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【最強の武器:イルゥージャン・ウェパァン(幻想武器:illusion Weapon)】

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この雌鬼(めすおに)は名前を鬼女(おにめ)と言った。
地獄の大閻魔配下の鬼を纏める将軍であり三度の飯より戦闘が好きな戦闘狂である。
彼女の事を「地獄のバーサーカー(狂戦士)」と二つ名で呼ぶ者もいた。
何時もは地獄に連行する亡者刈りは地廻りの下級の鬼達に任せているのだが、今日は、あまり地獄の宮殿にいると体が訛るという理由で、偶々、狩りをしようと思い立ち火車(かしゃ)を走らせていたのだが、そこで、有ろう事か地獄の番人である鬼に人間が歯向かったと報告があり面白半分に様子を見に来たのだ。
この世界では死者が鬼に歯向かう程の力は『不変の制約』が掛かり決して持ちえない。だが、その人間が制約の足枷を受けずに鬼を倒している現場を見るや彼女は戦闘狂らしく興味が沸いた。
人間達を取り囲んでいる戦鬼達を威圧し押しのける様に渦中に割って入った。

鬼女は彫が深い顔立ちの美形であり男を虜にする妖艶な魅力を持っていた。
さらに動きやすさだけを追求した露出が大きい戦闘鎧から、はみ出しそうな超爆乳とプラス、ぷりぷりの尻は男達のヤラシイ目を充分に引き付けるものだ。
事実、女好きのタイガーは目の前の鬼女が敵であるにも拘わらず一瞬で虜になり骨抜きにされた。
こうなったら戦うどころの話ではない。
凛太朗はと言うと少し女性に対し苦手意識があったので、それが幸いし色香に惑わされる事なく冷静に相手の力を推し量る事が出来た。
鬼女は、地回りの戦鬼よりひと際大きい体格と鋭い牙を持ち、身に纏う殺気から、ただならぬ強者である事が伺えた。
凛太朗はガンマニアを自称していたが、警官になってからは刀剣や槍に興味を持った時期があり鬼達が持つ武器についてそれなりの知識を持っていた。
赤鬼達の武器は金砕棒(かなさいぼう)、青鬼達は刺叉(さすまた)という武器で、前者は叩き潰す物、後者は相手を制圧する武器だ。
鬼女の手に持つ得物は方天戟(ほうてんげき)と言われる古代、中国で使われた武器だ。
これは日本の十文字鎌槍や西洋のハルバードに似ていて、突く、斬る、叩くなどオールマイティー(almighty:万能)であり相手に合わした攻撃が可能で主に戦場で使われた武器だ。
赤や青の戦鬼達が持つ武器は亡者達を潰し制圧するだけの単純な武器だが、鬼女の方天戟は例え相手が戦神や剣神といった猛者であっても充分に力を発揮し戦える武器だと言える。
鬼女は方天戟(ほうてんげき)を自らの得物としている。これを持って戦う鬼女は危険だ‼
決して侮ってはいけないと凛太朗は自分に言い聞かせた。

「よくも配下の鬼達を可愛がってくれたね・・・これからは我(われ)が相手をする故、二人同時に掛かって来るがよい。
あ、そうだ、その前に誰か赤鬼、其の十五と青鬼、其の三十二だったか・・・再生の風が吹く前に赤の手首が、あらぬ方向に変にくっつかない様にするんだ。飛び散った青の臓物は腹に押し込めろ・・・ゾンビの様に臓物が出たまま歩かれては気持ち悪いからな・・・」

「ははー」鬼達は平伏し鬼女に言われた通りに凛太朗が切り捨てた鬼達を修復した。

凛太朗はその様子を見ていて、この地獄の辺境の町で見かけた手や足が逆方向に付いたゾンビ達が、どうしてそうなったか知らないが、体がバラバラの状態で多分、再生に風が吹いた為、変に手足がくっついてしまったのだろうと思った。

「すまぬ、少し待たせたが、ふふふ・・・さあ、遠慮なく掛かってくるがいい。」

「タイガー、奴は危険だ、恐らくは大技も小技も得意な筈だ・・・おい、タイガー、どうした?」

凛太朗の呼び掛けに対しタイガーは反応を示さない。
そればかりか相変わらずデレデレした表情をして正気を失っている。
この時、タイガーは鬼女のチャーム (charm:魅力)の魔法に掛かっていたのかも知れない。
この肝心な時に、どうしたものか・・・と鬼女を警戒しながら考える。

「凛太朗、そのエロ男にスイッチを入れるには奴の鳩尾(みぞおち)に打撃を加えるしかないわ」と突然、カトレーヌのフォローが頭に直接届いた。
彼女は逐一、凛太朗達を見ていたのだ。
凛太朗は彼女の指示に、すぐさま反応し躊躇なく強烈なアッパーパンチをタイガーのボディブローに加えた。
「ううぅ・・・」タイガーは少し前屈みになり痛みをこらえる様な恰好をする。
流石にちょっとやり過ぎたと思ったが、それは杞憂(きゆう;とりこし苦労)だった事に気が付いた。
タイガーは口から涎を垂らし、うっとり恍惚感に浸っていたのだ。

