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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
幕間:決死の時間稼ぎ
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~聖都メスタ上空にて~
「いいか、やばくなったら逃げるからな!」
先行して空に飛び出したボルボリが、身体を乗っ取ったサルーンの金色の瞳で背後のエラトゥを振り返る。
ヨハン八世の幼い身体のままのエラトゥが不快感を表すように顔をしかめた。
「勝手に決めるな! できる限り引きつけないと意味がないだろ! お前はいつも独断が過ぎるんだよ!」
「だーかーらー!」ボルボリは子どものように手をバタバタさせて反論する。「やばくなったらって言ってんだろうが! 死ぬまで戦うとは言ってない!」
エラトゥはイライラしたように鼻を鳴らすと、飛行速度を上げた。
「〝新人〟が潜入するまで時間がないぞ」
「あいつ大丈夫なのかよ?!」
ボルボリはクラウスと初めて対面した時のことをはっきりと覚えている。傀儡化されているはずなのに魔族特有の雰囲気はなく、身体の中に憤怒だけを押し込めたような眼差しでボルボリとエラトゥを見つめていた。
「第四魔王様が気にかけてるみたいだから、大丈夫だろうよ」
そう口にするエラトゥの表情もどこか冴えない。いきなり現れた死にぞこないの人間になぜ第四魔王が肩入れをしているのか、エラトゥはそのことがずっと頭から離れなかった。胸の奥底から湧き上がるモヤモヤした感情に向き合うよりも先に、競うように先を飛んでいたボルボリの声が飛ぶ。
「いた」
声を落としてボルボリが指をさす。
聖都メスタの上空で翼をはためかせる影──龍王ダレンサランだ。
「どうする?」
ボルボリが戸惑いを垣間見せていた。気の進まない仕事を前に二の足を踏んでいるのだ。エラトゥは溜息をついた。
「ボルボリ、覚悟を決めろ」
「そもそも」ボルボリは往生際の悪さを発揮していた。「第四魔王様は『何かあったら暴れろ』って言ってたんだぞ」
「そんなだから、お前はダメなんだ。自分で考えないから。俺たちは〝新人〟に時間を与えなきゃいけないんだ。そうすれば、やるべきことはおのずと見えてくるだろ」
「さっきは自分で考えんなって言ってっただろうが!」
ボルボリが大きな声で怒りをぶつける。エラトゥの顔が青ざめていく。
「あっ、バカ……」
ダレンサランの顔が二人の方に向けられていた。エラトゥが気合いを入れる。
「第四魔王様のためだ。最初から全力で行くぞ!」
「もう……どうにでもなれ!」
二人の身体がメキメキと音を立ててひび割れ、鈍色の巨体が顕現した。
ダレンサランが大きな翼を広げて音もなく高速で滑空してくる。エラトゥが無数の氷塊を生み出して撃ち出すが、ダレンサランはいとも容易く身を翻して回避してしまう。
「ちゃんと狙えよ!」
ボルボリが不満をぶつけてダレンサランへ向かって突撃する。身体のまわりに光の壁を発生させて、自らを弾丸のようにする。ダレンサランは片手を突き出して、それを正面から受け止めてしまった。
「マジかよ!?」
ボルボリはすぐに空中で距離を取って、対峙する存在をまじまじと観察した。
まさに人と竜が融合したような人型の竜だ。側頭部からは一本ずつ木の枝のような角が生えていて、その眼は光に当たると虹色の光沢を放つ。全身が薄い鱗と洗練された筋肉で覆われていて、力を誇示するかのようだ。
真の姿を顕現させたボルボリたちにとって、ダレンサランの身体は矮小に見える。だが、その身体の大きさの違いをボルボリはいまいち感じられないのだった。
