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【2】ものすごく残念で、あまり頼りたく…
あまりにも脳筋で、あきれるほど楽しい。
しおりを挟む勇者を辞めるため、ドラゴンを倒す。
もしくは勇者を辞めさせるため、ドラゴンを倒す。
……何かが違う。そうじゃない感が強過ぎる。
それでもニースは本気だ。ドラゴンを倒しに行くつもりでいた。
「ニース、ドラゴンがどんな存在か、分かって言ってるのか?」
「おう、モンスターの中で一番強い奴だろ」
「俺が万が一負けてしまえば、ドラゴンは人に勝てると判断してしまうんだ」
アイゼンの言う事はもっともだ。
協会がドラゴンを「伝説上の存在だ」と騙していたのも、それが理由だった。
本当にドラゴン退治に向かわれ、むやみに刺激されては困る。
だから、ドラゴンはおとぎ話だと吹き込んできた。
ただ、ニースはこんな時だけ頭が働く。
発想力だけは豊かなのだ。
「オレ勇者じゃねえもん。勇者が負けなきゃいいんだろ?」
「そうか、ニースがアイゼンの代わりに戦うという手もあった」
「勇者アイゼンさんのために戦うという事ですね、僕もお供しましょう!」
脳筋組はドラゴン討伐に向かう気満々だ。
「ドラゴンってどこにいるんだ?」
「待て待て! そんな危ない所には向かわせられない! 俺のためだなんて」
「何言ってんすか。オレ、ドラゴン倒さなきゃ島に帰れねえんだぞ」
「あ、ああ、自分のためね。ごめん、なんか恥ずかしい早とちりした」
会長と側近も、負けるのが勇者じゃなければ別に構わないと言い出した。
負けた時の事を本人の前で堂々と語るのもおかしいが、むしろニース達を支援すると表明する。
「ボクも連れて行ってもらえないだろうか! 魔法もきっと役に立つ」
「そうだな。オレはヒールが得意なだけで、他の魔法は使えねえし」
「僕も、大きくなる事だけに集中してしまい、魔法までは……」
「それに世界を知って城に帰っても、ボクは何にも活かせない。せめて国への貢献に繋がる何かをしたいんだ。兄達の活躍と遜色ない何かを」
三男坊に、王族としての活躍の場はあまりない。
ジェインはお飾りの王族として生きるくらいなら、何か大きな事をしてみたくなった。
会長達は、王族の支援があれば心強いと言い出す始末。
これではまずい。全員火あぶりだ。
「待ってくれ! ドラゴン退治に失敗したら、全員火あぶりなんだぞ!?」
「負けた時点で命ねえよ、つかオレ負けないもん」
「いや、行かない俺の命まで巻き添えなんだが」
ドラゴン退治に行った場合、もし運が良ければ生き残れる可能性がある。
ニース達に任せても同じことが言えるものの、命を託すのはあまりにも心細い。
何よりアイゼンの性格では、他人に任せて自分だけ助かる事が許せない。
「行っても、行かなくても、どうせ……ドラゴンに炙られるか、王室に炙られるかの違い、か」
まさかの味方が追い詰めて来る展開に、アイゼンは大きくため息をついた。
しかし、ため息とは裏腹に、アイゼンの中で今までにはなかった気力が生まれていた。
アイゼンが勇者になったことで、故郷の村は目覚ましい発展を遂げた。
困っている人々の役にも立ってきた。
勇者として、出来る事はもう終わったと思っていた。
しかし、勇者になった時の目的の1つは、まだ果たされていない。
「そうか、そうだった。俺は……今までの勇者が成せなかったドラゴン退治を夢見ていたんだ」
アイゼンの目に、勇者になりたてだった頃の光が戻った。
「会長。俺の後は勇者の代理を何名か募って欲しい」
「え?」
「ドラゴン退治に向かっている間、当然ながら困っている人々の役には立てない」
「それはそうだが……」
勇者としてドラゴン退治に加わる事は出来ない。
