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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
幕間:空白の7分49秒について
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~アイギスの特殊部隊に包囲された夏彦の自宅にて~
──俺に明け渡せ、この身体を。
その声が聞こえた瞬間、藍綬の意識は眠りに落ちた。脇腹に開けられた穴から血を流して横たわる朝霧の隣で、藍綬の頭ガクリと項垂れる。
「四路坂……!」
夏彦が地震に遭ったように頭を抱えて四つん這いになりながら、小さな声で藍綬へ呼びかけた。
呼応するように藍綬の顔が夏彦の方へ向けられる。
「四路坂……、目が……」
いつもの明るいブラウンの瞳ではなかった。ほんの微かに青みがかった深い漆黒の瞳が夏彦を捉えていた。その表情も普段の藍綬とは異なり、引き締まっているように夏彦には見えた。
息も絶え絶えだったシリウスが、立ち上がる藍綬を見上げて半信半疑の喉を震わせた。
「アー……ガイル?」
聖都メスタでクラウスに剣で貫かれたアーガイルは命を落とした。だが、その魂は別の世界に生きる藍綬の中に宿ることとなった。いや、アーガイルにとっては藍綬という存在の檻に囚われていたようなものだった。その理由も分からないまま。
藍綬がコンクリートの瓦礫から剣を生成し、廊下からリビングの中へ飛び込んでいく。
「殺せ」
冷徹なクレイマンの命令が静かに響いた。隊員たちが重火器のトリガーを引き絞るより先に藍綬が即席の剣を床に叩きつけると、光の波が衝撃波のように拡散して土足でリビングに上がり込んでいたアイギスの特殊部隊の隊員たちを数メートル吹き飛ばした。
吹き飛んだ彼らが床や壁に身体を打ちつけるよりも速いスピードで藍綬は駆け巡り、剣の切っ先が隊員たちを一片の躊躇もなく切り裂いていった。
血飛沫を弾き飛ばしながらリビングから庭に飛び出した藍綬が一息つくと、傷だらけの戦闘部隊が後を追うように庭に転がり出る。
すぐに夏彦の家の真上に数機のヘリが高度を下げてくる。強烈な投光器の光を受けて、藍綬は目を細めた。
ヘリの機体下部から突き出した機関銃が火を噴くのを確認して、藍綬は家の中に簡易転移魔法で移動し、そこにへたり込んでいた夏彦と汗だくになった朝霧を掴む。そして、苦悶の表情を浮かべ、目には戸惑いを湛えたシリウスにやや顔をしかめつつも、その二の腕を取った。
ヘリが一斉に機銃掃射を行うのと、藍綬が夏彦の家の上空、ヘリよりも高い場所に姿を現すのは同時だった。
「奴らを落としてやれ……」
シリウスが小さく呟いた。
両手に三人を抱えた藍綬が目に込めた魔力を解き放った。
どこからともなく巨大な火球が八つ飛来して来て、夏彦の家にぶつかった……と思う間もなく、ビルのような火柱が上がる。
「ああああああ~~~~~! 僕の家がああああああ~~~~~~!!」
目玉を零れ落ちそうになるくらいに見開いた夏彦が叫んだが、炎の轟音がそれを掻き消してしまう。
藍綬が再び空中で簡易転移魔法を発動すると、朝霧と藍綬が乗ってきた車のそばに瞬間移動した。
「これで移動するんだろ?」
藍綬が──その身体を操るアーガイルがそう言って車を指さした。
「の……、乗って……!」
朝霧が運転席へ向かおうとするが、膝を突いて倒れてしまう。
「大丈夫?!」
夏彦がそばに駆け寄って彼女の脇腹に目をやって、小さく「ひっ」と声を引きつらせた。血で染まっているのだ。
「ちょっと退いてくれ」
シリウスが言って朝霧の身体に意識を集中させる。自らの身体の芯から朝霧の中へ魔力を接続させるようなイメージだ。それはまさしく、相手を傀儡化するための手続きであった。
だが、何も変化は起こらない。彼は舌打ちをして、アスファルトの地面に拳を叩きつけた。
「この世界じゃ、満足に魔力が扱えない……!」
「そんな! じゃあ、早く病院に!」
藍綬はシリウスを咎めるような目で見つめる。
「肝心な時に使えねえな、お前は。俺が──」
治癒魔法の温かい光の帯が辺りに漂い始めたその時、藍綬の身体がパタリと倒れてしまった。
「四路坂!」
夏彦が今度は藍綬のそばに膝を突く。朝霧が身体を起こして運転席のドアを開けた。