翼が大きく波打ったかと思うと、空中とは思えないほどの素早さでボルボリの腹にダレンサランの拳が叩き込まれた。鈍色の身体から破片が飛び散る。魔力によって構築された外殻は、顕現した魔族にとっての鎧のようなものでもあるのだが、そこにやすやすとダメージを与えることは本来はできないはずだった。
強靭な針を突き入れられたような痛みにボルボリは絶句する。
追撃するダレンサランの眼前に防護魔法の光の壁が立ちはだかる。エラトゥが展開したものだ。しかし、ダレンサランは拳を突き出して防護魔法を粉々に吹き飛ばしてしまった。
「怪物め……。ボルボリ、ボサッとするな!」
エラトゥが拘束魔法を放つと、光の帯が四方八方からダレンサランに殺到して密着すると、互いに組み合ってその身体をギチギチに拘束した。
「ちょっと……驚いただけだ!」
言い訳のように叫びながら、石の礫を大量に呼び寄せて巨大な槍を形成すると、ボルボリはその槍を拘束されたダレンサランへと全力で投擲した。
ダレンサランが咆哮を発し、一瞬で拘束を弾き飛ばすと、向かってくる槍へ手のひらを向けた。光の輪が一列になって放たれると、輪の中を通過した槍が輪切りにされて推進力を失って落下していった。光の輪が回転しながら分散して飛翔し、ボルボリだけでなくエラトゥの身体も切り裂いて飛び去って行った。
傷ついた外殻から光を伴った魔力が噴き出す。ボルボリは小さな身体の相手に恐れを抱いていた。
──やっぱり、バケモンじゃねえか……!
眼下に広がる聖都。その中でもひときわ目を引く塔の中腹から爆発音が轟いた。
ダレンサランの目がそちらの方へ向けられる。そして、翼が大きく羽ばたこうとする。
「ボルボリ、奴を足止めしろ!」
エラトゥが叫んでダレンサランの周囲に無数の火球を発生させた。エラトゥが両手のひらをパチンと合わせると、ダレンサランの身体は一斉に火球の的となった。
大爆発が起こって、黒煙が水に溶いた絵の具のように拡散する。その黒煙の渦を突き抜けて、ダレンサランの影が聖都の方へグングンと下降していく。
その進路上に回り込んでいたボルボリが前面に何枚もの光の壁を重ねてダレンサランへと急加速する。
ダレンサランが腕を一振りする。
発生した真空の刃が光の壁をするりとスライスして、ボルボリの身体を縦に真っ二つにした。
「ボルボリ!!」
切断面から魔力を迸らせながら落下していくボルボリを一瞥しながらも、エラトゥは第四魔王に最大の魔力供給を要求する呪文を唱えながら、外殻を切り離した。ボロボロに崩れる岩石の塊の中からヨハン八世の小さな身体が現れる。
──……雷霆示現
エラトゥの身体が発光し、光そのものと化す。顕現した巨体を捨てたのは、雷光そのものへと姿を変えるタイムロスを抑えるためだった。
大気を切り裂くような炸裂音と共に、光がダレンサランの片方の翼をぶち抜いた。その光が少し先で集まってエラトゥの身体になる。即座に巨体を顕現させると、空中でよろめいていたダレンサランへ向けて光の帯を投げた。エラトゥは自分の右の前腕を躊躇いなく切り落とすと、拳を握ったままの腕が光の帯に沿って急加速して射出され、その進路上のダレンサランを直撃した。
エラトゥは身を翻して、落下していたボルボリの身体を拘束魔法で強制的にくっつけてしまう。すぐにボルボリの魔力が傷を再生していく。
「助かった、エラトゥ!」
「気を抜くなと言っただろう!」
自分の右腕も再生させて、上空のダレンサランを見上げる。
片方の翼を失ったダレンサランが怒りに燃える眼をエラトゥたちに向けていた。
聖都では、解放された第四魔王の魔力が激しさを増していた。
