バンドはじめました!

マジマ縞子

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true or lie

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俺たちは5LDKの広いマンションで一緒に共同生活を送っている。
各々広めの自室ががあり、普段は皆そこで過ごすことが多い。

原則ではないけれど、それぞれのプライベート空間の保持は大切だという理由でお互いの部屋には許可なく立ち入らないのが暗黙のルールのようになっていた。


ソロのロケ収録が終わって日付が変わる前にようやく自宅についた俺は、
速攻で風呂に入ってそのまま自室にこもりぼうっとしていた。

いつもは忙しなく仕事があって、ベースの練習をして…であまり意識することはないけれど、
やっぱりこう何も考えない時間があると肋骨がまだギシギシと痛むことを感じる。

鎮痛剤を飲むか悩んでいた俺の部屋にノックの音が響いた。


俺は普段周りにうざいくらいに絡みまくっているので、わざわざ俺の部屋に来る人間なんて全く思い当たらないんだけど…。

俺は重い痛む体をずるずると動かして、部屋の扉を開く。


「ああ、沙月。どうしたの?」

「ちょっとな、作戦会議しようと思って」

「珍しい。そういえば沙月はリーダだったね」

「忘れてたのかよ。まあ、たまにはリーダーらしくしねえとな」

にやりと笑って見せた沙月だけれど、本気で思って言ってるんだろうか。怪しい。
とにかくこれを見ろといって沙月が見せてきたのはノートパソコン、のその画面に映る文字だった。


「見ろ、こないだの生放送の感想だ」

「えぇ、皆のビジュアルが褒められる感想と俺が笑われてる感想と、下手クソってぼろくそに書かれている感想しかないのが目に見えてるんだけど」

「ビジュアルとお前への笑いコメントはあるが、違う、よく見てみろ」


そういわれるまま仕方なく映し出されている文字を流し読む。
こういうのは傷つく言葉を平気で言ってくるからあんま見るの得意じゃないんだよなあ…。


けど、文章を見ているとどうやらいつもと様子が違う。


「なに?ドラム突然覚醒したな、ベースとドラムのリズム隊の安定感が急激に上がってる、バックバンドの演奏技術あがってない!?だって」

「ああ。こないだの俺と沙月と仁で練習した次の日の生放送の感想コメントだ。
だいぶ変わってきたとは思わないか?」

「そうだね、見違えるほど。
俺は相変わらず動くカメムシとか、変質者とか好き放題い書かれているみたいだけど」

「…そりゃお前の格好のせいだろ?あの恰好はどうにかなんないのか」

憐れそうな目で沙月に俺のことをじろじろと見られる。
あまり見られるのは慣れてないのでやめてほしいんだけど…。

「しょうがねえだろ。みんなと違って俺はビジュアル要因になれないんだからさ。
事務所の偉い人やマネージャーが言うように色物の面白キャラになるしかねえんだって」

「お前、今の髪おろしてグラサンとってる自分の顔、鏡で見たことあるか?」

「あんまりまじまじと見たことはないけど、まあ自分の顔だし毎日目には入ってるよ…」

「見てるならいいがお前は随分勘違いをしてるみたいだな」

「うん?」
  
俺が勘違い、なんの話だろう。
全然ピンとこないけれど砂月のほうは何かに納得したみたいにうんうんう頷いている。

「で、ちょっと俺がエゴサしていて気になったコメントがいくつかあってな。

まずはこれだ。『さすが夏音の作る曲はカッコいい』ってコメント」  

「夏音って曲作れるの!?」

あまりの驚きに砂月に周りの部屋に聴こえるから小声で喋れと制止される。
だってだってあまりに予想外過ぎるんだもん。
練習も嫌い、歌もそこまで上手いほうではない夏音が曲を作れるだなんて。

実はそういう、天才肌のアーティストなんじゃないだろうか。


「…鈴夜がどんな想像を膨らましているのかわからんが、残念ながらこれはデマだ。

夏音が作ったと言っているのは1stシングルの4曲目らしいが、CDには明記されていないが紛れもなくこの曲は大御所の作曲家に依頼してる。」

「…じゃあ夏音がどこかで嘘ついたってこと?ていうかそんな話どこで…」

「ドキュメンタリー番組で夏音の口から。
改めて夏音の出ている回を見てみたんだが、確かに言っていた。
しかもどうとでもとれる言い方をしてな。

"あの曲を作り上げていくのは大変だった。
皆に色々言われたこともあったけど、この曲を完成させることが出来てよかった" と。

これだとバンド演奏で完成度を高めるのが大変だったともとれるだろうし、夏音が曲を作ったともとれる」 

「それって、あえて…?それとも言葉選びが悪かっただけ?」

「どうだろうな。

実際ファンは夏音が作った曲だと考察している層と、それを否定するファンで割れているみたいだ。
そんでファン通しで揉めてるってよ。

俺が思ってるよりはるかに夏音は頭が回るみたいだな。悪い方にな。」

砂月にハッキリとそう言われて、俺はなんだか今までの夏音の言葉たちが腑に落ちた気がする。
俺は夏音は言葉選びが下手で、人の気持ちを考えるのが少し苦手なだけだと思い込むようにしていた俺にとって、砂月がハッキリとそう言うのは衝撃だった。


「鈴夜」

名前を呼ばれて顔を上げると、なぜか砂月は俺の目の前まで移動してくる。
なんだろうと思ってぼうっと見ているとその手は俺の脇腹あたりに触れた。

「…ーーっつ!!」

あまりの痛みに声にならない声が出て、俺はその場で疼くまる。
そんな俺を見て砂月が複雑そうな、悲しさと怒りが混ざったような怖い笑顔を見せた。

「お前、あの日の登山ロケで骨折してたろ」

    
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