「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった

山野エル

文字の大きさ
44 / 107
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど

3:ターンオーバー

しおりを挟む
 目を開けた私は病院で着させられるような服でベッドに横になっていた。あのアニメみたいな状況にちょっと頭が混乱する。
 異獣いじゅう建御名方タケミナカタの戦いを間近で見て、血を浴びて……それでここに運び込まれたのだ。
 身を起こす。大きな個人病室のようだ。
 部屋のドアが音もなく開き、看護師らしき人が顔を覗かせる。

「あら、起きたのね」

「ここは?」

「特務機関・葦原鎮守府あしわらのちんじゅふよ。藍綬らんじゅさんはここに運ばれてきたの。おぼえていない?」

「私は怪我なんてしてません」

 看護師がこたえようという時、ドアが開いた。
 現れたのはボブカットのスラッとした女性。

四路坂しろさかさん、今すぐに来てもらう」

「いや、藍綬さんはまだ目覚めたばかりで──」

「重要なことよ。すぐに着替えて」

 私は彼女の言う通りにした。母みたいに話があっちこっちいかない分、動きやすい。
 そういえば、両親はどうしただろう? 夏彦は? 私と一緒にヘリに乗ったあの子は?

   ***

 建物の最上階に向かい、最奥の部屋に通される。大きな机の上に腰を下ろした男がシャボン玉を吹き散らかしていた。

「おっ、ご苦労さん、殯森もがりもり

「遊んでないで仕事して下さい、司令」

「あんだよ。大人だって遊んでいいだろ」

「多くの責任を負っている自覚を持って下さい」

 下らないやりとりに唖然としていると、司令と呼ばれた男は私に視線を投げた。

わりぃな、四路坂」

「私はなんでここに呼ばれたんですか?」

「異獣の血に触れると汚染が始まるんだよ。だから除染が必要なの。お前の制服は破棄させてもらった。後で新品を用意させるけどな」

 だから私は味気ないスウェットの上下だ。
 横合いから殯森が手にしたタブレットを差し出してきた。数々の情報が表示された謎の画面だ。

「あなたの汚染耐性は異常値を示している。通常の骨骼こっかく兵器ドライバーの70万倍はある」

 司令がニィッと歯を見せる。

「つまり、お前は骨骼兵器に乗る適正能力があるってわけだ。おそらくは、この地球上の誰よりも」

「何が言いたいんですか?」

 尋ねたが彼らの思惑に見当はつく。司令はグッと身を乗り出した。

「ドライバーにも除染は必要だ。朝霧あさぎりひとりじゃ、いつか潰れちまう」

 ──あの子はひとりで戦っているのか?

「俺たちはお前を正式な──」

 突然、アラートが鳴り響いた。

『異獣発生確率の規定値超過を確認。総員第2種戦闘配置へ移行せよ』

「ウソでしょ?!」殯森が驚愕の眼でスピーカーを見上げる。「間隔インターバルが短すぎる!」

「こりゃあ、やべえことになったな……」

「どうなってるんですか?」

「シンプルに言うと、建御名方タケミナカタに乗れる奴が誰もいねえのに異獣が来るっつーこと」

 殯森が冷や汗を飛ばす。

米国アメリカに要請を……!」

「早くてもドライバー到着まで4時間はかかるなぁ」

 二人の視線が私に注がれる。そんなアニメみたいな展開……。

「私は無理ですよ。何も知らないんですから」

「あれは有事の際に訓練なしで誰でも動かせるように設計されている。お願い、あなたの力が必要なのよ!」

 ──どうしてこんなことに。

関内かんないの高校付近に異獣出現を関知。総員第1種戦闘配備』

 司令が壁のモニターを点ける。空撮映像が流れた。禍々まがまがしい姿の異獣が土煙を上げて街を破壊している。その進路上に私が通う高校があった。

 私は建御名方タケミナカタに乗る決意を固めるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...