けれど、アイゼンは自分も一介の冒険者として活躍したくなった。
ドラゴン退治もできて、かつ万が一の際、勇者が負けたという構図にもならない。
そのような策が必要だ。
「各国から選抜で1名選出し、勇者としてその国の護りに就かせるのはどうかなと」
「ということは、万が一の際は、その中から勇者を……」
「ええ。討伐が成功したなら、勇者の仕事は国の護りとしてもいい」
アイゼンが勇者を退く事は、おおよそ噂として広まった。
次の勇者の座を狙う者は大勢いる。
勇者制度の中身を変えるのであれば、今のタイミングが一番良い。
最初から役割を明確にしていれば、勇者の仕事から小間使いを排除できる。
ただ、それには問題点もあった。
「もしドラゴンを退治出来たなら、アイゼンが勇者扱いされないかい?」
ジェインの疑問はもっともだ。
仕事としての勇者職と、皆の英雄としての勇者は異なる。
どちらが称えられるかと言えば、もちろん後者だ。
しかし、そんな問題点はニースの言葉であっさり解決されてしまう。
「ドラゴンを倒したか倒してねえか、誰も分かんねえんだからいいじゃん」
ドラゴンなど、誰も生きている姿を見ていない。
代替わりの度に討伐に向かった事にされる勇者でさえも、ドラゴンは存在していないと思っているくらいだ。
「そうか、人々はドラゴンがいると信じているけれど、誰も見ていないんだ」
ドラゴン退治に向かえない理由はなくなった。
「マァーォ」
「ネッコ、ドラゴン倒したら一番にお前に喰わせてやっからな」
「グルル……」
4人と1匹は協会本部で今後の方針を固め、清々しい思いで建物を後にする。
これからはもう勇者ご一行ではない。ドラゴンを討伐するための冒険者としての旅が始まるのだ。
「さて、と。これでアイゼンも晴れて元勇者だな」
「ああ。明日にでも各国で勇者の募集が行われる」
「アイゼンさんが元勇者になったって、僕の中での勇者はアイゼンさんです!」
「おい、もう違うってのに勇者呼ばわりとか失礼だろ」
「では、僕の英雄です!」
アーサーが誓いを新たにしたところで、ニースが鞄から大金を取り出した。
「まあいいや。んじゃ、報奨金で装備買おうぜ!」
「そうだね。今はこんな汚いお金しか用意できないけど、使ってしまえば分からない」
「おいおい、別に盗賊から盗った訳じゃない。資金洗浄のように言わないでくれよ」
「100万エル以上あるんだぜ? な、盗賊って金になるだろ!」
「捕らえるのが、だ。誤解を生むような発言もやめてくれ、もう胃が痛くなるのはこりごりだ」
胃が痛む事も、アイゼンは自身のネタとして笑えるようになっていた。
どうせなら全員で装備のデザインを揃えようか、ドラゴン退治の前に少し寄り道をしようか。
アイゼンの口から、そんな前向きな言葉も生まれてくる。
かつてアーサーは、アイゼンとの出会いによって、自分の人生を決めた。
アイゼンとジェインは、ニースとの出会いによって人生が変わった。
ニースの人生もこれから変わる事だろう。
けれど、ニース自体はきっとずっと変わらない。
「あ! 見ろよあれ!」
ニースが街路樹の幹で何かを見つけた。
近寄ってその何かを嬉しそうに摘まみ上げる。
「この蔓《つる》! このこぶみたいな芋ね、食えるやつ」
退治屋ニース、王子ジェイン、元勇者アイゼン、忠犬拳闘士アーサー、猫モドキのネッコ。
旅に出た理由も境遇も、性格も得意な事も全部バラバラ。
でもなぜかどこか収まりがいい。
こうして、そんな4人と1匹のドラゴン退治の旅は、ようやく始まった。
【Nice】あまりにも無謀で、あきれるほど強い。 end.
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