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第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど

16:小休止②

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 ベテルギウスは魔力で床にしつけられながらも、熱っぽい視線を魔王に送り続けて、懇願こんがんするように声を絞り出した。

「この悪い私にもっと罰をっ……!!」

 ドMだ。魔力から解放されると物欲しそうに魔王を見る。呆れている俺にシリウスが耳打ちした。

「『それに比べてシリウスは優秀で魔王様の側近そっきん相応ふさわしい』と言え」

「なんでそんなバカみたいなことを……」

「いいのか? お前の悪事をバラすぞ」

 俺は舌打ちをして魔王の前に歩み出た。

「それに比べてシリウスは優秀で魔王様の側近に相応しい」

 にやけ面で魔王の前に歩み出るシリウス。

「やめてくれ、アーガイル。だが、否定できないのも事実……」

 やめてほしいのはこっちなんだが。プロキオンが鼻で笑った。

「聞けば、お前は第四魔王たちにもやられたらしいじゃないか。無能もいいところだ」

 第四魔王たちに〝も〟──、その表現にぞくりとする。

「ふん。人間どもとたわむれていたお前と一緒にするな」

 バチバチに視線を交わすシリウスとプロキオン。そのおかげか、俺がシリウスを殺したことが有耶無耶になっている。助かった……。
 それにしても、会合に現れない四人目といい、四天王にはまともな奴がいないのか?

「重要な話がある。聞け、お前たち」

 魔王が静かに発すると、四天王たちは背筋を伸ばす。空気が即座に張り詰めた。

「第四魔王がやって来た。つまり、奴の世界とこの世界が繋がってしまったということだ。アーガイルの力によってな」

「俺の? どういうことですか?」

「お前は異空間から剣を呼び出しているだろ。あれは位相いそう魔法という。その力で第四魔王を呼び寄せてしまったのだ」

 ベテルギウスが舌打ちをする。

「人間風情ふぜいが魔王様の世界に危機を呼び込むとは、ゴミクズにもほどがある」

 魔王が彼女の首を魔力で締め上げる。

「あぁっ……♡」

 ベテルギウスが嬌声きょうせいを上げてその場にひざを突く。わざと罰もらおうとしてるだろこいつ。

「ええと」エミリアを抱き止めているリナが疑問の声を漏らす。「この世界と別の世界があるっていうことですか?」

「リナは相変わらず察しがいい」

 俺は混乱していた。

「ちょっと待って下さい。じゃあ、〝世界の半分〟っていうのはどこからどこまでのことを言ってるんですか?」

「全ての世界の半分だ。第四魔王の居処きょしょである第四世界はお前に任せたぞ」

「ちょっと待って、そんなこと聞いて──」

目下もっかの最優先事項は第四魔王の居場所を突き止め、奴の息の根を止めること」

   ***

 一方的な命令を下されて魔王城を出た俺たちだが、エミリアがリナの手を振りほどいてホロヴィッツの方向へ走り出した。

「待て! 勝手なことするな!」

 リナが俺を制する。

「あの子はお父さんが心配なのよ。行かせてあげて」

「だからって……!」

「あらあら、ガキ一匹しつけられないのかしら?」

 向こうからエミリアの首根っこを掴んでゆったりとベテルギウスがやって来た。

「なんでお前が……!」

「魔王様直々じきじきの命令よ。魔王様は第四魔王がお前に接触してくると踏んでおられる。お前たちの行き先なんて関係ないのよ。聡明そうめいな魔王様……」

 彼女はそう言って俺に指輪を寄越よこした。

「第四魔王に接触したら、それで魔王様に連絡を。私はお前たちのお目付け役ってところ」

 エミリアを地面に投げつける。
 今、この場でベテルギウスを殺すことはできるかもしれないが、何も解決はしない。
 エミリアを抱き寄せて、リナは言う。

「従うしかない。私たちには選択権なんかないのよ」

「その通り。さ、ホロヴィッツに行くんでしょ?」
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