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【神の日記、円城寺五月の憂(うれ)い】

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私は宇宙を造った創造主として、世界の終焉を阻止するため、歴史を改変するという苦肉の策を取った。
洋風館での死闘の末、魔王やインキュバスを倒す事で、奸計を阻止した。
その結果、暗黒神を召喚するという最悪の事態を回避できたが、それは時空に歪みを生じさせパラレルワールドを作ってしまう事だった。
時空の分岐点から別れた元の破壊された現実社会は今も『裏世界』として存続している。
生命が少ない世界は遠からず消滅し、終焉を迎えると言われる。だが、それは最高神ゼウスが言った言葉なのか?神の名に於いて碑文にでも刻まれていれば別だが、そうでなければ確実に滅ぶという保証は何処にもない。
人類に驕りがあれば、再び『時の部屋』にある週末時計が動き出し、ある日、突然、表裏、表の世界と裏の世界が逆転する日が来るかも知れない。
その時は、暗黒神や破壊神が裏から操っていない限り、人類が自ら招いた災厄、助けるという選択肢は無いかも知れない。

最近、嬉しい出来事があった。
凛太朗が、前世、45億年前に神や魔族と戦った頃の能力を取り戻した事だ。
魔族との戦いを宿命付けられている抗魔執行官に取って、宇宙最強と言われた戦士が加わる事になれば、これ程、頼もしい存在はない。
だが、同時に、どうしようもない寂しさが、こみ上げてくるのを感じた。
彼と結ばれる事を信じて、気の遠くなる年月を、ひたすら待ったにも拘わらず、前世で自分を愛してくれた彼が戻って来なかったのではと不安がよぎったからだ。
私が創造神ではなく、普通の人間ならば、いま感じている辛く切ない、この思いに素直になれたら、どんなに楽だろう。

五月は、そこまで書き日課になっている神の日記を閉じた。
今夜は眠れない夜になるかも知れないと思った。

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