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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
7:後悔を抱え、殺意を形に。
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「アーガイル・フィルフィールド、貴殿を勇者として任命する」
玉座でシルディア王がそう告げて、俺は勇者となった。街はお祭り騒ぎになったが、俺は勇者というものがいまいち分からなかった。
「ならん。勇者とは宿命を持って戦わなければならないのだ」
仲間を連れて行きたいと進言した俺に、騎士団長・モロッツは粛然と返した。
子どもの頃から、何度か勇者が旅立って行くのを見ていた。その背中を見送りながらいつも思っていた。
なぜ勇者は独りで行かなければならないのか?
本当は、勇者になんかなりたくなかった。
「まさか、アーガイルが勇者だなんて!」
どこか自慢げに言うスカーレットの笑顔に後ろ向きな気持ちを白状するわけにはいかなかった。街の人々が俺を祝福しているのだ。
子どもの頃から親しんできた街の人々の喜ぶ顔や声。「シルディアの誇りだ」という言葉。
その思いを共有できない俺がいた。あの時から、俺は独りぼっちになったような気がしていた。
「お兄ちゃん!」
勢い良く抱きついて来るロゼッタと優しい微笑みで俺を迎えた両親。騎士団に入ると言った俺の背中を押してくれた父の顔を見て、俺は勇者でいることに一片の疑いなど抱くべきではないと悟った。
俺は、街のみんなのために勇者になった。
瓦礫と化した街の下敷きになったみんな。
俺はなんのための勇者だったのだろうか?
***
シリウスが炎の矢のように聖女へ向かっていた。
勇者というものが何なのか分からないままの俺は必死で手を伸ばした。せめてもの償いに彼女を見殺しにしたくはなかった。
気づけば、鈍色に変化した俺の腕がシリウスの一撃から聖女を守っていた。
シリウスの金色の眼が俺の方に向けられる。その瞬間、炎の波が俺を包み込んだ。
熱さなど感じなかった。
両腕で受けた炎の圧力を弾き返す。
「まっ、魔族……!?」
なよなよとした男が悲鳴を上げた。俺は自分の両手を見下ろして、全身が鈍色と赤く光る筋に覆われているのを知った。恐る恐る顔に触れる。硬くゴツゴツした表皮、そして、両目の眉から側頭部の上の方へ角のようなものが伸びていた。
いつから顕現した魔族のようになったのだ、俺は?
「なんだ、お前は……!」
シリウスがそう口にする。その顔に振り上げた手の甲をぶつけた。奴の右頬が砕けて、上空に吹き飛んだ。
無意識に筒を構えるようにすると、手の中に光の槍が現れて、打ち上げたシリウスを追撃するように高速で撃ち出された。
強烈な爆発音がして、槍がシリウスの胸を貫通して雲を割って飛び去る。
──お前を殺す。
地面を蹴ろうとする俺の背後から声が飛ぶ。
「殺してはダメ!」
聖女の声を無視して、手のひらに破局魔法を宿してシリウスへ突っ込んだ。
全身全霊を込めて──、
シリウスを滅する拳を突き出した。
拳が到達するごく短い時間。俺の瞼の裏に死んでいった人たちの顔が浮かんだ。
「だーかーらー、喧嘩するなと言っただろ」
目の前に魔王の姿があった。彼女はシリウスを突き飛ばし、俺の拳に触れて破局魔法を分解すると、伸ばした俺の右手を腕ごと消し飛ばした。
殺すべき者の顔を前に俺は我を失った。
消し飛んだ右腕が刹那のうちに生え治り、殺意を魔王の小さな身体へぶち込もうとした。
「うむ、威勢が良いな」
目の前を極彩色の光が通り抜けた。
次の瞬間に、俺の体を覆っていた表皮が粉々に爆散する。
全身から力が抜けるのが分かった。魔王の手に湾曲した奇妙な剣が握られていた。
──千々……秋月
内奥から声がした。
意識が朦朧として、飛翔魔法を維持することができず、身体が落下していく。
玉座でシルディア王がそう告げて、俺は勇者となった。街はお祭り騒ぎになったが、俺は勇者というものがいまいち分からなかった。
「ならん。勇者とは宿命を持って戦わなければならないのだ」
仲間を連れて行きたいと進言した俺に、騎士団長・モロッツは粛然と返した。
子どもの頃から、何度か勇者が旅立って行くのを見ていた。その背中を見送りながらいつも思っていた。
なぜ勇者は独りで行かなければならないのか?
