうですか?」

「相当に、……でやすな!」

 滅多なことには動じない元女盗賊さんがこう言うのだから、先ず間違いない。
 私はなおも警戒しつつ、石原中佐さんの次の言葉を待つことにした。

「おぉっ!? ハルコン殿の連れの方は、さすがにおワカりになりましたか?」

「……」

「お察しのとおり、この者に名はありません。ですが部隊に所属するため、『半次郎』と仮の名で我々は申しておりました」

「『半次郎』、……?」

「えぇ、……。我々の部隊はS摩藩出身の者のみで構成しておりましてな。博識な貴殿なら、よくご存じのはずです。幕末の志士に、そのような者がおったことを、……」

「確か、『人斬り半次郎』、……」

「えぇ、大陸で我々の部隊が様々な作戦を実行するにあたり、どうしても彼のような役割の者が不可欠でしたのでね」

「これ程の重症者を、あなた方は見捨てたりはせず、こちらの世界に部隊と共に同行させた。その真意は何です?」

 私はつい言葉を滑らせてしまったのだが、……。実際の話、敗色濃い戦況の中で、最後までこの人物を切り捨てなかったことに対し、いささか疑問に思ったのだ。

 すると、石原中佐さんはこう私に告げたのだ。

「我々にとって、『半次郎』はとてもかわいかったのですよ。貴殿がそちらの方を見捨てずに腹心にされているのと、同じだと思いますよ!」

「見捨てるも何も、……」

「そちらの方は、貴殿のところの、……いわゆる『暗部』を担当されていらしたのでは?」

「……」

 私は、ちらりと横眼で元女盗賊さんの表情を窺った。
 すると、彼女はこちらの方を見て、白い歯を見せてニカリと笑い、「いいでやんしぃ。そげなこと言われちょるば、慣れっこでやすよ!」と、事もなげに言い放った。

 さて、……。私はどうすべきか?
 このコードネーム「人斬り半次郎」と呼ばれる人物を、果たして復活させていいものなのだろうか?

 それが、女神様のお示しになられた結果として、私とこうして会うことになったのだとしたら、……。
 その先には、私も含め、一体どんな結果を齎すことになるのだろうか?

 私には、……ホンとワカらないことばかりだ。

 すると、……。自然と足が、車椅子の方に吸い寄せられるように向かっていく。
 その「半次郎」という名の青年? に、私は今ここで、真っ直ぐに向き合わなければならないと思ったからだ。
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