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【淫 魔(インキュバス)】NO3 儀式 血の生贄

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【淫 魔(インキュバス)】NO3 儀式 血の生贄

ダンスホールの大広間では魔法陣を取り囲む様にローブを着た覆面姿の怪しい者達がロウソクを片手に輪になって儀式が行われていた。
少女は衣服を剥ぎ取られ幾何学模様の魔法陣に寝かされた。
その中の一人が少女に近寄ると儀式は中断し呪文の詠唱は止まる。

「我がインキュバスの血を分け与えた子供達、聞くがいい。
我々の長年の夢、暗黒神様を、この現世にお迎えする時がいよいよ来た。
目の前にあるのが、古代魔法書を解読し組み上げた術式の魔法陣だ。
合わせて、今日は夜空に死兆星が輝き、星宿、月齢、時刻も最適である。
後は少女の清き処女の血を、この魔法陣に垂らせば、この術式は起動し、それが引き金になり人間が作った山手線に沿って、円環状に仕掛けた巨大魔法陣が発動する。
さすれば異界への通路が出来上がり、この世界は闇の住人の棲む世界と繋がる。
そこは我が魔族に取っては欲望のままに生きられる理想郷である。
来たる闇世界では、きっと暗黒神様は、我々を使徒として、お迎え下さるであろう」

「おおおー」感嘆の声が覆面姿の者達から上がった。

インキュバスと思われる男は、口上を述べた後、何時の間にか、ダンスホールの高天井に届きそうな大柄になり人間から本来の淫魔の姿になっていた。
その姿形は人間に似て非なる者、剥げあがった頭に尖った耳、赤い目と鉤鼻、口には牙があり細長い二股の舌が垂れ下がる。
何よりも太い尻尾が長く伸び、その先は男性器を思わせ浅黒く醜い触手が股間から前方に伸びる。先端部分は数本に枝分かれし蛇使いの笛に酔うコブラの様に頭を左右にくねらせていた。
触手は何やら滴を出しながら長く伸び少女の体に、そして足に巻き付き這い回る。
「きゃー・・・」少女が不快感に目を醒ました様だ。ダンスホールに悲鳴が響き渡った。

アンナは蝙蝠姿で窓に張り付き中の様子を伺っていたが、少女の身に、この後、起こる事が見るに耐えない展開が予想されたため、後先を考えずに窓ガラスを割りダンスホールに飛び込んだ。
彼女は悪魔であり以前のアンナであれば何が起ころうとも意に介さず事の成り行きを傍観していただろう。だが、創造主、五月に首に刻まれた隷属の印が深層心理にまで、影響を与え彼女に変化をもたらしていた。
女らしくありたいという気持ちが芽生え、僕から、あたいに自分の呼び方を変えたのも変化の表れだ。
ダンスホールに飛び込んだ途端に小さな蝙蝠から頭部に二本の角を持ち背中に羽根と尻尾を持った本来の悪魔の姿になった。
これにはインキュバスは驚愕の表情を浮かべた。
無理もない。何しろ見た事も無い正統派の上級悪魔が突然現れたのだから・・・。
アンナが悪魔の姿になった事で、ダンスホールには覆面姿の者達は凍り付いた。
それはインキュバスの放つ恐怖とは桁違いのものだ。
覆面姿の者達の中には震え出し、その場にヘタレ込み床を濡らす者もいる。

「な、なんだ、何者だ・・・」

アンナはインキュバスの問いには答えず、いきなり卑猥な形をしている触手を足で踏み付けた。

「ぎ、ぎやー・・・」相当痛かったに違いない。鶏が絞殺される様な声をあげた。

「な、何をする。
儂の大切な息子が使えなくなったらどうするんだ。
古今東西、異世界を探しても儂程の優れ物を持つ者はいない。
この息子は人間と交尾すれば至福の喜びを与え、必ずや子を孕ませるいちぶつだ。
それも悪の血を持った子等だ。
歴史上、起こった戦いや戦争は、すべて我が子達が陰で暗躍し引き起こしたものなんだぞ!」
インキュバスの怒りは半端ない。

「ハハハ・・・あなた種馬?それって悪魔のサラブレットを作る道具なの?
なら、その醜い物は世に仇なす物に違いない。
あたいが引き千切ってあげる。
申し遅れたわ、あたいは魔族、コロシの抗魔執行官・・・の使い魔、アンナよ!
覚悟しなさい」

「貴様は雄だと思ったが、ちっぱいなのに雌の悪魔なのか?」

「・・・うぅぅぅ、ハグレ低俗悪魔め、よくも気にしている事をいったな・・・ころ、殺してやる。」

「ふふふ、あはは・・・メスの悪魔だと、これは滑稽だ!
儂など、魔力では正統派悪魔に及びもしないが、それは雄の悪魔なればこそだ。
雌悪魔は、その凶暴な性格から、恐れる者が多いが、それは儂に取っては好都合、飛んで火にいる夏の虫だ。
後悔するなら、後先を考えず飛び込んで来た、その劇場型の性格を恨むがよい。
おい、儂の血を分け与えた者達よ、暫し時間稼ぎをするんだ!」

インキュバスの命令は絶対なのか、へたり込んで戦闘不能になった数人の者を除き、怯えながらも小悪魔になり玉砕覚悟でアンナに飛び掛かった。
儀式に集まったインプ達は、数多(あまた)いる者達の中でも、変身能力を持つインキュバスの血を最も多く受け継いだ選りすぐりだったに違いないが、悪魔化したとはいえ、小悪魔の攻撃などアンナに通じる筈も無かった。
彼女の尻尾で串刺しにされ、鋭い鉤爪で簡単に引き裂かれる。事切れて人間の姿に戻った覆面の者達は、すべて女性だった。
インキュバスが女性達を傍らに置き、慰み者にしていたのではないかと思うと再び怒りがこみ上げてきた。
その時だった。鼻を突くような匂いが漂ってきた。
インキュバスが、自らの、いちぶつを壁に擦り付け恍惚感に浸り体液をバラまいているのが見えた。
アンナは有り得ないゲスの行為に嫌悪感を抱き鳥肌が立つ、そして力が急激に失われていく脱力感に見舞われた。

『しまった。うぅう、これは・・・』

淫魔の体液には雌の体の自由を奪う成分が含まれていると聞いた話を思い出したが遅かった。アンナは失われていく意識の中で、凛太朗に助けを求めた。



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