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本編
5 二つ名 後編
しおりを挟む父の子供は、私と兄の二人だけ。
シヴァーリ兄様は、ジークハイド侯爵唯一の男子の跡継ぎとして、重い責務を背負っている。
それは幼少の頃から兄の肩に圧し掛かっていた。
昔の兄は決して笑わなかった。今も笑わないけれど、それとは違う。表情のない感じの子供で、手のかかる妹などには全く関心を示さない。だから幼い私も兄には殆ど近寄らなかった。
こなさなければならない事がいっぱいで、兄には余裕が無かったのかもしれない。
変わったのは、ヒューがやってきてからだ。
兄と同じ歳ながら甘やかしてくれる少年に、私はすぐに懐いた。
ある日、庭でヒューと二人で遊びながらふと顔を上げると、二階の窓越しに兄と目が合った。すぐに反らされたものの、そんな日が何日も続いた。
兄が家庭教師の授業をさぼって一緒に遊んだのは、何日後だっただろう。
日付なんて覚えていなくても、あの日三人で手を繋いで見た夕日も、満足感も忘れない。
嫌そうにしながら、兄は手を振り払わなかった。
ヒューは何故だか、夕日に目が潤んで見えた。
兄とヒューはときどき一緒に羽目を外すようになり、私はいつも二人を追いかけた。
兄は怒るし、私を叱った。
その分ヒューが私を抱っこして慰める。
叱る兄と、それを宥めるヒュー。
漸く、ぴったりと丸く収まった気がした。
相変わらず叱られるけれど、眉間に皺は寄ってるけれど、兄は冗談も言うしちゃんと笑う。
それが偶然でも必然でも、ヒューは兄の心をほぐして、私の隙間を埋めてくれた。
私達の歪さを整えて、円満な家族にしてくれたのはヒューだと信じている。
だから私達兄妹は、根っこのところで彼には弱いのだ。
「それにしても困りましたね。お嬢様の可愛らしいおみあしが、誰の目にも晒されてしまうなんて」
「足くらい良いだろ、別に減るもんじゃなし」
「ひどいよ兄様。確実に求婚者は減るじゃない」
「は?」
「……え」
反論したら、二人同時に驚愕の表情で見つめられた。
後ろに居るヒューの表情は分からないけれど、視線は確実に後頭部に刺さってる。きっと兄と同じように目を見開いている。
「……リア。その格好で結婚する気、あったのか」
「ちがうよ! これは私の意思じゃないんだからね!?」
思わず素でツッコんだ。
「嫁ぐという事は、このお邸からいなくなってしまうということですか? お嬢様はまだこんなにお小さいのにっ」
「ちっさくて悪かったな! 二年後にはもっと育つんだからね!?」
見られてもいないのに、何だか胸元を隠したくなる。何故だ。
取り敢えず、私の上位互換(言ってて悲しくなる)のササミラ姫がプロポーション抜群なので、二年後はきっとあの身体になる……はず。
「それに一応こんな呪いがかかってても、侯爵家の娘として生まれたわけですし。それと兄様、自分が結婚したら絶対追い出しそうだし」
「よく分かったな」
「貴方の妹ですから」
ここで無表情で親指立てる兄の笑いのセンスは、他人にはきっと伝わらない。
私も無表情で親指を立てておく。
「という訳で、呪いをどうにかする作戦会議を始めます」
考えてみて欲しい。
例えばゲームのエンディングと共にこの呪いが解けるというなら、我慢も出来る。
でもそんな保証はどこにもないし、これ以上のヌーディスト行為は年齢的にもきつ過ぎる。
今はまだぎりぎり良いとして、三十年後とか……誰も見たくない悲劇です。
財政的にもきつい。幾ら侯爵家とはいえ、娘のドレスを毎年新調し続けるなんて、現実的じゃない。このまま続くと、ドレスを新調し過ぎて家を傾けた悪徳令嬢とかっていう、別のオファーが来てしまう。
だから、あまりにベタ過ぎて言えなかった提案をした。
結果だけ言うと、この案はほぼ成功を収める事となる。
私の二つ名は「呪いのドレス」から「呪いの男装令嬢」にモデルチェンジしました。
膝上丈から男装へ。ズボンは丈が短くなったり、ホットパンツになるなんてことはありませんでした。やったね!
でも「呪いの男装令嬢」って。二つ名の呪いの文字は、この先一生外してもらえないのでしょうか。
……どっちにしても求婚者は現れそうにありません。
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