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聖女のお世話係になります!⑦
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「そのようなことがあったのですね」
「はい」
夜、眠る前。ルルは聖女カルリアの部屋に訪ねることを日課としていた。今日の出来事を伝え、そしてカルリアから身体に神聖力を流してもらっているのだ。
「私の部屋に泊めてあげれば良かったのではないかと後悔しているのです」
身体がふんわり温かくなってきた。血流が良くなってきた証拠だ。
「気にしてはなりません。勝手な判断をして、周りに迷惑がかかることもあるのですから」
「迷惑が?」
「ええ。もしかしたら、その少女がこの一帯で盗みや人攫いをしているかもしれないのですよ?」
ルルはがばりと顔をあげた。
「そんなバカなはずがありません! すごく美しい少女だったんですよ!?」
「落ち着いて。人は見かけによらない、そんな言葉を知りませんか? 見た目だけでは、人の中身を知ることは出来ないのです」
「そうなんですね……」
「そうですよ。はい、今日はこれで終わりです」
カルリアの手が離れる。
「ありがとうございます。いいんですかね? 毎日疲れをとっていただいて。私にではなく司祭様に施してあげるべきではないんでしょうか?」
軽くなった肩をぐるりと回し、首をこきりと鳴らす。
「良いのです。貴女でなければ意味がありませんから。貴女は特別なのです」
聖女であるカルリアは何かにつけてルルのことを特別視したがる。視線があったカルリアがにっこり微笑むが悪気は一切みられない。
(んー、聖女様がいいって言っているんだからいいのか……)
ルルもだいぶ従順になったものだ。
「それよりも、明日は修道院へ行く日ですね。もし少女の思いが本当であれば、あちらで会うことが出来るかもしれませんね」
その通りだ。無事にたどり着いたかどうか確かめなくては。少女が絶対に悪い人ではない、と自信のあるルルは明日を思うとドキドキが止まらない。無事であって欲しいと思わずにはいられない。
「おやすみなさい、聖女様」
カルリアに就寝前の挨拶を済ませると、ドアに鍵をかけて部屋に戻った。鍵の扱いにもだいぶ手慣れてきたものだ。
翌朝、身支度を整えた聖女と共に馬車の元へ向かった。行き先は昨日話しに出た修道院だ。聖女カルリアと司祭は定期的に修道院へ出向き、新たに聖女となれそうな人物がいるか探している。
「貴女も中に入りなさい」
今日は陽射しが強いから馬車の中へ、とカルリアから誘いを受けたが、ルルはただのお世話係。聖女と司祭が乗る馬車の中に一緒に乗っていくわけにはいかない。
ルルは丁寧に断りを入れ、御者台に乗った。
御者に『馬を扱ってみるか?』と冗談交じりに言われたが、ルルはぐっと我慢した。孤児院時代なら『やらせて!』とすぐさま手綱を握っていただろう。だいぶ、軽率な行動を取ることがなくなったなと感慨深くなる。
朝早く出発し、昼前に着いた修道院に少女の姿はなかった。もしかしたら、考え直して町に戻ったのかもしれない。
新たな聖女発掘も実を結ばず、意気消沈しながら帰路に着く。
馬車に揺られ、ぼんやり景色を眺めていると何か違和感があることに気がついた。
「あのっ! 停めてください!!」
手綱を握る御者の腕に掴まって、ルルは早く停めてと腕を揺らす。突然馬車が停まったことを不審に思った司祭が小窓から顔を出した。
「どうしたのです?」
「あの、ちょっと……」
ルルは馬車から飛び降りて、雑木林に駆け寄った。
(ああ、やっぱり靴だ……)
靴が片方落ちている。それを拾って、さらに奥へ。乱暴にこじ開けられたトランク。ナイフで切られた跡がある。さらに奥、地面に広がるプラチナ色の長い髪。裸にされ、凌辱され、殴られた痕のある少女の遺体。
「ああ……」
ルルは膝から崩れ落ちた。
はたはたと涙がワンピースに落ちて、染みになっていく。
