魔女になった日

ここのか 葉月

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仕事②

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 ポーはウェルネに視線を移すと顔を真っ赤にして訴えた。恋敵が現れてしまった恋人のようにウェルネを責めている。

「あらあら、違うわよ。親戚の子なの」

 その場しのぎの言い訳なのだろうが、常套句過ぎて笑えない。

(覚悟してね、って気の荒い子のおもりだからって言うこと?)

 アーティは唾を飲み込んだ。これは難易度が高い。ただでさえ人と接することがなかったアーティに、気難しい子のおもりをしろとは何の修行だ。

(やだな。でも……)

 アーティの頭のなかに、小銀貨が一枚二枚と重なっていく。最低でも五枚は欲しい。いや、今後の宿代や食事代も込みで計算すると銀貨一枚分は貯めておきたいところ。

(お金にはかえられないもの!)

 今後、このような厚待遇で雇ってくれるところがあるのかわからない。なら今が貯め時ではないか。
 守銭奴気味になったアーティは、さっと片手を差し出した。仕事、これは仕事と自身に言い聞かせる。

「ほら、ポー。アーティが握手を求めているわ」

 えー、と駄々をこねながらもポーはウェルネに嫌われたくないのかアーティの手に触れた。指先がほんの少しかすった程度。それを握手と捉えて良いのか疑問が残る。ポーは食い縛った歯をアーティに見せると、そっぽを向いた。

(嫌われているのは確かなようね……)

 アーティは遠い目をした。

「ポーには薬草を摘んできて欲しいの」
「師匠とですか!?」
「違うわよ。そこのお姉さんと一緒に」
「なんでですか!! ボクは師匠とがいいです!」
「お店がね」
「店番はソイツにやらせればいいじゃないですか!」

(うわ、この子すごく面倒)

 ウェルネを見れば、暑くもないのに何度も汗を拭っている。怒り飛ばしても良さそうなのに、機嫌をとるように低姿勢だ。あ…… とアーティは気が付いた。

(もしかして、ウェルネさんを魔女だとバラさない代わりにってやつじゃない? ポーはウェルネさんのことが好きなのよ。だけど相手にしてくれなくて、そのうち秘密を握っちゃって……)

 楽しみが本しかなかったアーティの想像力は豊かだ。以前読んだ恋愛小説の主人公たちをウェルネとポーに当てはめる。

(年齢差もあるし、ウェルネさんが特殊な恋愛体質じゃなければ、ポーは撃沈ね…… かわいそうに)

 アーティはふたりの会話に割って入るように大きなため息をつくと、ポーの手首を掴んだ。

「弟子が師匠を困らせてどうするの? 破門にされたいわけ?」
「……破門」
「そうよ! もう二度と見たくない、近付くんじゃないって言われちゃうんだから」
「そ、そんなことしませんよね!?」

 ポーはウェルネにしがみつくような視線を向けたが、ウェルネはその視線を避ける。

「ほら、みなさい。行くわよ!」

 アーティは懐に先程の紙の束が入っているか確認して店を出た。外は昨夜とは違い、買い物かごを持った女性が数人歩いていた。通りには店の看板がポツポツ立てられており、ドアには営業中の札がかけられてある。
 さて、どちらへ行けば良いものか。昨夜来た道を戻るべきか、それとも反対方向へ行くべきか。アーティは悩んだ末「どっち?」と呟いた。すぐさまスピルが「右」と答える。
 アーティは右手にポーの手首を掴んだまま歩き出した。
 おい、やい、と右手を振り回されているが気にしない。

「このまま真っ直ぐ?」

 ――ああ

 町を抜けたのだろう、街道沿いに生い茂っていた草むらがみえてきた。アーティの記憶に残っている情報は、この草むらの向こう側に小さな沼があり、そのほとりに小さな黄色い花をつけている草があることだ。スピルと同じ薬草の情報を共有しているかは謎だが、アーティは迷わず進んでいく。

「おい、離せ!」

 アーティの手が力強く振り切られた。

「なに?」

 アーティは足を止め、面倒くさそうにポーを見やる。

「なんなんだよ、お前!」
「アーティだけど。ウェルネさんの紹介を聞いてなかったの?」
「そんなんじゃねーよ! 気持ち悪いんだよ、さっきからブツブツと」

 ああ、なるほど。スピルの声が聞こえないんだった。
 アーティはなんだか可笑しくなって、クスクスと笑った。

「なんだよ!」
「いいえ。弟子って紹介されたのに、弟子というより駄々をこねる子供だなぁって思っただけよ」

 実際そのことで笑ったのではないが。

「うるさい! お前だって子供じゃないか! オレはお前みたいなちんちくりんじゃなくて師匠と薬草取りに来たかったんだよ」

 ポーが地団駄を踏む。

「ほら、そういうとこが幼いのよ。ウェルネさんに相手にしてもらいたかったら大人にならないと」
「子供にそんなこと言われたくねー! 今日だってお前が邪魔しなければ師匠と来れたんだ! もうちょっとで『うん』って言わせることが出来たのに!」

 アーティはウェルネが気の毒になった。その気持ちをそのまま口にする。

「師匠が困ってるって、どういうことだよ!?」
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