本当は、勇者になんかなりたくなかった。
「まさか、アーガイルが勇者だなんて!」
どこか自慢げに言うスカーレットの笑顔に後ろ向きな気持ちを白状するわけにはいかなかった。街の人々が俺を祝福しているのだ。
子どもの頃から親しんできた街の人々の喜ぶ顔や声。「シルディアの誇りだ」という言葉。
その思いを共有できない俺がいた。あの時から、俺は独りぼっちになったような気がしていた。
「お兄ちゃん!」
勢い良く抱きついて来るロゼッタと優しい微笑みで俺を迎えた両親。騎士団に入ると言った俺の背中を押してくれた父の顔を見て、俺は勇者でいることに一片の疑いなど抱くべきではないと悟った。
俺は、街のみんなのために勇者になった。
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俺はなんのための勇者だったのだろうか?
***
シリウスが炎の矢のように聖女へ向かっていた。
勇者というものが何なのか分からないままの俺は必死で手を伸ばした。せめてもの償いに彼女を見殺しにしたくはなかった。
気づけば、鈍色に変化した俺の腕がシリウスの一撃から聖女を守っていた。
シリウスの金色の眼が俺の方に向けられる。その瞬間、炎の波が俺を包み込んだ。
熱さなど感じなかった。
両腕で受けた炎の圧力を弾き返す。
「まっ、魔族……!?」
なよなよとした男が悲鳴を上げた。俺は自分の両手を見下ろして、全身が鈍色と赤く光る筋に覆われているのを知った。恐る恐る顔に触れる。硬くゴツゴツした表皮、そして、両目の眉から側頭部の上の方へ角のようなものが伸びていた。
いつから顕現した魔族のようになったのだ、俺は?
「なんだ、お前は……!」
シリウスがそう口にする。その顔に振り上げた手の甲をぶつけた。奴の右頬が砕けて、上空に吹き飛んだ。
無意識に筒を構えるようにすると、手の中に光の槍が現れて、打ち上げたシリウスを追撃するように高速で撃ち出された。
強烈な爆発音がして、槍がシリウスの胸を貫通して雲を割って飛び去る。
──お前を殺す。
地面を蹴ろうとする俺の背後から声が飛ぶ。
「殺してはダメ!」
聖女の声を無視して、手のひらに破局魔法を宿してシリウスへ突っ込んだ。
全身全霊を込めて──、
シリウスを滅する拳を突き出した。
拳が到達するごく短い時間。俺の瞼の裏に死んでいった人たちの顔が浮かんだ。
「だーかーらー、喧嘩するなと言っただろ」
目の前に魔王の姿があった。彼女はシリウスを突き飛ばし、俺の拳に触れて破局魔法を分解すると、伸ばした俺の右手を腕ごと消し飛ばした。
殺すべき者の顔を前に俺は我を失った。
消し飛んだ右腕が刹那のうちに生え治り、殺意を魔王の小さな身体へぶち込もうとした。
「うむ、威勢が良いな」
目の前を極彩色の光が通り抜けた。
次の瞬間に、俺の体を覆っていた表皮が粉々に爆散する。
全身から力が抜けるのが分かった。魔王の手に湾曲した奇妙な剣が握られていた。
──千々……秋月
内奥から声がした。
意識が朦朧として、飛翔魔法を維持することができず、身体が落下していく。
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