マイ・ラヴ

荒深小五郎

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第一章

関空からミュンヘンまで

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2002年のポール・マッカートニー来日は、ビートルズ好きの僕にとって、大きなニュースだった。

僕は誰と行くアテもないのに、大阪ドーム公演のチケットを2枚購入した。

なぜだかわからないが、コンサートは女の子とふたりで行くものだと当時の僕は思い込んでいた。

職場の何人かの女の子に声をかけたが、振られ続け、ようやく「行きたいです!」と言ってくれたのは、当時大阪に住んでいた知り合いの女の子だった。
 
彼女との出会いは何年か遡る。
社会人一年目のとき、大学院生の友人と初めて海外旅行に行った。

タイ航空に乗って、バンコク経由で中央ヨーロッパを周遊する旅だった。

そのとき、飛行機の隣席に座っていたのが彼女だった。
「ユカと呼んでください」
気さくに彼女は話しかけてきた。聞くと、ドイツ留学中の友人にひとりで会いに行くところだという。

少し地黒でつり上がった目をした女の子だった。決して目を引く美人というわけではなかったように思う。だけど、感じのいい子だなと思ったのを覚えている。

彼女は中継地のバンコクで六時間ほど時間があるのをもったいないと感じていて、誰か一緒にバンコクの街に繰り出してくれないかと考えていたらしい。

僕と友人はその話に乗った。

もうひとり、ユカが空港でスカウトしていたミノリという女の子も含め、四人で僕達はバンコクの街を周遊した。

どこへ行ったのか今では記憶が曖昧だけれど、バックパッカーの聖地と呼ばれるカオサン通りへ行ったのを覚えている。

ユカは銀製品を安く買いたかったらしく、計算機片手に言葉が通じない相手と必死に値段交渉をしていた。

途中、熱帯地域特有のスコールがあり、僕たちは近くのマクドナルドに避難した。

そのとき、僕たちはメールアドレスを交換した。

当時はまだ携帯も普及していない時代で、教えてもらったのは、パソコンのメールアドレスだった。

しかも、彼女たちは大学生だったので、学校から与えられていたメールアドレスだった。

その後、ドイツのミュンヘンにたどり着き、そこで僕たちは別れた。

帰国後、一、二度、形式的なメールのやりとりをしたのを覚えている。

当時はデジカメもまだ普及していなくて、使い捨てカメラを使っているような時代だった。

だから、僕は帰国後、彼女たちの写真を撮っていなかったことに気づき、もったいないことをしたかなと思った。

だけど、それは美しい思い出として終わった話だった。

    

    
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