「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった

山野エル

文字の大きさ
31 / 107
第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど

17:希望は砕かれて

しおりを挟む
 ホロヴィッツへの道中、大きな荷物を抱えてすれ違う人々が少し見られた。不思議に思いながら街に到着すると理由が分かった。街にホロヴィッツの私兵隊がのさばっていた。
 身の安全を人質に住民を恐怖統治しようとしているようだった。

「エミリアっ!」

 リナを突き飛ばして彼女が駆け出した。彼女を追ってホロヴィッツの館に向かうと、そこにベルトラムの姿があった。

「パパ!」

 ベルトラムの大きな身体に抱きつこうとしたエミリアが突き飛ばされてしまう。彼の眼が赤く光っていた。様子がおかしい。
 ベテルギウスがボソリとつぶやいた。

「プロキオンが彼を傀儡くぐつにしたのね」

「どういうことだ?」

「彼に何があったか知らないけど、あの身体はプロキオンの魔力で動いている」

 ベルトラムが手にした剣でエミリアに斬りかかった。エミリアが手にした槍でその斬撃を防ぐ。

「パパ?! どうしたの!」

「その男はもう自分の意志では動けない」

 ホロヴィッツが館のバルコニーから顔をのぞかせた。

「あんた何したのよ!」

 リナが異空間から大剣を呼び出すが、ホロヴィッツは余裕綽々しゃくしゃくの表情だ。

「おっと、私を殺しても意味はないぞ。せっかく戻って来たんだ。せいぜい苦しんで死ね」

 ベルトラムが力任せに剣を振り下ろす。エミリアはそれを必死でかわし、声を掛けるが無駄なことだった。

「どうすれば元に戻せる!」

 ベテルギウスは俺から目をらした。

「クソがっ!」

 ベルトラムの前に瞬間移動テレポートして光の剣で制止しようとした俺をエミリアが突き飛ばした。
 その眼は怒りに燃えていた。

「竜がいた城で助けられて、お前を信じてもいいかもと思っていたのに……。またパパを……!」

「違う! お前の父親はもう……!」

 お構いなしに襲いかかるベルトラムの攻撃をリナが逸らしてくれる。

「言い争ってる場合じゃないでしょ!」

 ベテルギウスが一瞬でベルトラムに迫った。
 凝縮された暴風をまとった彼女の手が高速でベルトラムに放たれる。
 すんでのところでエミリアの高速の突きがベテルギウスを牽制けんせいする。回避したベテルギウスが笑った。

「その男を元に戻す方法はないわよ。バカな夢は見ないことね」

「うるさい!」

 エミリアが槍で突進するが、ベテルギウスはそれをいとも容易たやすく受け流す。

 その時だった──。
 風を切る甲高い音がして、すぐ近くで何かが炸裂した。俺は吹き飛ばされて、着けていた仮面が外れてどこかへ行ってしまった。
 ホロヴィッツの街にシルディアの紋章を掲げた兵士たちが雪崩なだれ込んできた。

「おお、やっと来たか」

 ホロヴィッツが叫ぶ。状況が飲み込めなかった。仮面を探す暇はなく、シルディアの兵士たちが俺の顔をじっと見つめていた。
 ベルトラムがリナに斬りかかる。

「パパ、やめて!」

 エミリアがリナを守ると、ベルトラムが殺意に満ちた目を我が娘に向けた。
 エミリアの目から涙がこぼれ落ちる。それとは裏腹に槍を握る手には力が込められた。

「領主を援護しろ! 反逆者だ!」

 シルディア軍が進み出た。
 俺はついに故郷に居場所もなくなったのだ。何も考えられなくなってしまった。

 ベテルギウスが溜息をついて上空に飛び上がる。あっという間に厚い雲が空を覆い尽くす。全てを引き裂く幾筋いくすじもの竜巻が爪のようにシルディアの軍勢に打ち下ろされて、兵士たちがズタズタに引き裂かれた。

 エミリアの絶叫が暴風を貫く。
 彼女の持つ槍がベルトラムの胸に突き刺さっていた。

 エミリアは槍を引き抜くと、濡れた瞳でホロヴィッツを睨みつけ、地面を蹴ろうとした。
 その出鼻をくじくように凄まじい咆哮が辺りに響く。
 羽の生えたシルエットがホロヴィッツの背後に降り立って、瞬く間に彼を連れ去ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...