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【序章】ザ ビギニング オブ ジエンド フォー ア サートゥン ハイスクールガール

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・はにかみながらを披露するサクラコさん・


「おーい!サクラコッ!いい加減、学校の時間、大丈夫なのっ!?」

 母親のその言葉で、ハッと我に返った金髪ツインテールのスリーブモードサクラコは、無意識に、近くのソファへ置いていたカバンを、おもむろに掴んで立ち上がった。
 そして、活動準備状態の脳で、ボーッと目が離せなくなっていたテレビから、意を決して視線を外し、口まで運んで、行き場の失ってしまっていたサンドウィッチを、慌てて一気に頬張り、咀嚼せずに飲み込んだのだった。

  「んぐググググ…………んんんんん~」

 突然だが、サクラコが住んでるこの場所は、両親が長年の夢であるを建てようとするがゆえに、都心部だと地価が高くて、とてもじゃ無いが手が出せれないという事で、中学卒業まで慣れ親しんだ都心部から、びっくりするくらい何も無い超ド田舎に、2年程前、新築と同時に移住して来た……と云うのが理由である。

 

 そんな、のんびりとして、自然豊かな所に住んで居るサクラコは17歳。両親と4つ離れた妹、そして猫と一緒に、現在は、以前住んでいた都会とは程遠い片田舎で、ほのぼの暮らして居る。
 まぁ、本人的には、今まで妹と1つの部屋を分けて生活していたのが、このたびに、憧れだったを与えられたので、田舎暮らしも満更では無い!と感じて居たのである。(田舎は全く関係ないが……)

 「ちょっと、大丈夫ー?慌てて丸呑みしたんでしょ?ほら、紅茶飲んで!全く呆れた子ねぇ~……それより今日の忘れ物は大丈夫なの?確認はした?」

 母親は、こんなポンコツに育ってしまった我が娘に、若干のを感じて、マグカップに入れた紅茶をサクラコに手渡してから、ヤレヤレ……と言った感じに台所へと戻った。
 それを聞いたサクラコは、脊髄反射で応えるように「大丈夫だってぇ!」と玄関にある鏡に向かって、出掛ける身支度をしながら返事をしたのだった。

 続けて母親は「あんたは、急いでると何も無い所で転ぶんだから、怪我とかしないでよ!行ってらっしゃい!」と、視線は洗い物に落としたまま、既に玄関に居るであろう娘へとのように声を掛けたのであった。

 「はいな♪」と、サクラコは、心の中では、イチイチめんどくさいなと思いつつも、気分を悟られまいと、少しだけ声のトーンを上げて平常運転を装った。

 「いってきまぁーす!!」

 リビングでは、時計を見る手間をはぶくべく、テレビのワイドショーが流れており、番組内では芸能人が時事ネタを、さも当事者気取りで、思慮深く意見を述べていた。
 そんなおり、ニュース速報の効果音が芸能人の、演出とも錯覚しそうな意見と被さる様に鳴り、突然、ワイドショーからバタバタとした、慌ただしい報道局内へと画面が切り替わったのである。
  
「はい。視聴者の皆様には、大変ご迷惑をおかけする事をお詫び申し上げます。これまでの時間は、ズームインワイドをお送りしてましたが、只今から、番組を変更致しまして、特別報道番組をお送りします。大本営陸海軍部、10月17日午前6時発表。極東帝国陸海軍は、本日17日未明、暫く緊張状態が続いていた西太平洋諸島、デルタリーフ空軍基地において、ベルーシャ連邦国軍、フラクタル社会主義国軍と戦闘状態に入れり。極東帝国陸海軍は、本日17日未明、西太平洋諸島、デルタリーフ空軍基地において…………………」

 

 「ぴぽぴぽぴーん♪ぴぽぴぽぴーん♪ぴぽぴぽぴーん♪」
 「ヴィーン……ヴィーン……ヴィーン……ヴィーン……」
 
 この時、一斉に自治体からのエリアメール通知が届いたのだが、通学のバスに乗り遅れまいと気を取られていたので、サクラコはエリアメールには全く気付かず、現在の状況を知るのは、学校へ着いて暫く経っての事であった。

