弟がヒーローになりました

アルカ

文字の大きさ
1 / 21
本編

1 弟がヒーローになりました

しおりを挟む
 


 私草薙円奈くさなぎまどなは今、店内放送で流れる実況中継のラジオをドキドキしながら聞いています。

 ラジオからはヒーロー達と怪獣のリアルタイム死闘が伝えられている。
 と言っても、怪獣さんの出現は毎日のことなので。よっぽど危険な大型怪獣さん相手でもなければ、皆さん聞き流すくらいの日常風景です。

 しかーし!
 私は内心ドキドキです!
 スーパーでレジ打ちのバイトをしながらなので、笑顔を保っておりますが。心の中でめっちゃ手に汗握ってます。きっとこのスーパー内で誰より真剣に。


 何故なら、ラジオの向こうに弟が居るから。
 弟がヒーローだからです!


 今日の相手はカモシカ怪獣さん。
 体長は、冬になると駅前にお目見えするクリスマスイルミネーション盛り盛りのツリーくらい。3メートル程度でしょうか。
 怪獣の中では小型サイズ。しかしながら、逞しい後ろ足から繰り出すキックはとても脅威なのです。
 鍛え上げられ体脂肪率数パーセントまで絞られたしなやかな健脚。まともに攻撃を受けるのはお勧めできない危険な脚。それでいて、煮込むと口の中でほどけてしまうようなホロホロ極上な赤身……。
 あばら辺りのやわらかいお肉もいいんです。スペアリブ、久々に食べたいなぁ。

 ………………。

 弟は美味しいお肉を持って帰って来てくれるでしょうかっ!!


 ・・・・・・・・・・


「ただいまー」
 玄関の扉が開く音と共に、声が掛けられる。

「お帰りなさいっ、カモシカ怪獣さん!」
 エプロン姿のまま、急いで玄関まで弟の龍弥たつびを迎えに行く。
 ああっ。その肩に下げた袋の中身はお・に・く! お肉ですね~。

「相変わらずひでえな姉ちゃん。俺の心配とかしないわけ?」
 龍弥の目が据わっているけど気にしない。

「大丈夫! 私の弟は強い子良い子。怪獣に負けたりなんか致しません!」
 お姉ちゃんは龍弥おとうとを信じているのです。
 さあその袋を渡しましょうか?

 両手を広げる私の胸に、カモシカ怪獣さんのお肉と共に飛び込んでくる我が弟。なんて良い子なんでしょう。

「ああ……俺は姉ちゃんのアホさ加減が心配だぁぁ――」
 失礼な! 学校の成績は悪くはないですよ?
 最近私より少し背の高くなった弟の頭をポンポンと軽く叩き、カモシカさんを取り上げる。ヒーロー協会で処理を施してあるとはいえ、怪獣肉は手早く調理するに限る。その調理工程はジビエとほぼ同じだけれど、プロの調理法なんて一般家庭では無理ですから。


 母が仕事から帰ってきて、家族三人水入らず草薙家の遅めの夕食です。

「あらこのお肉美味しいわね~。円奈まどなのバイトしてるスーパーのお肉?」
 はい、草薙円奈くさなぎまどなが私の名前です。

「違うよお母さん。それはスーパーの店長さんが趣味で仕留めたカモシカのお肉をお裾分けしてくれたの! とっても美味しいよね」
 ごめんなさいっ店長。貴方は我が家で狩猟が趣味のワイルド系店長ということになっています。いつも分けてくれる見切り品の調味料は、今回のカモシカ怪獣さんのお肉にも役立ちましたよ! 同じ料理に使われてるんだから結果は一緒。ですよね?

 弟は後ろめたいのか、母と目を合わせない様にしつつ必死に箸を動かしている。
 だめよ、お母さんに内緒でヒーローするって決めたのは龍弥なんだから。ちゃんと上手く隠さなきゃ!
 まあ、中学二年生男子は思春期真っ只中だし、多少挙動不審でも許されるはず。お母さんもお姉ちゃんも気にしないよ!

「いつもごめんね円奈。バイトだってしてるのに、家事まで殆どまかせっきりで」
 母が少ししょんぼりとしている。お仕事で嫌な事でもあったのでしょうか?

「大丈夫! 龍弥だってお手伝いしてくれるし、バイトも家事も楽しいもん」
「ううっ……母さんが不甲斐ないばっかりに! よよよ……」
「母さんや、それは言わない約束だよ……」
「あ、チャンネル替えていい?」

 私と母の愉快な小芝居を無視して、弟がニュースからバラエティーにチャンネルを替える。最近付き合いが悪くなったと思います。
 はっ! ――これが噂の反抗期っ?

 ニュースはちょうど昼間のヒーロー映像が始まった所だったので、切り替えタイミングはばっちりだ。
 そう。今日のお夕飯メインになったカモシカ怪獣さんとの死闘ですね。
 まあたとえ弟が写り込んでいたとしても、怪獣の出現する予防線範囲外からの超望遠映像だから、顔の判別は無理だけどね。
 その後三人とも何事も無かったかのように食事を再開しました。あんまり暴れると食事に埃が入るのでほどほどに。しっかり三人でお肉を完食です。

 何と言っても草薙家、胃と心が頑丈に出来ているのが取り柄ですから。


――――――――――――――



 かい‐じゅう【怪獣】
 ①あやしいけもの。正体不明の不思議な獣。
 ②映画・漫画などで、恐竜などをもとに創作した、特別な力をもつ生き物。
 (広辞苑より)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。 ※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。 「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」 魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。 しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。 一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。 「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」 嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...