「坊や、なかなか良いパンチだったぞ‼頭がスッキリする。もう一発同じのをくれないか・・・」

「え、こいつ何処か頭のボルトが外れてる?」

「こら、人間達よ!この期に及んで、仲間内で、遊んで何とする。
戦う相手は我なるぞ・・・ええい、そちらから来ぬなら、我から行くぞ!」

「はあ、は、は、は・・・」鬼女は気合と共に方天戟の鋭い突き繰り出し凛太朗を襲った。

凛太朗は、タイガーに痛みを快感に感じるマゾの性癖があるとは露知らず気になって防戦一方になった。
鬼女は方天戟の長いリーチを生かして、長い突きと短い突きを組み合わせて連続攻撃をしてきた。
超一流の槍術だ。
凛太朗は鬼女の攻撃に防戦一方、何もさせて貰えない状態が続いた。
それでも気攻めというフェイント技で相手の隙を伺っていたところに漸くタイガーが正気を取り戻し戦闘に加わった。

「坊や待たせたな・・・爆乳姉ちゃん、ここからは虎の中の虎、このタイガー様との戦いだ。
よく聞け!銀河の平和を守る正義の味方、毛深いタイガー様の参上だ。
鬼女よ、覚悟しな・・・」大剣を肩に乗せたまま、大きな口から涎を垂らし、気合を入れ筋肉美を強調した変なポーズをして挑発する。
鬼女は勿論、凛太朗さえ、タイガーの滑稽なポーズに呆気に取られ、戦う手を一瞬止めて見入ってしまった。
この時、凛太朗が、ラグビー好きだったならばハカ擬きであることに気が付いたに違いない。
タイガーなりにハカを真似て、戦意を高揚しようと真剣だったのだ。
だが、戦闘狂の鬼女を完全に怒らせてしまったのは事実である。

「何を!我を愚弄するのか」鬼女は烈火の如く怒り闘気が膨れ上がった。

「ははは・・・そう来なくっちゃ」完全に鬼女を怒らせたタイガーだが、気にも留めていないばかりか楽しそうだ。

タイガーは大剣(クレイモア: Claymore)を正眼に構え鬼女に対峙した。

「凛太朗、同時に攻めるぞ」

遠巻きに見ている赤・青鬼達を尻目にタイガーと凛太朗は二方向から鬼女に切り込んだ。
これが武を競う戦いや決闘など名誉を掛けた戦いなら、二対一の勝負は有り得ない。だが、これは武人の決闘ではない。卑怯だと思われても勝機を見出し生き残らなければならない。
余程、鬼女の命令が絶対的なのか?それとも鬼女の強さを信じているのか?二対一の戦闘になっても鬼達に動く気配がなかった。
タイガーの大剣と凛太朗の闘気を纏った村正が、唸りを挙げて鬼女に打ち込まれる。
だが、方天戟と盾の強力な防御に阻まれる。

「いいね・・・君達の闘い方はいい攻撃だが、我には通じん」

両方向からの攻めで、戦闘が有利になる筈だったが、そうはならず、時間が経過と共に逆にパワーと武器の優位性に押された。致命傷ではないが、あちらこちらに傷を受ける。
タイガーのパワー、武神に鍛えられた凛太朗の剣技、それに経験に於いても鬼女は二人を上回っていたのだ。
鬼女には今の能力では勝てないと判断した凛太朗は神魔晶石の力を使う事にした。

「タイガーと俺に幸運の加護を発動する」

そして、タイガーにもブレスレットの力を使う様に促した。
タイガーは剣を背中の鞘に納め、突然、「変身、ウオー・・・」と再び理解不能のポーズを取って獣の様な咆哮を上げた。すると筋肉が盛り上がり全身の毛穴からは体毛が生え、体は大きく変化し戦闘モードの獣になった。
「ガォーガォー」その声は、まさに獣の吠える鳴き声だ。

「貴様、獣人だったのか・・・あはは・・・面白い、楽しませてくれる」

タイガーは自らに強化魔法と鬼女に「災厄発動」する。
「パワー向上 ブースト パワー超向上 ブースト パワーMAX」
神魔晶石の呪いを鬼女に施し相手の攻撃を見極めながら、タイミングを計って飛び上がった。
必殺のクラッシュ攻撃は槍を持つ相手には危険だが、串だしにされる事を覚悟して勝負を掛けた。

凛太朗は、この戦闘の最中、パワー、剣速に於いて既に能力の限界引き出していたが、それでも力が未だ足りない事を痛切に実感していた。
今の俺の使う高速剣では鬼女を倒すことは出来ない。
では、どうすれば奴を倒せる・・・思考を巡らせた時だった。
「凛太朗、貴方には能力がある。それを引き出せていないだけ・・・欲しい力を使っているイメージを描くのよ、そうすれば貴方は無敵の力を持てる筈、さあ、やってみなさい」と再びカトレーヌの声が聞こえた。
凛太朗は声に従い、鬼女を倒せる武器をイメージした。
剣では勝てない、では・・・そうだ、これしかない。
脳内で武器のイメージが出来た時、突然、手に持っていた村正が光り変形し、右手に巻き付いた。
それは紛れもない最強のマグナム、いやバズーカ(対戦車砲)だった。
凛太朗は鬼女を目掛けて放った。
反動を伴い飛び出したのは弾丸でも砲弾でも無かった。
村正に宿っている死霊がミサイルの様に飛び出したのだった。   
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