 特別報道番組に切り替わったテレビ内では、情報が錯綜している事が手に取るよう見えていて、現地の記者に現在の状況の情報を、少しでも多く聞き出そうと報道デスクがどうにか繋いで居たのだが、その放送をブツ切りにするかの様に、突如画面が暗転し、しばくの沈黙の後、不気味なサイレン音と共に「航空攻撃情報」と書かれた無機質な文字だけの画面が現れて、且つ淡々と、ゆっくりとした機械音声で、刻々と情報内容が読まれたのだった。

 
 
 そして、この事が、サクラコの今後の運命に、多大なる影響を及ぼす出来事に他ならなかったのだった。

 サクラコの通学は、自宅がド田舎にある為にバスを利用している。
 1時間半程で通っている高校に着くのだが、大方おおかた2年間も、同じ時間、同じ路線で通学しているので、学年が違うと言えど、乗って来る面子はいつも同じなので、勝手に顔馴染みになった気分であった。

 

 「なんと言うか……私も含めてだけど、毎度の事ながら……このバスの乗客ってツインテール率が高いんだよね……今更、流行りって事は無いと思うけど。なんでだ?いっその事、もう、会社や学校指定の髪型にしちゃえばいいのに……まさか、私の知らない見えざる力が働いているのか………だったりして。って、いつも同じ時間に乗って来るあのオネーサン、相変わらず脚めっちゃ綺麗だなぁ!OLかなぁ?あのオネーサンの御御足は、長時間のバスの中での癒されポイントなんだよ~………今日も見れたんで、取り敢えず、心の中で拝んどこっと!」
 そう、このサクラコの心の呟きで、気付いた人も居るかもしれないが、実は「」である(笑)
 いや、男の娘も好きだが、女の子も好きなのである。一応、名誉の為に言っておくが、特に女性が対象という訳でも、性癖が歪んでる訳でも無い。単に、可愛い物や、可愛い事、綺麗な物が好きなだけであって、現代社会で取り上げられるLGBTや、フェミニン思想と言った訳でも無いのである。
 
 本人に至っては、ただ何も考えて無く、物事を直感的に判断しているだけなので、第三者から見て、表立っては可愛い事や、可愛い物好きに焦点が当たるのだが、実際は可愛い物だけでは無く、直感に訴えるものが有ればと言った感じであった。
 良くも悪くも、表面上は「」だが、その性格上、返って裏表が無く、変なプライドでマウントを取ったり、人を蹴落として上り詰めるような発想自体が皆無であった。
 そして、運が良いのか、単に巡り合わせが良かっただけなのか、高校に入学してからも、別段嫌がらせを受けたりしたことは無く、何故かクラス内のカースト順位は、中の上くらいの位置に落ち着いていた。 
 本人的には、自分の好きな事を好きと言ったり、やったりしているだけなので、クラス内のカーストが上だろうが底辺だろうが知ったこっちゃないと言った感じで、まるで興味は無かったのである。

 程なくして学校の近場の停留所で降り、決して軽くは無い足取りで、猫背気味にダラダラと学校へと急いだ。

(ね、眠い……家が遠いから、朝が早くて辛いんだよねぇ~……ていうか、今朝はなんでか誰も居ないんだけど……珍しい。サボりか?どうしたんだろう?まさか、遅刻とか……?)
  そんな事を、トボトボと歩きながら、覚醒して無い頭で思っていた。

 五分ほど歩いてようやく校門をくぐり?いや、越えて?更に重い足取りで教室へと向かったのだった。

 基本、サクラコは学校が嫌いな訳では無いのだが、ただ朝が苦手な為に「通学」という普通の人が、ある意味儀式の様に当たり前にしている行為が、とてつもなく、何かの苦行を強いられている風に感じていて、できる事なら夜に通学をしたかったと、かなり普通の女子高生からしては、頭おかしい思考の持ち主でもある。

 教室に入り、クラスメイトへ適当に挨拶をした後は、1時間目2時間目の授業の準備を粛々としていたのだが……何かがおかしい。
 ただ、何と無く普段とは少し違う雰囲気が、クラスをおおって居るように感じたのであった。 
 そう思ったので、何気なく辺りを観察していると、数人で固まってヒソヒソ話し合う者、驚愕や感嘆の声を上げる者、スマホ画面を食い入る様に見詰める者、メールを打つ指が残像拳になってる者、何処かへ連絡する者等、多種多様なリアクションをしていたのであった。

 (みんな慌ててる感じ?どうしたどうした?なんかあったのか……?)

