20 / 107
第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど
11:最悪の出来事
しおりを挟む
「あ、起きた」
目を開くとリナの顔がすぐそばにあった。どこかの小屋だ。向こうに男が立っていた。
「君たちを無理矢理牢屋から連れ出した」
ホロヴィッツの街の広場で泣き崩れていた男だ。筋骨隆々の彼は立派な槍を掴んだまま俺を見つめている。
「俺たちをどうするつもりだ?」
「違うのよ。ベルトラムさんは私たちを牢屋から引っ張り出してくれたの」
「あの男は?!」
ベルトラムは首を振った。
「突然、広場に現れてエミリアを連れ去って行ってしまった。君たちには──」
「ちょっと待て! シリウスの身体は?!」
今度はリナが首を振る番だった。ベルトラムは、牢屋で倒れていた俺たちをここに運ぶのでやっとだったらしい。最悪の事態だ。
「どこなんだ、ここは?」
「鍜治場だ。街のそばの森の中にある」
「街に戻らないと」
小屋を出ようとするとベルトラムが制した。
「街は大騒ぎで警護隊も出ている」
「どうすりゃいいんだ……!」
「君たちに頼みがある。エミリアを救い出してくれ。あの男は東の打ち捨てられた古城へ飛んで行ったらしい」
「飛んで……? 魔族か」
「なんでそう言い切れるの?」
「飛翔魔法は消費する魔力が大きすぎて人間は一時的にしか使えない。無尽蔵の魔力を持った魔族だけが移動に使うんだよ」
ベルトラムの悲壮感に満ちた表情に、俺はエミリアを助けると返事してしまった。
***
三人で東へ向かうと、山を切り拓いた道の途中に関所が建っていた。ここにはそんなものはないはずだった。少なくとも、シルディアで見た地図では。
現に今もここを通ろうとしたのか、四人組が兵士と話をしていた。その四人組を率いていたのは、なんと父だった。
俺は素早く自分が仮面をつけていることを確認した。父たちは諦めたように引き返して行く。
「息子さんはここも通らなかったんですね」
彼らはそう言葉を交わしながら去って行く。父は俺の足取りを追っているのだ……。
突然、ベルトラムが俺とリナを掴んで近くの木立の中に引っ張った。文句を言おうとする俺の口を押さえて、彼は街道を指さした。ホロヴィッツの街の紋章を掲げた馬車が関所を抜けて行った。
「ホロヴィッツが乗ってたわよ」
俺は二人を連れて関所の向こう側に簡易転移魔法で飛んだ。
***
陰気な古城に馬車が入って行くと、ベルトラムがいきなりそれを追って走り出した。彼を追って行った先にホロヴィッツと共に談笑を交わしていた赤い髪の男が待っていた。
「エミリア!」
ベルトラムの視線の先に囚われの身の少女。彼は手にしていた槍を投げてその鎖を断った。エミリアは槍を手に立ち上がる。
俺たちの視線の中心に立つ赤い髪の男が余裕のある笑みを浮かべる。奴は俺を見た。
「お前がシリウスを殺してくれてよかったよ。あいつは邪魔だったんだ」
「誰なんだ、お前は?」
「プロキオン、魔王四天王がひとり。お前にはこのガキを殺してもらいたかったんだ。それが俺とお前の信頼の証となる」
「なに言ってるんだ、お前!」
こいつを殺そうとしても、シリウスの二の舞になるだけだ……そう思うと足を踏み出せない。ここは奴に同調する振りをするしかない。機会を見てエミリアを逃がそう。
「分かった。お前の言う通りに──」
エミリアが咆哮を上げると、凄まじい速度で俺に迫り、槍を突き出した。ベルトラムの大きな身体が急に俺の視界を塞ぐ。
その腹をエミリアの槍が貫いた。
「ああああああああっ!!」
エミリアの悲痛な叫びが響く。
彼女を助けたい。
プロキオンを殺したい。
シリウスを元に戻したい。
魔王を欺き続けたい。
人間にこのことを知られてはならない。
俺はこの状況をどうすることもできず、エミリアとリナの手を取って、行き先を指定することもできないまま転移魔法を発動した。