「ルル? どうしたのです?」
「せいじょさまぁ……」
振り返ったルルに目を見開いたカルリアが映った。大丈夫ですか? と駆け寄ってルルを抱き締める。
「彼女を助けてあげることは出来ないのですか?」
抱き締めてくれる腕がピクリと動いた。ルルは見逃すことなく期待を込めて、カルリアを見上げる。
「出来るわけなかろう」
司祭が藪をかき分けながら近づいてきた。
「司祭様、どうして出来ないのですか!? もう命が絶えているからですか!? でも、だけど、駄目元で神聖力を使っていただくことは出来ないのでしょうか!? もしかしたら聖女様に新たなる力が生まれていて、彼女を生き返らせれるかもしれないじゃないですか!!」
「駄目ですよ」
司祭が眉間にシワを寄せ、しかめっ面でルルを見下ろす。
「どうしてです……」
「この少女は何者ですか? 名前は? 住まいは?」
ルルは答えることが出来ない。昨日、聖堂にやって来て修道院に行きたいと話していた。家出をしており、町に戻ることは出来ないと。
「わかりません……。でも……」
「どうしても、と言うのなら、それなりの対価が必要です」
「……対価」
「つまり……」
司祭がジェスチャーする。お金だと。
ルルにお金などない。無賃で働かせてもらっているのだから。
「そんな、あんまりだわ……」
青ざめたルルにカルリアは慈愛に満ちた目を向ける。
「帰りましょう」
(聖女様も……)
ぷつん……。ルルのなかで何かが切れる音がした。
ルルは何事もなかったように、スッと立ち上がる。
「私は彼女を埋めてから戻ります」
「ルル、それは危険よ」
「いえ、埋めてから戻ります」
カルリアの説得に応じようとしないルルに司祭は「置いていく」と聖女の腕を引っ張った。
ルルはふたりを見送るとしゃがみこみ、手近な石を掴んだ。ガリガリと地面を掘る。
「おい」
振り返ると御者がいた。馬を一頭引き連れている。
「司祭様がこいつに乗って帰ってこいってさ」
乗れるか? との問いにルルは頷いた。
御者は、手伝ってやりたいがと両手を組んで彼女の死を偲ぶと、もと来た道を戻っていった。
「はい」
夜、眠る前。ルルは聖女カルリアの部屋に訪ねることを日課としていた。今日の出来事を伝え、そしてカルリアから身体に神聖力を流してもらっているのだ。
「私の部屋に泊めてあげれば良かったのではないかと後悔しているのです」
身体がふんわり温かくなってきた。血流が良くなってきた証拠だ。
「気にしてはなりません。勝手な判断をして、周りに迷惑がかかることもあるのですから」
「迷惑が?」
「ええ。もしかしたら、その少女がこの一帯で盗みや人攫いをしているかもしれないのですよ?」
ルルはがばりと顔をあげた。
「そんなバカなはずがありません! すごく美しい少女だったんですよ!?」
「落ち着いて。人は見かけによらない、そんな言葉を知りませんか? 見た目だけでは、人の中身を知ることは出来ないのです」
「そうなんですね……」
「そうですよ。はい、今日はこれで終わりです」
カルリアの手が離れる。
「ありがとうございます。いいんですかね? 毎日疲れをとっていただいて。私にではなく司祭様に施してあげるべきではないんでしょうか?」
軽くなった肩をぐるりと回し、首をこきりと鳴らす。
「良いのです。貴女でなければ意味がありませんから。貴女は特別なのです」
聖女であるカルリアは何かにつけてルルのことを特別視したがる。視線があったカルリアがにっこり微笑むが悪気は一切みられない。
(んー、聖女様がいいって言っているんだからいいのか……)
ルルもだいぶ従順になったものだ。
「それよりも、明日は修道院へ行く日ですね。もし少女の思いが本当であれば、あちらで会うことが出来るかもしれませんね」
その通りだ。無事にたどり着いたかどうか確かめなくては。少女が絶対に悪い人ではない、と自信のあるルルは明日を思うとドキドキが止まらない。無事であって欲しいと思わずにはいられない。
「おやすみなさい、聖女様」