エラトゥとボルボリは視線を交わす。そして、示し合わせたわけでもないのに、二人ともが同時に全速力で聖都から遠ざかるように空を翔けた。
もう自分たちの役目は終わったと言わんばかりに。
「いいか、やばくなったら逃げるからな!」
先行して空に飛び出したボルボリが、身体を乗っ取ったサルーンの金色の瞳で背後のエラトゥを振り返る。
ヨハン八世の幼い身体のままのエラトゥが不快感を表すように顔をしかめた。
「勝手に決めるな! できる限り引きつけないと意味がないだろ! お前はいつも独断が過ぎるんだよ!」
「だーかーらー!」ボルボリは子どものように手をバタバタさせて反論する。「やばくなったらって言ってんだろうが! 死ぬまで戦うとは言ってない!」
エラトゥはイライラしたように鼻を鳴らすと、飛行速度を上げた。
「〝新人〟が潜入するまで時間がないぞ」
「あいつ大丈夫なのかよ?!」
ボルボリはクラウスと初めて対面した時のことをはっきりと覚えている。傀儡化されているはずなのに魔族特有の雰囲気はなく、身体の中に憤怒だけを押し込めたような眼差しでボルボリとエラトゥを見つめていた。
「第四魔王様が気にかけてるみたいだから、大丈夫だろうよ」
そう口にするエラトゥの表情もどこか冴えない。いきなり現れた死にぞこないの人間になぜ第四魔王が肩入れをしているのか、エラトゥはそのことがずっと頭から離れなかった。胸の奥底から湧き上がるモヤモヤした感情に向き合うよりも先に、競うように先を飛んでいたボルボリの声が飛ぶ。
「いた」
声を落としてボルボリが指をさす。
聖都メスタの上空で翼をはためかせる影──龍王ダレンサランだ。
「どうする?」
ボルボリが戸惑いを垣間見せていた。気の進まない仕事を前に二の足を踏んでいるのだ。エラトゥは溜息をついた。
「ボルボリ、覚悟を決めろ」
「そもそも」ボルボリは往生際の悪さを発揮していた。「第四魔王様は『何かあったら暴れろ』って言ってたんだぞ」
「そんなだから、お前はダメなんだ。自分で考えないから。俺たちは〝新人〟に時間を与えなきゃいけないんだ。そうすれば、やるべきことはおのずと見えてくるだろ」
「さっきは自分で考えんなって言ってっただろうが!」
ボルボリが大きな声で怒りをぶつける。エラトゥの顔が青ざめていく。
「あっ、バカ……」
ダレンサランの顔が二人の方に向けられていた。エラトゥが気合いを入れる。
「第四魔王様のためだ。最初から全力で行くぞ!」
「もう……どうにでもなれ!」
二人の身体がメキメキと音を立ててひび割れ、鈍色の巨体が顕現した。
ダレンサランが大きな翼を広げて音もなく高速で滑空してくる。エラトゥが無数の氷塊を生み出して撃ち出すが、ダレンサランはいとも容易く身を翻して回避してしまう。
「ちゃんと狙えよ!」
ボルボリが不満をぶつけてダレンサランへ向かって突撃する。身体のまわりに光の壁を発生させて、自らを弾丸のようにする。ダレンサランは片手を突き出して、それを正面から受け止めてしまった。
「マジかよ!?」
ボルボリはすぐに空中で距離を取って、対峙する存在をまじまじと観察した。
まさに人と竜が融合したような人型の竜だ。側頭部からは一本ずつ木の枝のような角が生えていて、その眼は光に当たると虹色の光沢を放つ。全身が薄い鱗と洗練された筋肉で覆われていて、力を誇示するかのようだ。
真の姿を顕現させたボルボリたちにとって、ダレンサランの身体は矮小に見える。だが、その身体の大きさの違いをボルボリはいまいち感じられないのだった。
翼が大きく波打ったかと思うと、空中とは思えないほどの素早さでボルボリの腹にダレンサランの拳が叩き込まれた。鈍色の身体から破片が飛び散る。魔力によって構築された外殻は、顕現した魔族にとっての鎧のようなものでもあるのだが、そこにやすやすとダメージを与えることは本来はできないはずだった。
