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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
13:相反の汀にて
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俺は藍綬の目を通して見たものの記憶を辿っていた。
「シリウスは俺たちと一緒にこの世界へ戻って来たわけじゃなく、もともとこの世界にいたんだ。あいつの空っぽの身体が利用された」
「空っぽの身体?」
魔王が首を傾げて俺を見るので、思わず背筋がゾッとしてしまった。シリウスを殺したことを俺はずっと隠し通してきたのだ。
観念して経緯を説明すると、魔王は声を上げて笑った。気にしてなかったのか……?
「化身は世界から力の供給を受けている。だから、お前たちの言う死の概念は基本的にはないのだ。なんだ、そんなことをずっと気にしていたのか、可愛い奴め」
俺のあの葛藤や恐怖は無駄だったんじゃないか。
「シリウスの身体は魔王城の近くとホロヴィッツにあったはずだ。ホロヴィッツの方はプロキオンが把握しているかもしれないが、魔王城の近くの方は急に消えてしまった」
「それをシグニが利用して、最果ての火山の火を入れ、傀儡にしたのだろう」
「魂を込めるにはお前の力が必要なんじゃ?」
「魂を入れる身体に紋様を刻めばいいだけだ。その形を知っていれば誰だってできる」
「前の世界で最後に見たシリウスは両眼の色が金と赤で異なっていた。あれは……?」
「ふむ。シグニに傀儡化されたこちら側のシリウスと、正気のままの向こうのシリウスが重ね合わさった状態だったのだろう。彼奴が傀儡化された線は濃厚だな」
「つまり、あいつには両方の記憶がある?」
魔王は大きくうなずいて、いきなり俺の身体にもたれかかって来た。
「しかし、私は嬉しいぞ。お前が馴れ馴れしくなってくれたからな」
俺に体重を預ける魔王の身体は軽い。つくづくどこからあんな力が湧いて来るのかと不思議に感じる。
篝火が爆ぜる音がパチパチと漂う中、俺は善悪も愛憎も、何もかも胸の中で綯い交ぜになった心に酔いしれていた。
***
「達者でな!」
街の人々が俺たちの篝火のそばに集まって口々に礼を述べている。魔王はシルディアのみんなと握手を交わして、別れを惜しんでいた。
「なんてこった……」
俺の隣でファレルが声を漏らしていた。
「大丈夫さ。きっと聖女様は無事だ」
「いや、まさかこんな光景に出くわすとは、と思って。メストステラス聖教の聖典では、争いを繰り返してきたこの世界には平穏が訪れると予言されてるんだ。その解釈は様々だけど、人が敵対する魔族と手を取り合うことなんじゃないか、と」
魔王は街のみんなから離れて俺たちのもとに歩み寄って来た。
「では、私の城へ」
転移魔法が発動して、俺たちは魔王城の玉座の間に立っていた。ファレルが声を上げる。
「まさか、生きているうちに魔王城に来ることになるとは……」
セバスチャンが魔王の前に歩み出る。
「早速ではありますが……」
セバスチャンが指を鳴らすと、隠蔽魔法のヴェールの向こうから人影が二つ現れた。
プロキオンと……そして、シルディア王だった。
「シルディア王!!」
俺は驚いて駆け寄ったが、王は俺の姿に目を見開いた。
「ええと、あなたは……?」
「俺です! アーガイルです!」
王は戸惑っていたが無理矢理納得したようだ。
初めて見る魔王が幼い少女の姿だということも目の当たりにして、茫然としている。
「それで、プロキオン、一体何があった?」
プロキオンは赤い髪を撫でつけて、眉間に皺を寄せた。その表情は険しい。
「クラウテルンで行われたエルランド統治同盟の公会議に行ってきました。ホロヴィッツやシグニが何を企んでいたのか探るために潜入したのです。そこでとんでもないことが……」
プロキオンはグッと拳を握り、語り始めた。
「シリウスは俺たちと一緒にこの世界へ戻って来たわけじゃなく、もともとこの世界にいたんだ。あいつの空っぽの身体が利用された」
「空っぽの身体?」
魔王が首を傾げて俺を見るので、思わず背筋がゾッとしてしまった。シリウスを殺したことを俺はずっと隠し通してきたのだ。
観念して経緯を説明すると、魔王は声を上げて笑った。気にしてなかったのか……?
「化身は世界から力の供給を受けている。だから、お前たちの言う死の概念は基本的にはないのだ。なんだ、そんなことをずっと気にしていたのか、可愛い奴め」
俺のあの葛藤や恐怖は無駄だったんじゃないか。
「シリウスの身体は魔王城の近くとホロヴィッツにあったはずだ。ホロヴィッツの方はプロキオンが把握しているかもしれないが、魔王城の近くの方は急に消えてしまった」
「それをシグニが利用して、最果ての火山の火を入れ、傀儡にしたのだろう」
「魂を込めるにはお前の力が必要なんじゃ?」
「魂を入れる身体に紋様を刻めばいいだけだ。その形を知っていれば誰だってできる」
「前の世界で最後に見たシリウスは両眼の色が金と赤で異なっていた。あれは……?」
「ふむ。シグニに傀儡化されたこちら側のシリウスと、正気のままの向こうのシリウスが重ね合わさった状態だったのだろう。彼奴が傀儡化された線は濃厚だな」
「つまり、あいつには両方の記憶がある?」
魔王は大きくうなずいて、いきなり俺の身体にもたれかかって来た。
「しかし、私は嬉しいぞ。お前が馴れ馴れしくなってくれたからな」
俺に体重を預ける魔王の身体は軽い。つくづくどこからあんな力が湧いて来るのかと不思議に感じる。
篝火が爆ぜる音がパチパチと漂う中、俺は善悪も愛憎も、何もかも胸の中で綯い交ぜになった心に酔いしれていた。
***
「達者でな!」
街の人々が俺たちの篝火のそばに集まって口々に礼を述べている。魔王はシルディアのみんなと握手を交わして、別れを惜しんでいた。
「なんてこった……」
俺の隣でファレルが声を漏らしていた。
「大丈夫さ。きっと聖女様は無事だ」
「いや、まさかこんな光景に出くわすとは、と思って。メストステラス聖教の聖典では、争いを繰り返してきたこの世界には平穏が訪れると予言されてるんだ。その解釈は様々だけど、人が敵対する魔族と手を取り合うことなんじゃないか、と」
魔王は街のみんなから離れて俺たちのもとに歩み寄って来た。
「では、私の城へ」
転移魔法が発動して、俺たちは魔王城の玉座の間に立っていた。ファレルが声を上げる。
「まさか、生きているうちに魔王城に来ることになるとは……」
セバスチャンが魔王の前に歩み出る。
「早速ではありますが……」
セバスチャンが指を鳴らすと、隠蔽魔法のヴェールの向こうから人影が二つ現れた。
プロキオンと……そして、シルディア王だった。
「シルディア王!!」
俺は驚いて駆け寄ったが、王は俺の姿に目を見開いた。
「ええと、あなたは……?」
「俺です! アーガイルです!」
王は戸惑っていたが無理矢理納得したようだ。
初めて見る魔王が幼い少女の姿だということも目の当たりにして、茫然としている。
「それで、プロキオン、一体何があった?」
プロキオンは赤い髪を撫でつけて、眉間に皺を寄せた。その表情は険しい。
「クラウテルンで行われたエルランド統治同盟の公会議に行ってきました。ホロヴィッツやシグニが何を企んでいたのか探るために潜入したのです。そこでとんでもないことが……」
プロキオンはグッと拳を握り、語り始めた。
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