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第1章
8.父と王家の思惑
私の父、ダント・ベルフェリト公爵はオルタリア王国の中で最も人気のある貴族の一人として有名だ。
優男風の甘いマスクそのままの性格で、領民からの指示も高い。
さらに彼が事業を先導すればたちまち成功するという実績の持ち主。
さらに妻子命というその姿勢からか女性からの支持がとんでもなく高い。
そのためか領地以外での地域でも人気があるほどだ。
それに加えて私の母は聖母のような優しい女性で、娘の私から見ても完璧な妻と母をこなしている。
そんな完璧なベルフェリト公爵と繋がりを持ちたいと考えるのは、貴族のみではない。
元々、アルタリア王国は統治する国王はいれど、独裁者から解放されるため、革命によって生まれた国である。
そんな建国を背景にもつため、国民の意見を尊重する姿勢をとっている。
例えば憲法や法律などには貢納の上限が記載されていたり、貴族と領民の関係性を事細かに記していたり。
改憲の際には国民の投票が必要だったりと、国王・貴族制の国家としては異例の国なのである。
つまり何が言いたいかというと……。
国王政府は国民に人気であることを望んでいる、ということ。
人気の高い貴族と関係を持っていれば国王側の好感度が上がる事はあっても下がりはしない。
そう見込んでの婚約なのだろう。
実際今でも国民から人気は高い。
それならば別に無理に私と婚約しなくても良いとは思うのだが……。
(まぁ、公爵家の人間なら相応しいと考えたのかもしれないわね)
しかし、王家はそのつもりで婚約を了承してもおかしくはない。
問題は父である。
まさかクロネテス家に憧れの強いあの父がその宿敵を嫁に送るなんて…。
「お父様、少しお話があるのですが……」
夜、父の書斎を訊ねた。
部屋の奥、扉の正面に体が向くようにどっしりと構えた書斎机で父が書類整理をしている。
父の手元を照らした橙色だけが灯っており、それ以外の灯りはない。
部屋の周りには壁が見えないほど、書棚が敷き詰められて置かれており、その書棚は父の背丈の倍はあるのではないかと思われるほど高い。
そしてその書棚にはびっちりと本が詰め込まれている。
上を見上げても暗くて天井が見えないため、まるでどこまでも続いているかのように見える。
この異様な部屋の様子から、ここだけが邸から切り離された異空間のように感じられる。
つかつかと書斎机の前まで歩み寄ると、用件を父に伝えた。
「私、やはり第2王子との婚約に少々疑問が……」
「わかっているよエスティ。どうして私が君を王家に嫁がせるのか、という話だろう」
いまだ書類に目を通したままの姿勢で父は私の心の内を告げる。
父は私の前世が判明してから少し私と距離を置くようになった。
今だってそう。
話し方に多少のぎこちなさを感じる。
この国の人間にとって私の前世がそれほど恐ろしい存在なのかということを、父はいつでも教えてくれた。
「第1王子殿下はすでにコンディアス公爵令嬢と婚約の話が纏まっている」
ため息混じりにそう告げた父の言葉で納得した。
コンディアス公爵家はベルフェリト公爵家同様、この国の数少ない公爵家の1つ。
そして、コンディアス公爵閣下の奥方は、確か隣国の貴族のご令嬢だ。
位も高かったはず。
隣国と良好な関係を築くためにも、コンディアス家の令嬢と婚約を結ぶのは王家にとってとても重要なことである。
そして、コンディアス公爵令嬢と婚約を交わすことで崩れてしまうパワーバランスを維持するためにも第2王子には私の家と関係を持つことが重要、ということなのだろう。
「なるほど。だから第2王子には私、ですか」
そう口にした瞬間、父はパッと顔を上げるとぽかんとした顔で私の顔をまじまじと見た。
「?どうされたのですか?」
「エスティ、今の言葉だけでなぜ私が婚約を了承したのか分かったのか?」
(しまった!)
10にも満たない歳の娘があの一言だけで状況を理解するにはいくら何でもおかしすぎる。
どう考えても前世の記憶の影響と思われる。
しかし、一度口にしてしまった言葉を取り消す術などこの世には存在しない。
「そうか」
眉間に皺を寄せ、ため息を吐くように呟く声は酷く落胆しているように聞こえる。
あの最悪の皇帝が愛娘に影響を及ぼしているのが嫌なのだろう。
「しかし、公爵家の令嬢であるならば貴族の内情に関して把握しているのは当然の事だと―――」
(あれ?そう教えてくれたのは誰だったっけ?)
