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第5杯 ②
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「ど、どうしたんですか、急に?」
あたしが次の言葉を発するより先に、マス姉が視線をあたしから手に持ったカップに移す。
「んーなんとなくさ」
マス姉の元気のない声が少し気になったけど、聞かれた事にあたしは答え返した。
「今はいないですし、あたしの大学女子だけだし」
「ふ~ん、出会いがないのか」
「まっそんな感じ――――ですね」
「じゃあさ、あのふたりはどうよ?」
「えっ――――あのふたりって?」
「この前紹介したコ。藤井慎一くんと洋輔の事」
「う~ん、あんまり藤井くんの事知らないし、洋輔に限ってはない……」
間を少しおいてから、あたしは尚もとどめを刺すかの様に言い切る。
「ないっうん。彼女いるし――――ないですね」
言い切った後、何度もうなずくあたしに、納得できてなさそうな顔のマス姉。
「んじゃ、董子ちゃんは誰かのものだと、諦めるんだ?」
ちょっとの間考えてから、続きを答えるあたし。
「う~ん、諦めるって訳じゃないけど、
彼があたしの方を見てくれるまで待ちます。
何より、彼女と自分の間で悩んでる姿は辛いし、
そんな中途半端な付き合いもあたしは嫌です。
それにどちらも選べないって事は――――――その人は、
あたしじゃなきゃダメっていう事じゃない気がする」
自分の考えを言い切ってから、あたしは沈黙しているマス姉の様子を伺う。
「って、あたし真面目に答えすぎちゃったかな?」
「ん~なんかさ、董子ちゃんらしいな」
マス姉はまたカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。ゆっくりと味わっていたコーヒーをちょうど飲み干し、カラッポのカップを見つめたまま、一息つくと皿の上にカップを置く。
「さてと、そろそろ出勤するか」
「マス姉、今から出勤なんだ?」
「うん、ま~ね。休日出勤って所かな」
「社会人は大変なんだね」
「そっいう事。じゃ、マスターごちそう様」
大家さんは仕事している手を止め、声が聞こえる方に顔を向ける。
あたしの隣にいるマス姉へ優しく微笑んだ。
「岡島さん、いってらっしゃい」
なぜか緊張気味で少しこわばった様な顔をするマス姉。大家さんの声を聞いてか、表情が和らいだ。
今まで強気な姿しか知らなかったあたしの目には、少し弱々しい感じに映る。彼女は出していた自分の物を鞄に詰め、カウンターに手をつき腰をあげた。
「それじゃ、いってきます」
お店の出口にマス姉はゆっくり歩いて行くのだった。
あたしはマス姉と会話しながら、待ち人を待とうと、思っていたが、その肝心な相手は休日出勤。話相手がいなくなって、時間を持て余す事に。
「おや、董子ちゃんは今日出掛けないのかい?」
「はい、あたしは昨日に続いて、今日も洋輔の子守りです」
「そうだったのかい」
「はい。でも、今日は藤井くんも一緒なので、少し気は楽ですけど」
あたしは少し苦笑を含めて、大家さんに答えた。
「そう、それはよかったじゃないかい」
「はい」
「じゃあ、1日ここにいるんだね?」
「はい、そうなりますね。洋輔に勉強教える約束になっているので」
「そうかい――――それなら、みなさんで勉強会なさるのなら、ココで食事等用意しようかね?」
「でも、ご迷惑かからないでしょうか?」
「大丈夫、心配はないよ。しっかり洋輔くんには勉強してもらわないと」
「ですね。後、あそこのテーブル占領してもかまわないでしょうか?」
大家さんも洋輔に対し、そう感じていたのかと、思ったらおかしかった。それでも笑うのを我慢して、あたしはカウンターの斜め後ろにあるテーブルを指す。
「ああ、かまわないよ。もし――――混みそうになった場合は、図書館にでも移動してもらおうかね」
「じゃあ、それまでお言葉に甘えさせてもらいます」
「ああ、そうしておくれ」
あたしとの会話が終わるとまた大家さんは、自分のしていた仕事の続きをやり始めた。また会話相手がいなくなった為、あたしは自分の鞄に手を伸ばす。
あらかじめ、自分の鞄の中には時間つぶしの品々を、こんな時の為に仕込んでおいた。
あたしはどれにしようかと迷ういながら中を探る。一度手に持った物をマジマジ見てから手から離し、また違う物を手に取り、悩む事数十分。なかなかどれがいいか決められずにいた。
ずっと鞄とにらめっこしていたあたしの目の前に、スゥーっとコーヒーを持った手が現れる。視線を鞄から外して、手が現れた方に移した。
そこには目を細めて優しく微笑む大家さん。
「はい、これ」
大家さんがそう言って、カウンターに置いた白いコーヒーカップを指で指す。
「あっありがとうございます」
「まだ、ふたりとも来られないようだね」
「ですね。もう約束の時間なんだけど」
「まぁ、これでも飲んで待つといいよ」
「はい――――」
あたしが次の言葉を発するより先に、マス姉が視線をあたしから手に持ったカップに移す。
「んーなんとなくさ」
マス姉の元気のない声が少し気になったけど、聞かれた事にあたしは答え返した。
「今はいないですし、あたしの大学女子だけだし」
「ふ~ん、出会いがないのか」
「まっそんな感じ――――ですね」
「じゃあさ、あのふたりはどうよ?」
「えっ――――あのふたりって?」
「この前紹介したコ。藤井慎一くんと洋輔の事」
「う~ん、あんまり藤井くんの事知らないし、洋輔に限ってはない……」
間を少しおいてから、あたしは尚もとどめを刺すかの様に言い切る。
「ないっうん。彼女いるし――――ないですね」
言い切った後、何度もうなずくあたしに、納得できてなさそうな顔のマス姉。
「んじゃ、董子ちゃんは誰かのものだと、諦めるんだ?」
ちょっとの間考えてから、続きを答えるあたし。
「う~ん、諦めるって訳じゃないけど、
彼があたしの方を見てくれるまで待ちます。
何より、彼女と自分の間で悩んでる姿は辛いし、
そんな中途半端な付き合いもあたしは嫌です。
それにどちらも選べないって事は――――――その人は、
あたしじゃなきゃダメっていう事じゃない気がする」
自分の考えを言い切ってから、あたしは沈黙しているマス姉の様子を伺う。
「って、あたし真面目に答えすぎちゃったかな?」
「ん~なんかさ、董子ちゃんらしいな」
マス姉はまたカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。ゆっくりと味わっていたコーヒーをちょうど飲み干し、カラッポのカップを見つめたまま、一息つくと皿の上にカップを置く。
「さてと、そろそろ出勤するか」
「マス姉、今から出勤なんだ?」
「うん、ま~ね。休日出勤って所かな」
「社会人は大変なんだね」
「そっいう事。じゃ、マスターごちそう様」
大家さんは仕事している手を止め、声が聞こえる方に顔を向ける。
あたしの隣にいるマス姉へ優しく微笑んだ。
「岡島さん、いってらっしゃい」
なぜか緊張気味で少しこわばった様な顔をするマス姉。大家さんの声を聞いてか、表情が和らいだ。
今まで強気な姿しか知らなかったあたしの目には、少し弱々しい感じに映る。彼女は出していた自分の物を鞄に詰め、カウンターに手をつき腰をあげた。
「それじゃ、いってきます」
お店の出口にマス姉はゆっくり歩いて行くのだった。
あたしはマス姉と会話しながら、待ち人を待とうと、思っていたが、その肝心な相手は休日出勤。話相手がいなくなって、時間を持て余す事に。
「おや、董子ちゃんは今日出掛けないのかい?」
「はい、あたしは昨日に続いて、今日も洋輔の子守りです」
「そうだったのかい」
「はい。でも、今日は藤井くんも一緒なので、少し気は楽ですけど」
あたしは少し苦笑を含めて、大家さんに答えた。
「そう、それはよかったじゃないかい」
「はい」
「じゃあ、1日ここにいるんだね?」
「はい、そうなりますね。洋輔に勉強教える約束になっているので」
「そうかい――――それなら、みなさんで勉強会なさるのなら、ココで食事等用意しようかね?」
「でも、ご迷惑かからないでしょうか?」
「大丈夫、心配はないよ。しっかり洋輔くんには勉強してもらわないと」
「ですね。後、あそこのテーブル占領してもかまわないでしょうか?」
大家さんも洋輔に対し、そう感じていたのかと、思ったらおかしかった。それでも笑うのを我慢して、あたしはカウンターの斜め後ろにあるテーブルを指す。
「ああ、かまわないよ。もし――――混みそうになった場合は、図書館にでも移動してもらおうかね」
「じゃあ、それまでお言葉に甘えさせてもらいます」
「ああ、そうしておくれ」
あたしとの会話が終わるとまた大家さんは、自分のしていた仕事の続きをやり始めた。また会話相手がいなくなった為、あたしは自分の鞄に手を伸ばす。
あらかじめ、自分の鞄の中には時間つぶしの品々を、こんな時の為に仕込んでおいた。
あたしはどれにしようかと迷ういながら中を探る。一度手に持った物をマジマジ見てから手から離し、また違う物を手に取り、悩む事数十分。なかなかどれがいいか決められずにいた。
ずっと鞄とにらめっこしていたあたしの目の前に、スゥーっとコーヒーを持った手が現れる。視線を鞄から外して、手が現れた方に移した。
そこには目を細めて優しく微笑む大家さん。
「はい、これ」
大家さんがそう言って、カウンターに置いた白いコーヒーカップを指で指す。
「あっありがとうございます」
「まだ、ふたりとも来られないようだね」
「ですね。もう約束の時間なんだけど」
「まぁ、これでも飲んで待つといいよ」
「はい――――」
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