カルリアに就寝前の挨拶を済ませると、ドアに鍵をかけて部屋に戻った。鍵の扱いにもだいぶ手慣れてきたものだ。
翌朝、身支度を整えた聖女と共に馬車の元へ向かった。行き先は昨日話しに出た修道院だ。聖女カルリアと司祭は定期的に修道院へ出向き、新たに聖女となれそうな人物がいるか探している。
「貴女も中に入りなさい」
今日は陽射しが強いから馬車の中へ、とカルリアから誘いを受けたが、ルルはただのお世話係。聖女と司祭が乗る馬車の中に一緒に乗っていくわけにはいかない。
ルルは丁寧に断りを入れ、御者台に乗った。
御者に『馬を扱ってみるか?』と冗談交じりに言われたが、ルルはぐっと我慢した。孤児院時代なら『やらせて!』とすぐさま手綱を握っていただろう。だいぶ、軽率な行動を取ることがなくなったなと感慨深くなる。
朝早く出発し、昼前に着いた修道院に少女の姿はなかった。もしかしたら、考え直して町に戻ったのかもしれない。
新たな聖女発掘も実を結ばず、意気消沈しながら帰路に着く。
馬車に揺られ、ぼんやり景色を眺めていると何か違和感があることに気がついた。
「あのっ! 停めてください!!」
手綱を握る御者の腕に掴まって、ルルは早く停めてと腕を揺らす。突然馬車が停まったことを不審に思った司祭が小窓から顔を出した。
「どうしたのです?」
「あの、ちょっと……」
ルルは馬車から飛び降りて、雑木林に駆け寄った。
(ああ、やっぱり靴だ……)
靴が片方落ちている。それを拾って、さらに奥へ。乱暴にこじ開けられたトランク。ナイフで切られた跡がある。さらに奥、地面に広がるプラチナ色の長い髪。裸にされ、凌辱され、殴られた痕のある少女の遺体。
「ああ……」
ルルは膝から崩れ落ちた。
はたはたと涙がワンピースに落ちて、染みになっていく。
「ルル? どうしたのです?」
「せいじょさまぁ……」
振り返ったルルに目を見開いたカルリアが映った。大丈夫ですか? と駆け寄ってルルを抱き締める。
「彼女を助けてあげることは出来ないのですか?」
抱き締めてくれる腕がピクリと動いた。ルルは見逃すことなく期待を込めて、カルリアを見上げる。
「出来るわけなかろう」
司祭が藪をかき分けながら近づいてきた。
「司祭様、どうして出来ないのですか!? もう命が絶えているからですか!? でも、だけど、駄目元で神聖力を使っていただくことは出来ないのでしょうか!? もしかしたら聖女様に新たなる力が生まれていて、彼女を生き返らせれるかもしれないじゃないですか!!」
「駄目ですよ」
司祭が眉間にシワを寄せ、しかめっ面でルルを見下ろす。
「どうしてです……」
「この少女は何者ですか? 名前は? 住まいは?」
ルルは答えることが出来ない。昨日、聖堂にやって来て修道院に行きたいと話していた。家出をしており、町に戻ることは出来ないと。
「わかりません……。でも……」
「どうしても、と言うのなら、それなりの対価が必要です」
「……対価」
「つまり……」
司祭がジェスチャーする。お金だと。
ルルにお金などない。無賃で働かせてもらっているのだから。
「そんな、あんまりだわ……」
青ざめたルルにカルリアは慈愛に満ちた目を向ける。
「帰りましょう」
(聖女様も……)
ぷつん……。ルルのなかで何かが切れる音がした。
ルルは何事もなかったように、スッと立ち上がる。
「私は彼女を埋めてから戻ります」
「ルル、それは危険よ」
「いえ、埋めてから戻ります」
カルリアの説得に応じようとしないルルに司祭は「置いていく」と聖女の腕を引っ張った。
ルルはふたりを見送るとしゃがみこみ、手近な石を掴んだ。ガリガリと地面を掘る。
「おい」
振り返ると御者がいた。馬を一頭引き連れている。
「司祭様がこいつに乗って帰ってこいってさ」
乗れるか? との問いにルルは頷いた。
御者は、手伝ってやりたいがと両手を組んで彼女の死を偲ぶと、もと来た道を戻っていった。
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