「わ……、私の傷はどうでもいい……。藍綬を乗せて。車を出す」
街中にサイレンの音が鳴り響く中、一同が訳も分からずに車に乗り込むと、朝霧は思い切りアクセルを踏んだ。
──俺に明け渡せ、この身体を。
その声が聞こえた瞬間、藍綬の意識は眠りに落ちた。脇腹に開けられた穴から血を流して横たわる朝霧の隣で、藍綬の頭ガクリと項垂れる。
「四路坂……!」
夏彦が地震に遭ったように頭を抱えて四つん這いになりながら、小さな声で藍綬へ呼びかけた。
呼応するように藍綬の顔が夏彦の方へ向けられる。
「四路坂……、目が……」
いつもの明るいブラウンの瞳ではなかった。ほんの微かに青みがかった深い漆黒の瞳が夏彦を捉えていた。その表情も普段の藍綬とは異なり、引き締まっているように夏彦には見えた。
息も絶え絶えだったシリウスが、立ち上がる藍綬を見上げて半信半疑の喉を震わせた。
「アー……ガイル?」
聖都メスタでクラウスに剣で貫かれたアーガイルは命を落とした。だが、その魂は別の世界に生きる藍綬の中に宿ることとなった。いや、アーガイルにとっては藍綬という存在の檻に囚われていたようなものだった。その理由も分からないまま。
藍綬がコンクリートの瓦礫から剣を生成し、廊下からリビングの中へ飛び込んでいく。
「殺せ」
冷徹なクレイマンの命令が静かに響いた。隊員たちが重火器のトリガーを引き絞るより先に藍綬が即席の剣を床に叩きつけると、光の波が衝撃波のように拡散して土足でリビングに上がり込んでいたアイギスの特殊部隊の隊員たちを数メートル吹き飛ばした。
吹き飛んだ彼らが床や壁に身体を打ちつけるよりも速いスピードで藍綬は駆け巡り、剣の切っ先が隊員たちを一片の躊躇もなく切り裂いていった。
血飛沫を弾き飛ばしながらリビングから庭に飛び出した藍綬が一息つくと、傷だらけの戦闘部隊が後を追うように庭に転がり出る。
すぐに夏彦の家の真上に数機のヘリが高度を下げてくる。強烈な投光器の光を受けて、藍綬は目を細めた。
ヘリの機体下部から突き出した機関銃が火を噴くのを確認して、藍綬は家の中に簡易転移魔法で移動し、そこにへたり込んでいた夏彦と汗だくになった朝霧を掴む。そして、苦悶の表情を浮かべ、目には戸惑いを湛えたシリウスにやや顔をしかめつつも、その二の腕を取った。
ヘリが一斉に機銃掃射を行うのと、藍綬が夏彦の家の上空、ヘリよりも高い場所に姿を現すのは同時だった。
「奴らを落としてやれ……」
シリウスが小さく呟いた。
両手に三人を抱えた藍綬が目に込めた魔力を解き放った。
どこからともなく巨大な火球が八つ飛来して来て、夏彦の家にぶつかった……と思う間もなく、ビルのような火柱が上がる。
「ああああああ~~~~~! 僕の家がああああああ~~~~~~!!」
目玉を零れ落ちそうになるくらいに見開いた夏彦が叫んだが、炎の轟音がそれを掻き消してしまう。
藍綬が再び空中で簡易転移魔法を発動すると、朝霧と藍綬が乗ってきた車のそばに瞬間移動した。
「これで移動するんだろ?」
藍綬が──その身体を操るアーガイルがそう言って車を指さした。
「の……、乗って……!」
朝霧が運転席へ向かおうとするが、膝を突いて倒れてしまう。
「大丈夫?!」
夏彦がそばに駆け寄って彼女の脇腹に目をやって、小さく「ひっ」と声を引きつらせた。血で染まっているのだ。
「ちょっと退いてくれ」
シリウスが言って朝霧の身体に意識を集中させる。自らの身体の芯から朝霧の中へ魔力を接続させるようなイメージだ。それはまさしく、相手を傀儡化するための手続きであった。
だが、何も変化は起こらない。彼は舌打ちをして、アスファルトの地面に拳を叩きつけた。
「この世界じゃ、満足に魔力が扱えない……!」
「そんな! じゃあ、早く病院に!」
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「肝心な時に使えねえな、お前は。俺が──」
治癒魔法の温かい光の帯が辺りに漂い始めたその時、藍綬の身体がパタリと倒れてしまった。
「四路坂!」
夏彦が今度は藍綬のそばに膝を突く。朝霧が身体を起こして運転席のドアを開けた。
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