僕が女の子に!?

ミハナ

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恵と灰羽の出会い/恵と女の子たち

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 大学での一室に通りかかった恵めぐむは学園の問題児の一人、灰羽灰羽はいばと女の子とのセックス現場を目撃してしまう。
 女の子は見られた事に慌てて服を整えて逃げ出してしまった。
 恵は下衆を見る目付きで中の男―――灰羽をひげいした。
「神聖な学び舎でなんてこんを」
「ふうん、神聖、ねえ……女の子が帰っちゃったから君が相手してくんね?」
「触るな、下衆が」
「そう言って本当は興奮したんじゃねえの?後ろからこうやって突かれてさあ……」
 いつの間にか近づいてきていた灰羽に、スラックスの上から尻を撫でられようとしていた、咄嗟に恵は抵抗し、彼の足を強く踏みしめた。
 だが、性別が変わった体では上手く力が入らない。
 仕方なしに出ていこうとすると、待ってるね、と肩を掴まれ囁いてから何事も無かったように灰羽はスタスタと言ってしまった。
 残された恵は体を抱き抱えて蹲る。
 その姿を、恵のことを探していたさな達に見つかった。
 耳に残るのは突かれて善がる気持ち良さそうな声。
 いつの間にかその女の子の姿は恵自身になっていた。

 はるかに会いたくなった。
 それでもこの体に変わってから、はるかには一度も抱かれていない。
 恵は落ち込んでしまった。
 やっぱり女の子の体では駄目なんだろうな、と。
 日に日に女性の体に近づいていく自分の身体に嫌気が差していた。
 酷い事故だったらしい。
 三ヶ月、リハビリに励んだ期間は長いようであっという間だった。
 自分の性が変わることさえ無かったら。
「……はるか………」
 不安そうに、合流したさな達に聞こえないように恵は独りごちた。



 別の日。
 恵はあれから会いたくもなかった灰羽に捕まって、例の教室に連れ込まれていた。
「お前のことは少し調べたぜ、男から女になった恵ちゃん? 」
「めぐむ、だ。めぐみやないで」
「なあ、今まで男として生きてきたのに突然女になってどんな気分だ? 」
「黙秘する」
「着替える場所でさえ割り当てられて、更には腫れ物扱いされて、苦しくねえの? 」
「興味本意か? 僕のこと貶めて楽しいんか? 」
「うん、興味あるね、恵ちゃんがどう乱れるのか」
 女に欲情すんの? 下世話な話題を切ろうとしたら腕を掴まれた。
「未だにここにいるってことはさ、されたくて居るんじゃねえの? 」
「違う、話す為にまだ居るんだ。……僕は、可哀想、か? 」
「一般的には? でもお前がどう思うかは勝手だなあ」
「お前はどう思うんや、灰羽」
 楽しげに、でもどこか苦々し気に笑う男から距離を取りつつ、首を振ることも出来ない恵の頭をぽんぽんと撫でる。
 その手つきが存外優しくて顔を上げると腕も離され、教室を出ていく背中。
 恵はチャイムが鳴るまでそこに立ち尽くしていた。


 全ての科目が終わり、恵は教授に先程の授業の不明箇所を聞こうと席を立った時だった。
 さな達女友達三人に捕まったのは。
「下着を買いに行くわよ!! てことでレッツラゴー! 」
「ちょ、待ちい、今から教授に話聞きに行こうかと……っ」
 それに女物の下着なんて益々女に近づくんじゃないかと思うし焦る恵。
 その答えに、にまりと愛華|愛華|《あいか》は含みのある笑みを浮かべて肩をがしりと掴む。
「めぐー、あれからはるくんとは何もされてないんでしょ? 」
「う、それは……」
「だったら、こっちから誘わないと!! はるくん取られてもいーの? 」
 さなにまでそう言われて、反対側の肩を掴まれる。
「そ、それはいやや……っ」
「なら、さ!一緒に見立ててあげる!めぐは絶対近寄れないだろうお店で♪ それに胸潰してるの体に良くないよ? 」
 恵はサラシを巻き、その上から男物のタンクトップを着て、更にシャツを着用しているためそういった物とは無縁だった。
 だが、日々大きくなるバストを無理に潰しているので、痛みが時々走るのも事実だった。
「女はそういった下着にも拘るんか? 」
 恵がそう言うと女の子三人は何度も頷いてみせる。
「そりゃ彼氏に見せる下着とか、普段用とか拘るよね? 」
「だってちょっとでも良く見られたいじゃん、綺麗だとか、可愛いだとか! 」
 つまりは他の男に見せるための努力じゃないのだと知ると、少し女に対しての考え方が変わる気がした。
 誰彼をも誘うような、昔のトラウマのような女だけじゃないのだと。
 そんな女はあくまで少人数なんだろうと。
 そして昔の、女を毛嫌いしていた自分自身を恵は恥じた。
 男のままだったらそう考えることも無かっただろう。
 今の恵には彼女たちがキラキラと輝いて見えた。

