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第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど
19:鍵
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「彼女を解放しろ!」
ガビに詰め寄るが、奴が手にした棒を俺に押しつけると、凄まじい衝撃が身体の中を駆け巡った。立っていられずに床に膝を突いてしまう。
「彼女はこの世界の未来を嘱望されてここにいるのだ。邪魔をするな」
黒衣の女がガビに声を掛ける。
「管理長、さきほどのエネルギー調整が終わりました」
「よろしい」ガビは俺を見た。「お前も見るがいい。未来への光芒を」
ガビが黒衣の女に合図を送る。
どこかで何かが鳴動する音が室内に満たされていく。ガラスの筒の中に火花が散り始めた。火花を核に光が迸る。
「ぎゃああああああああ!!」
意識を失っていたリナが耳をつんざく金切り声を上げた。強烈な光が彼女の身体を透けさせて白い肌に血管が浮かび上がる。
悲痛な絶叫に耳を塞いでいると、ガラスの筒の中が鎮まっていた。リナが意識を失っている。今の光のせいでこうなったのだ。
ガビは首を捻っている。
「エネルギーが不足してるんだ。ちゃんと分析したのか?」
「ですが、これ以上は被験体が……」
ガビは報告を行う人間に棒を押し当て昏倒させた。倒れた相手に覆い被さって彼は言う。
「希望をみすみす手放すような奴は邪魔だ」
ガラスの筒の中で死んだようにじっとしているリナを、俺は見ていられなかった。
「頼む。やめてくれ。彼女が死んでしまう」
「何を言っている? 死を願うほどの苦痛の先に希望というものはあるのだよ」
「お前……、人間じゃねえ……!」
「人間かそうでないかの違いなど些末」
部屋の入口の方から新しい声がした。白い髪に白い肌、そして赤い目。アルビノの男が超然としてそこにいた。
「シグニ様!」
ガビが頭を下げる。シグニと呼ばれた男は表情のない顔をガビに向けた。
「〝解錠〟の状況は?」
「はっ! エネルギーの調整段階に入っております!」
ガビだけでなく、他の人間も緊張に顔を強張らせている。
「何者なんだ、お前……」
シグニは微笑んだ。
「魔王四天王がひとり、さ」
「お前が最後の……」
「最後とは心外な。他の連中は単なる世界に満ちる力の受け皿に過ぎない」
自らに陶酔したような不気味な表情だ。
「リナを解放しろ」
「私はお前を殺すことができる。その意味を考えてほしい」
俺はガビに追い立てられ、歩き出したシグニの後について部屋を出た。
俺にリナを救い出す手立てなどなかった。
シグニに連れられて遥か上階の部屋に通される。ガビが出て行って、静かな部屋の中に二人きりになる。
窓の外から高層建築の並ぶ街が見下ろせる。
「聖都メスタだ。人を救う教えの総本山。その陰で魔族と人間が手を結んでいることなど、誰も夢にも思っていない」
「これは魔王の考えなのか?」
「魔王様の望むことだ」
失望感が込み上げてくる。所詮、魔王は魔王だったのだ。悪魔の所業を何とも思わない。
「今すぐにお前を殺してやりたい」
「無駄なことだ。それに、お前はこれから我々の手足となって働くことになる。人間を裏切ったお前には容易なことだ」
なぜ俺は魔王と契約してしまったのだろう? こんなはずではなかった。
目覚めた部屋に戻され、力なく腰を下ろす俺の耳に呼びかける声があった。ドアの格子からベテルギウスが顔を覗かせていた。
「話がある。大切なことよ」
ガビに詰め寄るが、奴が手にした棒を俺に押しつけると、凄まじい衝撃が身体の中を駆け巡った。立っていられずに床に膝を突いてしまう。
「彼女はこの世界の未来を嘱望されてここにいるのだ。邪魔をするな」
黒衣の女がガビに声を掛ける。
「管理長、さきほどのエネルギー調整が終わりました」
「よろしい」ガビは俺を見た。「お前も見るがいい。未来への光芒を」
ガビが黒衣の女に合図を送る。
どこかで何かが鳴動する音が室内に満たされていく。ガラスの筒の中に火花が散り始めた。火花を核に光が迸る。
「ぎゃああああああああ!!」
意識を失っていたリナが耳をつんざく金切り声を上げた。強烈な光が彼女の身体を透けさせて白い肌に血管が浮かび上がる。
悲痛な絶叫に耳を塞いでいると、ガラスの筒の中が鎮まっていた。リナが意識を失っている。今の光のせいでこうなったのだ。
ガビは首を捻っている。
「エネルギーが不足してるんだ。ちゃんと分析したのか?」
「ですが、これ以上は被験体が……」
ガビは報告を行う人間に棒を押し当て昏倒させた。倒れた相手に覆い被さって彼は言う。
「希望をみすみす手放すような奴は邪魔だ」
ガラスの筒の中で死んだようにじっとしているリナを、俺は見ていられなかった。
「頼む。やめてくれ。彼女が死んでしまう」
「何を言っている? 死を願うほどの苦痛の先に希望というものはあるのだよ」
「お前……、人間じゃねえ……!」
「人間かそうでないかの違いなど些末」
部屋の入口の方から新しい声がした。白い髪に白い肌、そして赤い目。アルビノの男が超然としてそこにいた。
「シグニ様!」
ガビが頭を下げる。シグニと呼ばれた男は表情のない顔をガビに向けた。
「〝解錠〟の状況は?」
「はっ! エネルギーの調整段階に入っております!」
ガビだけでなく、他の人間も緊張に顔を強張らせている。
「何者なんだ、お前……」
シグニは微笑んだ。
「魔王四天王がひとり、さ」
「お前が最後の……」
「最後とは心外な。他の連中は単なる世界に満ちる力の受け皿に過ぎない」
自らに陶酔したような不気味な表情だ。
「リナを解放しろ」
「私はお前を殺すことができる。その意味を考えてほしい」
俺はガビに追い立てられ、歩き出したシグニの後について部屋を出た。
俺にリナを救い出す手立てなどなかった。
シグニに連れられて遥か上階の部屋に通される。ガビが出て行って、静かな部屋の中に二人きりになる。
窓の外から高層建築の並ぶ街が見下ろせる。
「聖都メスタだ。人を救う教えの総本山。その陰で魔族と人間が手を結んでいることなど、誰も夢にも思っていない」
「これは魔王の考えなのか?」
「魔王様の望むことだ」
失望感が込み上げてくる。所詮、魔王は魔王だったのだ。悪魔の所業を何とも思わない。
「今すぐにお前を殺してやりたい」
「無駄なことだ。それに、お前はこれから我々の手足となって働くことになる。人間を裏切ったお前には容易なことだ」
なぜ俺は魔王と契約してしまったのだろう? こんなはずではなかった。
目覚めた部屋に戻され、力なく腰を下ろす俺の耳に呼びかける声があった。ドアの格子からベテルギウスが顔を覗かせていた。
「話がある。大切なことよ」
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