 いつもなら、HRホームルームの前時間や、授業前等の合間に、友人達と会話をして脳ミソを覚醒するのだが、今朝に限っては、大脳皮質の活性化をうながす程の深い友人も居なければ、残念な事に苦手な教科からの時間割だったので、尚更憂鬱である。

 ただ、そんな大ボケサクラコでも、教室内の物言えぬ雰囲気に耐え兼ねて、近くに居る、友人とまでは言えないクラスメイトに、現状を聞いてみる事にしたのだった。

 「ねぇねぇ、あのさ、忙しそうな所悪いんだけど、何か……てか、今日って何かあったの?私、家が遠いから早くバスに乗ってきたんだけど、よく分からなくて……」

  声をかけられたクラスメイトは、一瞬、驚きと同時に可哀想な人を見る様な呆れた表情になって、こう告げたのだった。

 「サクラコ、あんたマジで言ってる?テレビとかスマホ見てないの?何か大変な事になっちゃってるよ?早く自分のスマホ見てみ!それと、家にも連絡入れときなよ!」

 その子はそうサクラコに言い残し、サッと席を離れて、何処かへ電話をしに行ったのだった。

  なんだか要領を得ず、ぽつんと一人取り残されたサクラコは、渋々とスマホをカバンから取り出し、検索エンジンを起動させて視線を落とした。
  そこには無数の「宣戦布告」と「開戦」の文字。
 画面を幾ら下にスクロールしてもその項目しか表示されて来ない。

 「はぁ?ナニコレ?どういう事?開戦って戦争が始まったって事?え?なんでよ?てか、どこで戦争?」

  状況を全く把握出来て無いサクラコは、現状を調べようとするが、あまりの事に脳の処理が追いつかず、欲しい情報が分からなくて、単に目に付いた項目をタップしては開いては閉じを繰り返し、読んではいたものの理解が出来て居なかったのであった。

 とんでもない事が起きたと漠然と感じる反面、実は大したことないだろう……とか、何処か自分には関係ない……とも思っていた。
 所謂「正常バイアス」である。 
 サクラコは勿論の事、今までに戦争体験も無いし徴兵制度もこの国には無かった。戦争とは全くの無縁な生活をしていたのである。そんな人生を歩んで来た為、いきなり「開戦」だの「宣戦布告」だの言われても、実際はピンと来てなかった。
 と云うより、大変な事だけど、何をしていいか分からないから何もしない。だった。

 何処かフワフワした感覚で、記事からホーム画面に戻すと、着信五十通、メール、SNS通知が百五十件を超えて居てギョッとなったのだった。 
 自宅から電話が四十件、今朝から居ない友人のマミリとアリシアから五件づつ。残りは色々な手段でのテキストメール。どれもが安否の心配やら所在確認の連絡であった。
 サクラコは慌てて友人には「大丈夫!」とだけ速攻で返信をして、直ぐ様自宅に連絡を入れると案の定、母親からの怒声が聴こえてきたのだった。

   「あんた!なにやってんのよ!いっくら電話しても出ないし!」

 「あ、ご、ごめん!さっき気付いてさ!大変なことになってるって。わ、私、ど、どうしよう?帰る?学校どころじゃないよね?」

 「サクラコ、取り敢えず落ち着いて良く聴きなさい。」

 「うん。」

 「どうせあんたの事だから、ソワソワしてるだけでなにもしてないんでしょ?」

 「そ、そうだけど……」

 「でしょうね。スマホで現状は理解してる?」

 「一応調べてみては見たんだけど、どう動けば良いのか分からなくて……」

 「わかったわ。ホントなら今すぐ帰って来なさいって言いたいんだけど、今、街は戒厳令が敷かれ、公共交通機関も運休になったの。だから、ここまで帰って来る手段が無いって事なのよ。まぁ、最悪、歩きか、自転車を借りて帰って来れば良いけど、今はだめよ。絶対に外に出ないで!」

