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【第三ステージ:処刑星】

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関ケ原の戦いから無事に逃げ切り安堵した凛太朗達だったが、タイガーとチェリーは怪我を負い、三人は心身ともに疲れきった。
だが、更に追い打を掛ける様に新たなステージが凛太朗達を待ち受けていた。
三人が連れて来られた場所は、辺り一帯が焼け焦げ荒涼とした不毛の大地が広がっていた。
草木は何処にも生えておらず、風が吹くと砂塵や灰が舞い上がる様な場所だ。
数キロ先には岩石で出来た高い山脈が聳え、壁の様に連なっており、この一帯は、すり鉢状の盆地になっていた。

「凛太朗、今度は何処なの?」不安に駆られてチェリーが聞いて来る。

「俺も分からない。だが、ここはまるでアウトドアの時に使う薪釜(まきがま)の様なところじゃないか・・・」

「ははは・・・薪釜とは上手く言ったね!
その例えは当たらずとも遠からずだ・・・ここは一様、罪人の流刑地ということになっている。
だが、上空に浮かぶ太陽を見たまえ、今は半円形に欠けてはいるが、太陽が真上に昇り完全に顔を出すと、この星は太陽からのハイパワー熱線で数百度の灼熱地獄になる。
灼熱地獄の大地では誰ひとり生きていられる者なんていない。
だから建前上は流刑地という事になっているが、実質的な処刑場といったところかな・・・。
そう最後のステージは君達にピッタリの処刑地を用意した。
ここは、この一帯の星系で重い罪を犯した囚人達が、刑を執行される時が来るまで、罪を悔い改め人生の最後を迎える場所なのさ。
この星でいる限り、仕置きから逃れる術はない。
僕が用意した戦いの強者達に勝ち抜き第一と第二のステージをよくクリアしたね・・・ここ迄来たのは君達が初めてだ。正直、驚いたよ!・・・だが、それももう終わりだ。
死に際に取り乱すのを見るのは好きじゃないが、生きたいと思うなら、最後迄、足掻くといい。
絶対に逃れられないがね‼さあ、見ていて楽しかったが、もう終わりにしよう‼お別れだ・・・」と再び、悪魔が頭に直接話し掛けてきた。

悪魔に転送させられて、やってきた先は異星人達の処刑が行われる場所だった。
この地は太陽が真上に来ると炎が荒れ狂う灼熱地獄なるらしい。
凛太朗達は絶体絶命の窮地に追い込まれた。
額から流れ落ちる汗を感じ、明らかに凛太朗は動揺していた。
この様な時、人はどんな心理になり、どの様な行動を取るのだろうか?自問した。
人によってそれぞれ違うだろうが、多い少ないはあれ焦りは感じる筈だ。
殆どの者は冷静な判断が出来なくなる。中には泣きわめく者もいるのではないか・・?
タイガーは「出会い喫茶のナナちゃんに告っとけばよかった」などと後悔を口走った。
この期に及んでそれを言うか?お前の頭にはエロしかないのか・・凛太朗の心は搔き乱された。
チェリーは既に死んでいるから落ち着いていた。ごくまれにいる部類なのかも知れない。
彼女は以前、魔王に挑んで敗れ既に死んでいる。だからタイガーや凛太朗の様に死に対する恐れや動揺はないのではないか?・・・そうだ死を受け入れるんだ。
凛太朗は、そう考えを巡らすと呼吸を整え死を恐れず受け入れる事で感情をコントロールした。

「うふふ・・・かなり焦っているのかな・・・?
僕達、悪魔の好物は恐怖心だが、君達の恐れは、きっと美味だろうね‼
そうだ一つ言い忘れたが、ここで死んだら、勿論、焼かれる訳だから肉体は消滅する。
僕は、はぐれ悪魔だから君達の魂を他の悪魔達と違い魔界の永久凍土に魂を氷漬けにして恐怖心を絞りとろうなどと酷な事はしない。
だからと言って、ここで死んだ後、冥界に戻ったとしても意識がない悪霊になり永遠に暗闇を漂うことになる。
ある意味、魔界よりましだが、地獄の責め苦に合うのと殆ど同じだ。
どちらにしても考えたら君達にはお先真っ暗だな・・・ハハハ。
分かったかい。さあ、僕のためにもっと素直に恐怖の感情を表現するんだ」

