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【ゴブリン兵との戦い】

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「来たか・・・数は2~30匹といったところだな・・・。
アンナ、隣の部屋にいる凛太朗達をここに呼ぶんだ。」

「姉貴、お呼びで・・・」

「二人共、私が予想した通り、王都に少数の人間がいたのは警戒心を解くためだ。
人族を根絶やしにしたんじゃ誰もやって来なくなるからな・・・。
ゴブリン達は今、この宿を取り囲んでいる。
凛太朗とタイガーで、これから彼らを相手に少し体操をしても構わんが、わざと捕まり、明日の生贄の儀式まで牢にでも入って大人しくしているんだ。
ちょっと、痛い目に合うかも知れないが、何の為に捕まったのか、勘ぐられない様にな、分かったかい」カトリーヌは凛太朗達に、そう言い残して、日傘を大鎌に変えて空間を切り裂き、チェリーと消える様に姿を消した。

凛太朗達は宿屋の主人に一杯やりに酒場に行って来ると言い残し外に出た。
大通りでは住人の往来が多く、正面切って襲って来ないだろう考えて、ゴブリン達を誘うため裏通りに入る。
案の定、ゴブリン達は誘いに乗って来た。

「タイガー、道を塞がれたようだな」「少し可愛がってやるか・・・」
「やり過ぎない様にな」「ああ・・・分かっている」

物陰から野卑な笑いを浮かべながら、醜悪な顔をした子供程の大きさのゴブリンと人間より一回り大きい豚鼻顔のオークが現れ道を塞いだ。
振り返ると今、歩いて来た道もゴブイン達が既に道を塞いでいる。
彼らは石斧や棍棒を持っている烏合の衆ではない、鎧で身を固めボーガンや少し長めの短剣と丸盾で武装しているこの城郭都市の正規兵だ。

「おい、人間達・・・何処にいくんだ」

「なに、少し美味しい馬乳酒でも一杯やろうと思ってな」

「ふふふ・・・貴様達も禁断の酒にイカレタ様だな・・・。
俺達に付いて来たら、たらふく飲ましてやるから、大人しく付いてきな」

「嫌だと言ったら・・・」

「力尽くで、引き摺って行くまでの事、
後で小便を漏らし、鼻水垂らし泣きわいて赦してくださいと、
懇願しても許しはしないからな・・・」」

「しないからな・・・」側近のゴブリンがオウム返しする。

「おい、やれ・・・」「おい、やれ・・・」凛太朗とタイガーにゴブリン達が一斉に襲い掛かった。
凛太朗達は側近のゴブリンのオウム返しに少し調子が狂ったが、剣を抜き応戦する。
タイガーは大剣を横殴りで振り回した。
彼の剣は神の力と称される全てを滅する聖剣カラドボルグの擬きの剣である。
だが、聖剣としての力はないが、剣の強さの優先度は名のある剣にも決して劣らない。
一撃でゴブリンの盾を割り、剣をへし折って、一度に四、五人叩き潰した。
彼はパワー強化で普段の数倍の力を出せるが、強化魔法を施していないにも拘わらず圧倒的な力を見せた。

凛太朗はタイガーとは対照的に剣技で対峙した。
彼は戦いの経験値を積む事で、イメージ力が高まり最強の幻想武器を作り出す造形能力を得たが、剣技に於いても妖刀村正を使いこなし、村正に潜む力を引き出す事が出来る様になっていた。
それは神の実を食べた効力なのか、それは定かではないが、何時の間にかDNA:遺伝子レベル迄、筋力が強化され、剣速は依然に比べ格段に向上していた。

「ぎゃー、うゎー・・・」声と共に青い血潮が舞い上がる。
ゴブリン達の持つ短い短剣では凛太朗のしなやかに流れる妖刀村正の柔の剣は刃を合わす事さえ出来ない。鎧も紙を切る様に次々と一刀両断された。
もし、誰かがこの場面を見たならば一方的な殺戮をしている様に見えただろう。
凛太朗もタイガーも気付いた時には、何匹か二人の強さに恐れおののき逃げた者がいるだろうが、粗方、ゴブリン達を倒してしまっていた。
「しまった」倒す相手がいなくなって、二人は、やり過ぎた事に気が付いた。
事前の打ち合わせでは適当に相手をあしらい捕まるつもりだったが、熱が入り過ぎて肝心な事を忘れてしまった。
役割からすれば凛太朗が頭に血が上り易いタイガーにブレーキを掛けるところだが、大量の返り血を浴びた時点で、何故か、違った場面で過去に同じ様な体験、戦いをした感覚、デジャブが蘇り夢の中で戦っている感覚に捉われてしまった為に冷静な判断が出来なかったのである。

「タイガー、矢が刺さっているぞ、抜いてやるからポーションを飲むんだ」

「凛太朗、これしきの矢は俺に取っちゃあ、蚊に刺された様なものだ。
それより、ヤバイ、姉御に殺される」

ボーガンの矢にはトリカブト等の毒が塗られている事が多い。
放置すれば命が危ないと思われるのだが、タイガーは気にも留めていない。
事実、彼はカトレーヌにビル5~6階の高さから蹴り落とされ、剣闘士からの生傷、火縄銃の玉を受けても平気なのだ。タイガーに取っては毒よりカトリーヌの方が恐ろしいのかも知れない。
だが、カトリーヌから与えられたミッションを失敗したと思った事は杞憂だった。

「ウッホウッホホ、ウッホウッホホ」

「タイガー新手のゴブリンだ。
身に付ける装備は揃っている。精鋭だ。重騎兵もいる。タイガー気を付けろ‼」

戦いが始まった時点で、場所が裏通りであるにも拘わらず辺りは大騒ぎになっていて、それに気づいたのか、ゴブリン達の援軍が次々現れたのである。
だから戦う相手に事欠かなくなった。
タイミングを見て、捕まるチャンスが生まれた訳だ。

「弓隊、前に、構えー、放て、放て・・・」

「槍隊、前に、突っ込め、突っ込め・・・」

「騎馬隊、前に、突っ込めー」

だが、それは間違いで、捕まるチャンスが出来るという考えは甘かった。
数十匹の援軍が、数百に増え、それでも制圧が簡単に出来ないと知るや、威信を掛け、有無を言わさず凛太朗達の命を取りに来たのである。
こうなったら、ゴブリン兵を全力で蹴散らし囲いを突破して逃げるしか方法は無かった。

タイガーは剣を背中の鞘に納め、突然、理解不能のポーズを取り「変身、ウオー・・・」と獣の咆哮をあげた。
すると筋肉が盛り上がり、全身の毛穴からは体毛が生え、体は大きく変化し戦闘モードの獣になった。
「ガォーガォー」タイガーは彼の本来の姿、虎の中の虎、大虎になった。
大虎になったタイガーはゴブリン達に襲い掛かった。
最強の大虎の前にゴブリンやオーク兵では止める術は無かった。

凛太朗は呼吸を整え、闘気を高めた。妖刀村正に闘気を流し幻想銃をイメージする。
幻想銃の弾丸はゴブリン達のエナジーを吸い取り充分だった。
次の瞬間、毎分1000発の弾丸が幻想銃から飛び出した。
辺りは阿鼻叫喚、血の海になった。

その時だった。
突然、地鳴りがして、地面が盛り上がり土や岩石が大量に飛び散り大きな穴が出来る。
そこから何か得体の知れない者が這い上がって来た。


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