 「う、うん。(マジか~……)」
 
 「この国に宣戦布告した相手が攻めて来てるみたいだから、絶対に外には出ないで!それと、あ、今、学校よね?上の階じゃ無くて、なるべく1階に居なさい。多分、避難訓練みたいな感じで、生徒まとめて体育館とかに行かされると思うけど、そこは、トイレでも篭ってやり過ごしなさい。」

 「う、う~?うん。(何言ってんだ?この母親……)」

 「それから、もし連絡出来なくなっても心配しなさんな。お母さんも、お父さんも、カスミ子も大丈夫よ。帰れるなら帰った方が良いけど、無理して帰ろうとしちゃダメよ。わかった?一番のあんたが優先する事は、命を守る事よ。それだけは忘れないで。」

 「わ、わかった。そ、そんなこと言って……てか、直ぐ帰れるよね?」

 「お母さんからは何とも言えないわね。あ、スマホは使う時以外は電源を切っておきなさいね。電話だとバッテリーが無くなるから、今後はメールにするからね!わかった?備蓄食料貰っても、一気に全部食べちゃ駄目よ!じゃぁ、またメールするこらね!ちゃんと命を守ってね!」
 
 「ええ?あ、う、うん。そっちも気を付けて!ばいばい~。」

  普段通り、特別感の無い挨拶で、家との連絡が終わると、マミリとアリシアから新着メールが届いていた。
 内容によると、二人とも通勤、通学の前に事を知り、父親が疎開を決めて朝早くから必要なものだけを持って、既に街から移動中との事だった。そして、最後に(私だけ逃げてごめんね)と書いてあったが、そんなの、家族が決めた事なんだから、全然謝る必要無いのに……と感じたので(私も今からバックれるところ!)と返信しておいた。
 
  二人は高校からの友人で、同じ遠距離通学でありながらも、サクラコとは違い、都心部の方から通って来て居る。なので、サクラコからは、雰囲気的に何処か垢抜けてる様に見えると同時に、そんな二人の事をちょっとした憧れのようにも感じていたのであった。
  友人と言えるその二人の、一体何に自分が惹かれているのか、魅力的に見えてるのかは、具体的に言葉には出来ないのだが、ちょっとしたオシャレな小物を持っていたり、仕草だったり、物腰だったりと、漠然とだがそんな二人のフワッとした雰囲気が好きなのであった。

  そんな、今思い出すべきではない事に思いを馳せていると、突然担任が教室のドアから顔を覗かせ「急いで体育館に集合な!緊急の全校集会するから!」と大声で言った後、走ってどこかへと行ってしまった。

 (あ~……こういう事ね。まぁ、纏めた方が点呼取りやすいし、管理しやすいもんね~。取り敢えず、トイレ行っとこ。)

  サクラコは体育館に向かう生徒達の波に乗って、一人脇に逸れるようにトイレへと脚を向けた。
 すると、集会が長くなるのを見越してなのか、何名かは、同じ様な考えを持った人が先客で居て、急いでる訳でも無く普通にしていた。

 サクラコは特に用をしたかった訳では無いが、するフリで、端っこの個室に入り、どうにかこの時間をやり過ごそうと、何となく窓に視線をやった時、聞き慣れない空気を切り裂く音に違和感を覚え、青空のある一点に眼を奪われたのだった。

  

 (ん?なんだあれ?飛行機?だろうけど、なんであんなに何本も飛行機雲が伸びてるんだ?何かちょっと低い気がするけど、旅客機……じゃない……よね?え?あれってまさか……) 

 そう思った瞬間に、街の方角から眩しい位の光と、肌に感じる熱、数秒遅れて激しい爆発音と衝撃波が襲って来たのだった。
 

 
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