強靭な針を突き入れられたような痛みにボルボリは絶句する。
追撃するダレンサランの眼前に防護魔法の光の壁が立ちはだかる。エラトゥが展開したものだ。しかし、ダレンサランは拳を突き出して防護魔法を粉々に吹き飛ばしてしまった。
「怪物め……。ボルボリ、ボサッとするな!」
エラトゥが拘束魔法を放つと、光の帯が四方八方からダレンサランに殺到して密着すると、互いに組み合ってその身体をギチギチに拘束した。
「ちょっと……驚いただけだ!」
言い訳のように叫びながら、石の礫を大量に呼び寄せて巨大な槍を形成すると、ボルボリはその槍を拘束されたダレンサランへと全力で投擲した。
ダレンサランが咆哮を発し、一瞬で拘束を弾き飛ばすと、向かってくる槍へ手のひらを向けた。光の輪が一列になって放たれると、輪の中を通過した槍が輪切りにされて推進力を失って落下していった。光の輪が回転しながら分散して飛翔し、ボルボリだけでなくエラトゥの身体も切り裂いて飛び去って行った。
傷ついた外殻から光を伴った魔力が噴き出す。ボルボリは小さな身体の相手に恐れを抱いていた。
──やっぱり、バケモンじゃねえか……!
眼下に広がる聖都。その中でもひときわ目を引く塔の中腹から爆発音が轟いた。
ダレンサランの目がそちらの方へ向けられる。そして、翼が大きく羽ばたこうとする。
「ボルボリ、奴を足止めしろ!」
エラトゥが叫んでダレンサランの周囲に無数の火球を発生させた。エラトゥが両手のひらをパチンと合わせると、ダレンサランの身体は一斉に火球の的となった。
大爆発が起こって、黒煙が水に溶いた絵の具のように拡散する。その黒煙の渦を突き抜けて、ダレンサランの影が聖都の方へグングンと下降していく。
その進路上に回り込んでいたボルボリが前面に何枚もの光の壁を重ねてダレンサランへと急加速する。
ダレンサランが腕を一振りする。
発生した真空の刃が光の壁をするりとスライスして、ボルボリの身体を縦に真っ二つにした。
「ボルボリ!!」
切断面から魔力を迸らせながら落下していくボルボリを一瞥しながらも、エラトゥは第四魔王に最大の魔力供給を要求する呪文を唱えながら、外殻を切り離した。ボロボロに崩れる岩石の塊の中からヨハン八世の小さな身体が現れる。
──……雷霆示現
エラトゥの身体が発光し、光そのものと化す。顕現した巨体を捨てたのは、雷光そのものへと姿を変えるタイムロスを抑えるためだった。
大気を切り裂くような炸裂音と共に、光がダレンサランの片方の翼をぶち抜いた。その光が少し先で集まってエラトゥの身体になる。即座に巨体を顕現させると、空中でよろめいていたダレンサランへ向けて光の帯を投げた。エラトゥは自分の右の前腕を躊躇いなく切り落とすと、拳を握ったままの腕が光の帯に沿って急加速して射出され、その進路上のダレンサランを直撃した。
エラトゥは身を翻して、落下していたボルボリの身体を拘束魔法で強制的にくっつけてしまう。すぐにボルボリの魔力が傷を再生していく。
「助かった、エラトゥ!」
「気を抜くなと言っただろう!」
自分の右腕も再生させて、上空のダレンサランを見上げる。
片方の翼を失ったダレンサランが怒りに燃える眼をエラトゥたちに向けていた。
聖都では、解放された第四魔王の魔力が激しさを増していた。
エラトゥとボルボリは視線を交わす。そして、示し合わせたわけでもないのに、二人ともが同時に全速力で聖都から遠ざかるように空を翔けた。
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