凛太朗は勿論、最後迄、諦めるつもりは毛頭無かった。
悪魔が何処から俺達を見ているのか、俺達の様子を監視し眺めるできる場所といえば・・・だいたいは見当が付いたが、試して違えば、そこで終わりになる。だから間違いは許されない。
残された時間がある限り、何か確信できるヒントがないか辺りを探索した。
すると、この一帯の星系から流され、刑の執行を待つ異星人を数十人程見掛けた。
彼らは、どの様な罪で、この地に流されたのか知らないが、この一帯の政治を行う為政者は罪人を流刑地だと欺き、一度に多くの囚人を天然のオーブンで一度に焼くらしい。
凛太朗は、その事に深い闇を感じると同時に、この星で行われている刑の執行方法がクレージーだと思えた。

三人が辺りの様子を伺っていると人型の異星人がひとり話し掛けて来た。
理由は分からないが、不思議に彼の話が理解できた。
男は目が細く、青白い肌をしており顔に傷があった。
この手の男は刑事をしていた仕事柄、どんな罪を犯してここに来たのか、凛太朗には何となく予想できた。
生まれた時から忌み嫌われる雰囲気を持っており言動から可哀想だが、道を外して生きて来たに違いない。

「お兄さん達、何をしてここに来たんだい。
その血糊が付いた服装から何をしてここに来たのか聞かないでも凡そ見当が付くがな・・・兄さん達に残された時間は、そうだな後10分位だ。
この星に俺達を連れて来た刑務官に隠し持っていた金の指輪を渡して教えて貰ったんだが、10時間事に地表が燃え上がるらしい。
未だ太陽の半分は隠れているが、最後の10分で閉じる速度が速くなるそうだ。
同じ護送車で連れてこられた者には流刑地で刑期が住めば故郷に帰れると思っている。
めでたい奴がいたが、本当の事を教えるのは可哀想だから何も言わなかった。
シャバでは人の不幸を嘲笑う事があっても可哀想だ何て思った事が無かったが、悪党の俺も焼きが回った様だ。
少し、気温が上がりはじめたぜ・・・今度、生まれ変わったらまともに生きたいものだ。
じゃな、お兄さん達、俺は残された時間を懺悔している筈がない神に祈って死を迎えることにする」

凛太朗は悪魔の居場所が未だ曖昧で迷いがあったが、残された時間が僅かだと知り自らが持つ運に賭ける事にした。
運命の女神からのLP(ラッキーポイント:幸運数値)を制約する為に与えられている神魔晶石のブレスレットの鎖を引き千切り無限大の運を使う事にした。
女神の運が悪魔の力を越えなければ多分、妖刀村正の力を引き出す事は出来ないだろうが、それでも最後の望みを賭けるしかなかった。

「凛太朗、熱くなってきたわ・・・」

「チェリー、タイガー、岩陰に隠れているんだ!」

凛太朗は運の力の足枷になっていたブレスレットの鎖を引き千切った。

「運の力UP 10倍 1000倍 無限大!無限大‼」 

呼吸を整え闘気を身に纏いながら妖刀村正に闘気を流した。
そして凛太朗は上空に輝く、この星の太陽を打ち抜くイメージを形成した。
村正はそのイメージを受けバズーカ似の幻想砲に変形した。
女神の力が悪魔の力を上回ったのだ。
パワーがマックスになるのを感じた凛太朗は村正に指示を出した。

「打ち抜けー」

幻想砲から飛び出したエネルギー弾は大きく膨れ上がり上空に浮かぶ太陽を打ち抜いた。
それは太陽にとっては蜂の一刺しの様だったが、太陽の動きを止めるのには充分だった。
既に太陽は真円になり、ハイパワー熱線が地表に向かっていたが、熱線は地表に降り注ぐ前に力を失った。
ほんの数秒前の事だった。



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