「……みんな、あんがと……」
 それから皆で出かけた買い物先、可愛いショップの前で恵がポツリと零した言葉に、三人の女友達たちは顔を見合わせた。
 愛華が恵の背を思い切り叩く。
 愛華は少し男勝りなのだ。
「別にいーてっ! 皆自分のも買うんだからさー! 」
「ね、早く中に入ろ? 」
「そーそー」
 彼女たちに押されて回転ドアに手をかけて中に足を運べばいらっしゃいませーの声の中、様々な形の、可愛い下着達が綺麗に陳列されていた。
 すぐさま、さなが一つを手に取り「めぐにはこうゆうのも似合うよ、着てみて? 」と翳してくる。
「その前に測定じゃないかな? 」
 控えめにひかりにもそう言われ、それもそうかとさなと愛華は大きく頷き恵を店員の前に突き出した。
「この子のサイズ測ってください」
 そして個室に案内されている時にも聞こえる賑やかな彼女たちの声に、恵は本当に彼女たちが自分の性別が変わっても受け入れてくれたことに感謝した。

 あれから色々と三人が勧める中、恵が買ったのは淡いブルーのグラデーションがかかった白いレースのひと揃え上下だった。
 これでもマシな方なのだ。
 布地がもっと少ないのや、スケスケ、下着とはなんぞや? みたいなものもあった。
 紐じゃないだけマシだった。
 それに、昔、朝川が言ってくれたのだ。
 夏の暑い盛り、二人で自転車をコンビニに止めて買ったアイスを食べていた時。
 まだ二人は学生だった。
 朝川が食べるソーダアイスが美味しそうで、いや、朝川に見蕩れてた時に食べるかと差し出されたアイス。
 それに思い切ってかじりついた時に言われたのだ。
『恵は青が似合うな』と。
 その時の朝川は本当に優しい表情をしていたのだ。
 照れた恵は、そのままアイスを食べ尽くしてやり、朝川を半泣きにさせたのだが。
 あれは、二人が未だ身体の関係を持つ前の夏だった。
 だから恵は、その青を彷彿とさせるグラデーションのかかった下着を選んだのだ。

「そーいえば、灰羽またやらかしだって! 今度は女教授とだよ! 誰か一人に絞ればいいのにねー、さなはどう? 」
「ええっ!ナイ、まじでないわ……」
「ひかりは?」
「な、なんで!? 」
「灰羽のこと好きじゃなかったっけ? 」
「かっこいいなとは思うけど、……私には勿体ないよ……」
「ひかり、めっちゃ可愛いんだからコクってみたら? 」
「でも……」
 四人はそれぞれ下着を買った後に、さなおすすめのカフェのテラス席で一息ついていた。
 話題には事欠かない彼女たちだ、愛華にせっつかれたひかりはシトロンのシフォンケーキを崩さないように食べていた。
 そういう所がひかりは大人しめな子だった。
 愛華は豪快にフルーツ山盛りのパフェを食べていく。
 さなはお腹が空いてたんだよねー、と一人クリームパスタをフォークに巻きながら美味しいと口に運んでいた。
 その所作は一つ一つが綺麗だ。
 恵はあれからちょっかい出してくるようになった灰羽のことが、はっきり言って嫌いだった。
 ヤることしか考えてない、軽薄なチャラ男。
 恵が男だった時から良い噂は聞かなかった。
「……いや、あの男は嫌やわ。ひかりにはもっと良い奴おるよ」
「んん? めぐ、個人的に何かあったん? めぐが口に出して人のこと非難するなんて珍しいね? 」
 さながクリームパスタをムグムグと食べてから発言する。
 愛華もそうだな、珍しいとパフェのスプーンを咥えながら同意した。
 恵はかいつまんで説明することにした。
「ふーん、あの灰羽がねぇ……」
「僕のこと興味本意でつついてるだけやろ、嫌やわ」
「そ、そうかな? 」
 ひかりは話の推移を見守っていたが、控えめにそこは否定する。
 更に言葉を続けた。
「めぐちゃんのこと、気に入ってるんだと思うんだけど……」
 俯きがちに話すひかりの声は少し寂しげだった。
「まあなあ、あいつが一人のやつを気にするとか、それこそ珍しいわ」
 あぐ、とスプーンいっぱいにパフェを乗せた愛華に皆頷いていた。
 恵はアイスティーのストローをくるくる手持ち無沙汰に回しながら、思い切り顰め面をしてみせる。
「興味本意でつつかれん、ほんと嫌や」
「まあまあ、めぐには重大任務が待ち受けてるからね! 」とショップバックの中身を示唆するさな。
「重大任務? 」
「その下着ではるくん悩殺するんだろ? 目的忘れたのか? 」
 愛華がスプーンで指し示した後、グラビアアイドルみたいな扇情的なポーズをとる。
 胸の大きさが強調されて、恵は少し顔を赤くした。
 ひかりが勢い込んで、結果報告待ってるからと身を乗り出し気味でいう。
 長い髪がさらりと流れた。
 恵は恥ずかし過ぎて、その場を誤魔化すように更にチョコレートムースセットを追加で注文したのだった。



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