自分でも、俺が何をしているのか分からなかった。
目を開くとリナの顔がすぐそばにあった。どこかの小屋だ。向こうに男が立っていた。
「君たちを無理矢理牢屋から連れ出した」
ホロヴィッツの街の広場で泣き崩れていた男だ。筋骨隆々の彼は立派な槍を掴んだまま俺を見つめている。
「俺たちをどうするつもりだ?」
「違うのよ。ベルトラムさんは私たちを牢屋から引っ張り出してくれたの」
「あの男は?!」
ベルトラムは首を振った。
「突然、広場に現れてエミリアを連れ去って行ってしまった。君たちには──」
「ちょっと待て! シリウスの身体は?!」
今度はリナが首を振る番だった。ベルトラムは、牢屋で倒れていた俺たちをここに運ぶのでやっとだったらしい。最悪の事態だ。
「どこなんだ、ここは?」
「鍜治場だ。街のそばの森の中にある」
「街に戻らないと」
小屋を出ようとするとベルトラムが制した。
「街は大騒ぎで警護隊も出ている」
「どうすりゃいいんだ……!」
「君たちに頼みがある。エミリアを救い出してくれ。あの男は東の打ち捨てられた古城へ飛んで行ったらしい」
「飛んで……? 魔族か」
「なんでそう言い切れるの?」
「飛翔魔法は消費する魔力が大きすぎて人間は一時的にしか使えない。無尽蔵の魔力を持った魔族だけが移動に使うんだよ」
ベルトラムの悲壮感に満ちた表情に、俺はエミリアを助けると返事してしまった。
***
三人で東へ向かうと、山を切り拓いた道の途中に関所が建っていた。ここにはそんなものはないはずだった。少なくとも、シルディアで見た地図では。
現に今もここを通ろうとしたのか、四人組が兵士と話をしていた。その四人組を率いていたのは、なんと父だった。
俺は素早く自分が仮面をつけていることを確認した。父たちは諦めたように引き返して行く。
「息子さんはここも通らなかったんですね」
彼らはそう言葉を交わしながら去って行く。父は俺の足取りを追っているのだ……。
突然、ベルトラムが俺とリナを掴んで近くの木立の中に引っ張った。文句を言おうとする俺の口を押さえて、彼は街道を指さした。ホロヴィッツの街の紋章を掲げた馬車が関所を抜けて行った。
「ホロヴィッツが乗ってたわよ」
俺は二人を連れて関所の向こう側に簡易転移魔法で飛んだ。
***
陰気な古城に馬車が入って行くと、ベルトラムがいきなりそれを追って走り出した。彼を追って行った先にホロヴィッツと共に談笑を交わしていた赤い髪の男が待っていた。
「エミリア!」
ベルトラムの視線の先に囚われの身の少女。彼は手にしていた槍を投げてその鎖を断った。エミリアは槍を手に立ち上がる。
俺たちの視線の中心に立つ赤い髪の男が余裕のある笑みを浮かべる。奴は俺を見た。
「お前がシリウスを殺してくれてよかったよ。あいつは邪魔だったんだ」
「誰なんだ、お前は?」
「プロキオン、魔王四天王がひとり。お前にはこのガキを殺してもらいたかったんだ。それが俺とお前の信頼の証となる」
「なに言ってるんだ、お前!」
こいつを殺そうとしても、シリウスの二の舞になるだけだ……そう思うと足を踏み出せない。ここは奴に同調する振りをするしかない。機会を見てエミリアを逃がそう。
「分かった。お前の言う通りに──」
エミリアが咆哮を上げると、凄まじい速度で俺に迫り、槍を突き出した。ベルトラムの大きな身体が急に俺の視界を塞ぐ。
その腹をエミリアの槍が貫いた。
「ああああああああっ!!」
エミリアの悲痛な叫びが響く。
彼女を助けたい。
プロキオンを殺したい。
シリウスを元に戻したい。
魔王を欺き続けたい。
人間にこのことを知られてはならない。
俺はこの状況をどうすることもできず、エミリアとリナの手を取って、行き先を指定することもできないまま転移魔法を発動した。
自分でも、俺が何をしているのか分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる