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第23杯 ②

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「……どう答えれば、正解……になるのか―――――」
「じゃ、質問変えるから。慎一とはまだ付き合ってないんだろ?」
「……こっちの気持ちも知らないと思う――――――」
「なら、少しでいいから哲太の事考えてやって、それに慎一の事も悪いようにはしないからさ」

 その言葉で、悩むあたしの顔がますますしかめっ面になっていくのが、自分でもわかるくらいだった。
 ただ、哲太さんはあたしじゃなくてマス姉が好き。でも、それを今あたしが彼女に伝えるべきじゃないだろうし、この誤解を解く方法がわからない。だからこそ、少しでも自分の心に一番正直で近い言葉を選びたい。

「マス姉――――――混乱してて、今は答える言葉がみつからない」
 
 気まずい空気が流れる。何も言わないマス姉は少し間を置いてから遠慮がちに話す。

「……なんだ……その、さっき言った事は気にするな……哲太たちの事、要するにいつでも協力するって事だっ」
「――――――ありがと」

 結果的には率直な言葉を選んだ事で、マス姉に少しは気持ちが伝わったからよかった。
 でも、あたしの誤解が解けたけど、哲太さんの誤解はいつ解けるんだろう…………か。

 マス姉はこの話に決着がついたと判断したみたいで、携帯を取り出した。その携帯で誰かと話し始める。
 会話はもちろんマス姉の声しか聞こえない。何度か返事をしたり、お願いするような内容の会話を相手としている。そして、話が終わったらしく携帯をきった。

「今、慎一と話してた」
「なんだぁ~藤井くんと話してだんだ。でも何の話?」
「風呂だよ。風呂借りたいって言ってただろ、だから今話つけた。大丈夫だって」
「じゃ、藤井くんの部屋に……でもどうしよう――――――突然そう言われても」
「何、言ってんだよ。チャンスだろ、思い切ってふたりで話したら色々」

 マス姉の言葉が余計にあたしの緊張を誘い、ピークにしていく。

「ふ、ふたりって、マス姉は?」
「あたしは、一時間ぐらい後で部屋に寄るよ」
「それって――――――ひとりで行けって事?」

 話す度に、手から溢れるものを握り締める。いつの間にか、あたしの手にはビッショリと汗が湧き出していた。こんな状態に気がつくどころか、あたしとは正反対に涼しげな顔のマス姉。

「そう言う事。慎一が待ってるから早く行きな。じゃ、あたしは今からCafeでコーヒーを堪能してくるか」

 いつになく足早にCafeへと消えて行ったマス姉に、返す言葉も見つからなかった。彼女の言った通りだったら、早く藤井くんの待つ二階へ上がらないと待たせる事になる。お風呂も借りるのにそんな事させれない。
 そう思うと、突っ立っていたあたしは、急いで二階へ向かう事にした。
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