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【悪魔から絶望へのご招待】

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辺りに響く鳴き声の後、姿を見せたのは頭部から二本の角を生やし、背中には蝙蝠の羽根と尻尾を持った魔族、それに猛獣の頭を持ち肩や背中に数えきれない大蛇を棲まわせた奇妙な数体の生き物達だった。
他にも闇の中からゾンビやスケルトンが続々と地面から沸いて近寄ってくるのが見えた。

「何故、魔族がこんなところにいるの?それにあれは何、獅子頭の肩や背中に蛇がいるわ・・・」チェリーが驚いた様に声をあげた。

「あれは異なる二種類以上の遺伝子を持つキメラ (chimera) と言う生物だ。
だが、キメラはあくまで想像の生き物だ。
まさか、本当に、あんな生き物がいるなんて、遺伝子の突然変異なのか・・・?
もし、誰かが作ったのなら、多分、酔っていたんだろう」凛太朗も驚きを隠せなかった。

「ははは・・・驚いたかね、こいつらは僕が作った傑作さ・・・。
でも、悪趣味で変わった生き物を作った訳じゃない。
僕は、悪魔だが、はぐれ魔族になった程、悪魔らしくなくてね。
元々、彼らは乱暴な獣人や魔獣でね、この世界では鬼達には力の制約があって絶対に勝てないが、考えもなく歯向かいボロボロにされて、抜け殻だけの徘徊するゾンビになっていたのを助けてあげたのさ・・・。
ゾンビ体の使えない部位は切り捨て、使える部分だけ繋ぎ合わせたら君が言ったキメラとやらになった訳だ。
君たちには手荒な真似はしたくないんだが、ボスから、ここの住人からは少しずつ絞り取れるが、旅人はまた来るとは限らないから勝たせて返すんじゃない。
ギガを奪って口封じをするんだと命令が出ている。
ギャンブルで負けていればこんな事をしなくても良かったんだ。
ボスは強欲の塊りだが・・・僕が魔界から逃げて来て、行き倒れしそうなところを助けてくれた恩人だから逆らえない。悪く思わないでくれたまえ・・・分かったかい?
じゃ、僕の可愛い木偶(でく)人形達、出来るだけ苦しまない様に、お兄さん達をゾンビにしてあげなさい」

「何てことだ‼客から裸にする迄、搾って置いて、大儲けした旅人は家に帰さずに、こうやって後で襲っていたってことか・・・。
さては、勝負もイカサマだったんだな・・・」タイガーは裸にされ恥をかかされた事が余程頭に来ていたのか、何時もの戦闘前の変わった決まりポーズや口上も忘れて、いきなりキメラに大剣を強振、本気モードを全開にして怒りを爆発させた。

「チェリー、タイガーの後方から魔法の援護射撃を頼む・・・」

凛太朗はチェリーに指示を出しながら二倍の運の力を二人に付与した。
自らは大きく息をして呼吸を整え闘気を纏い妖刀村正を顕在化、それを更に5.56機関銃に変えた。
この銃は陸上自衛隊が装備している機関銃である。
発射速度は750~1,000発/分の二段階切り換えで、箱型弾倉に200発の弾丸が装着出来る。
それに加えて幻想銃(機関銃)は弾丸を装着する必要がない。
凛太朗も幻想銃を使う時、何故、弾丸を込める必要がないのか、考えた事があるが、結局、理屈は分からないままだった。
村正は悪霊やエーテル体を呑み込む時があるので、それが弾丸として生成されるのではと考える事にした。
この考えは後に戦闘を重ねる事で間違ってなかったと確信する事になる。
ゾンビやスケルトンの様に一つの個体としては戦闘力は低いが、数で迫ってくる相手には連射が可能な、この銃が最適だ。
凛太朗は幻想銃をゾンビやスケルトンに向けて伏射姿勢で連射した。
弾丸は一発々が悪霊の弾丸であり、標的が生体であれば何処に命中しようと確実に大きなダメージを与える事ができる。
だが、ここでは地獄の風が吹けば破壊された部位がくっつき復活する。
だから凛太朗は死体に残っている霊を刈り取るために頭部を狙って連射した。
それはネクロマンサー(死霊魔術師)は頭部に残っている霊を操りゾンビやスケルトン動かしているのではないかと考えたからだ。
凛太朗の幻想銃に頭部を砕かれたゾンビやスケルトンは悪魔の魔法が解けて動かない物体となり積み上がった。

タイガーは剛剣をキメラに打ち付けるが、手首と腰から生えた蟷螂の斧(鎌)で受け止めて逆に攻撃を返してくる。
キメラの武器は鎌と背中から伸びて首を擡げる大蛇の牙毒、それと猛獣の顎による急所への噛みつきである。
どれも身に受ければ相当大きなダメージを覚悟しなければならない。
タイガーは、その危険を避けて大虎に獣化せずに、あくまで戦士として大剣で戦った。
その判断は抗魔執行官としての戦闘を積み重ねた経験と勘によるものである。

「能力向上 身体強化 パワー向上 パワー超向上 パワーMAX ブースト ブースト」全身に強化魔法を施し勝負を掛けた。
次の瞬間、闘気が更に膨れ上がり振り下ろした大剣は振り下ろす速度を増し蟷螂(とうろう)の鎌を断ち切り大獅子を頭から両断した。

チェリーは精霊の力を借りる精霊魔法の使い手である。
精霊は自然の息吹を力の根源にしている。
彼女は嘗てエルフ王国でお抱え魔術師を務めた程で使い手であり、条件が揃えば魔王に対峙できる極大魔法を放つ事も可能だが、ここは闇が支配する世界、運の力で力の制約を解かれたとはいえ使える精霊の力、魔法には限界があった。
それでもファイヤーボールを照明代わりに浮かべてながら、「エクスプロージョン」爆裂魔法を飛ばした。
この魔法は射程は短いがキメラを吹き飛ばすには充分な威力があった。

「君達は何者なんだ・・・正直、驚いた。
この力の枷(かせ)、制約が掛かった世界で僕の木偶人形を倒してしまうとは・・・。
まあ、いい、それもここまでだ‼僕は悪魔だから、地獄の閻魔の力の制約は受けない。だから、君達は悪魔の力の前にこれから絶望を味わうがよい。
さあ、僕の世界に招待しよう・・・」
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