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【アサシン:暗殺者】NO5

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シャトル事故を引き起こしたのは、あろうことかカトリーヌ配下の死神だった。
死神は人の末期(まつご)、死を司る神であるが故に彼らの死に対する見方は新たなる旅路と捉えているのかも知れない。だが、それは神達の身勝手な考えだ。
神の理(ことわり)など凛太朗には知る由もないが、貴重な魂を手に入れるために無関係の人達を巻き込むのは人間目線では許されない事だ。
死神51番はカトリーヌに認められたいという思いが強かったがために、誘惑に抗う事が出来ずに闇に落ちたのだろう。
凛太朗は抗魔官になり円城寺室長から神の事について聞いた事がある。
『神には善神・悪神、善と悪の相対する神がいる。堕神としては古来から恐れられているベルゼブブ=ハエの王という魔王がそれだ。
ベルバブブも嘗ては堕天使ルシファー同様、天界にいた神族だった。
魔王、ベルゼブブはバアル・ゼブル、気高き主と呼ばれる神だったが闇落ちしてからはハエの王と蔑まれる様になったのだと・・・』
闇に足を踏み込んだ死神51番も例外なく、いずれは転げ落ちる様に悪神になる事だろう。

イヴォンヌ・フルノーという科学者は、将来、太陽系外に人類の活路を見出すために不可欠なワープ航法の動力源になる核融合エンジンを発明する。
その天才科学者を失うことは人類に取っては大きな損失であり、数千年後の未来に於いて、外宇宙からやって来る災厄、魔族に対する前に資源の枯渇や環境破壊に苦しむ人類は、数億年前の滅んだ恐竜達と同じ様に遠からず種の滅亡の運命を辿る事になるだろう。
彼女を守る事は凛太朗にとり抗魔官として与えられたミッションではあるが、それ以上に人類の未来のために失ってはならない存在なのだ。
死神は、この時間軸ではシャトル事故が既成事実になった。だから彼女を助ける事は時の禁忌を侵すことになると言った。
だが、例え、それが、結果的に『時の掟』に反し、大いなる力に抹殺される最後を辿ろうとも彼女を守り抜くという考えに一片の悔いはなかった。

動きが読めない炎の環とリーチの長い破魔の大鎌の同時攻撃は咄嗟に能力を発動し辛うじて防ぎはしたが、もし、一瞬の判断を誤っていたら、死神の大鎌に魂を刈られていたことだろう。
大鎌から放たれた炎環は紅蓮の炎を纏い四方から襲い掛かって来た。
だが、それらはサイキックバリア遮られ、激突、激しく火花を散らし爆散した。
凛太朗は防御をしながら攻撃の隙ができるのをじっと待った。

「フフフ・・・どうした。
抗魔官とは、その程度の力なのか・・・?
我が炎の環には精霊の中で最も恐れられる火の精霊が宿る。
この炎に焼かれれば一瞬にて塵と化す。
だからと言って、防いでいるばかりでは、この僕は倒せないぞ!」

凛太朗は防戦一方に見せかけて近接戦闘用の武器をイメージした。
死神の攻撃の隙に一瞬にして、造形能力を使い近接戦闘用のMP5短機関銃を顕現させる。
この銃の発射速度は800発/分、初速は400/秒ある。しかも、弾はインキュバスの魂を使った死霊弾だ。
幻想銃の唯一の弱点は弾丸になる魂の補給が必要だということだったが、以前倒したインキュバスの魂を弾倉に封じ込めることで、弱点を解消した。
青白い光を放つ怪しい淫魔の魂は小さく刻んで弾丸として使うには最適の魂だった。
サイキックバリアを消すと同時にMP5短機関銃のトリガーを絞った。
短機関銃から吐き出された必殺の死霊弾は言わば超小型のトマホークミサイル、変幻自在に現れては消える死神を確実に捉える。黒装束の死神はハチの巣状態になった。
だが、死神は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、怯んだ様子はない。
命中すれば必殺の死霊弾ではあるが、奴にはダメージすら与えていなかった。

「フフフ・・・さすがは抗魔官殿だ。
いまの攻撃には驚いた。
だが、どんな攻撃も僕達死神には通じない。
謎を解かない限り・・・」

『やはりか・・・』凛太朗は死神の闘い方を知る数少ない一人だった。
カトリーヌの強さの秘密は破魔の大鎌による攻撃が、どんな矛や盾でも防げないが、逆に相手の攻撃は理不尽にも彼女には届かないところにある。
彼女達、死神の実体は現実の三次元空間にはないという事だ。
凛太朗は幻想銃を再び村正に戻し呼吸を整え闘気を高めた。
そして更に超能力MAXに開放し村正に闘気を与えた。
「必殺、次元切り」妖刀村正は空間を切り裂いた。
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