わからない。
でも遠い昔誰かがそう言っていた気がする。
だから私は今の貴族社会を勉強していたのに。
当たり前のように刷り込まれていた言葉が、突如として霧のように姿を眩ませた。
「すまないエスティ。まだ仕事が残っているから今日はこの辺で良いかな?」
「はい…」
私の様子に目もくれず、額に手を当て苦悩している。
そんな父の姿は私としても見ていられなかった。
父の書斎を出て、扉を閉めた。
(またお父様との壁を厚くしてしまったかもしれないわね……)
固く閉じられた扉の向こうで父は一体何を思っているのだろう。
大事な娘がどんどん自分の知らない人物に侵されていく。
そんな苦悩と闘っているのだろうか。
父の助けになりたい。
しかし、私の内情を知れば知るほど父が落胆してしまいそうで怖い。
振り返る部屋の扉はまるで、今の私と父の距離を具現化したようなものように見えた。
優男風の甘いマスクそのままの性格で、領民からの指示も高い。
さらに彼が事業を先導すればたちまち成功するという実績の持ち主。
さらに妻子命というその姿勢からか女性からの支持がとんでもなく高い。
そのためか領地以外での地域でも人気があるほどだ。
それに加えて私の母は聖母のような優しい女性で、娘の私から見ても完璧な妻と母をこなしている。
そんな完璧なベルフェリト公爵と繋がりを持ちたいと考えるのは、貴族のみではない。
元々、アルタリア王国は統治する国王はいれど、独裁者から解放されるため、革命によって生まれた国である。
そんな建国を背景にもつため、国民の意見を尊重する姿勢をとっている。
例えば憲法や法律などには貢納の上限が記載されていたり、貴族と領民の関係性を事細かに記していたり。
改憲の際には国民の投票が必要だったりと、国王・貴族制の国家としては異例の国なのである。
つまり何が言いたいかというと……。
国王政府は国民に人気であることを望んでいる、ということ。
人気の高い貴族と関係を持っていれば国王側の好感度が上がる事はあっても下がりはしない。
そう見込んでの婚約なのだろう。
実際今でも国民から人気は高い。
それならば別に無理に私と婚約しなくても良いとは思うのだが……。
(まぁ、公爵家の人間なら相応しいと考えたのかもしれないわね)
しかし、王家はそのつもりで婚約を了承してもおかしくはない。
問題は父である。
まさかクロネテス家に憧れの強いあの父がその宿敵を嫁に送るなんて…。
「お父様、少しお話があるのですが……」
夜、父の書斎を訊ねた。
部屋の奥、扉の正面に体が向くようにどっしりと構えた書斎机で父が書類整理をしている。
父の手元を照らした橙色だけが灯っており、それ以外の灯りはない。
部屋の周りには壁が見えないほど、書棚が敷き詰められて置かれており、その書棚は父の背丈の倍はあるのではないかと思われるほど高い。
そしてその書棚にはびっちりと本が詰め込まれている。
上を見上げても暗くて天井が見えないため、まるでどこまでも続いているかのように見える。
この異様な部屋の様子から、ここだけが邸から切り離された異空間のように感じられる。
つかつかと書斎机の前まで歩み寄ると、用件を父に伝えた。
「私、やはり第2王子との婚約に少々疑問が……」
「わかっているよエスティ。どうして私が君を王家に嫁がせるのか、という話だろう」
いまだ書類に目を通したままの姿勢で父は私の心の内を告げる。
父は私の前世が判明してから少し私と距離を置くようになった。
今だってそう。
話し方に多少のぎこちなさを感じる。
この国の人間にとって私の前世がそれほど恐ろしい存在なのかということを、父はいつでも教えてくれた。
「第1王子殿下はすでにコンディアス公爵令嬢と婚約の話が纏まっている」
ため息混じりにそう告げた父の言葉で納得した。
コンディアス公爵家はベルフェリト公爵家同様、この国の数少ない公爵家の1つ。
そして、コンディアス公爵閣下の奥方は、確か隣国の貴族のご令嬢だ。
位も高かったはず。
隣国と良好な関係を築くためにも、コンディアス家の令嬢と婚約を結ぶのは王家にとってとても重要なことである。
そして、コンディアス公爵令嬢と婚約を交わすことで崩れてしまうパワーバランスを維持するためにも第2王子には私の家と関係を持つことが重要、ということなのだろう。
「なるほど。だから第2王子には私、ですか」
そう口にした瞬間、父はパッと顔を上げるとぽかんとした顔で私の顔をまじまじと見た。
「?どうされたのですか?」
「エスティ、今の言葉だけでなぜ私が婚約を了承したのか分かったのか?」
(しまった!)
10にも満たない歳の娘があの一言だけで状況を理解するにはいくら何でもおかしすぎる。
どう考えても前世の記憶の影響と思われる。
しかし、一度口にしてしまった言葉を取り消す術などこの世には存在しない。
「そうか」
眉間に皺を寄せ、ため息を吐くように呟く声は酷く落胆しているように聞こえる。
あの最悪の皇帝が愛娘に影響を及ぼしているのが嫌なのだろう。
「しかし、公爵家の令嬢であるならば貴族の内情に関して把握しているのは当然の事だと―――」
(あれ?そう教えてくれたのは誰だったっけ?)
わからない。
でも遠い昔誰かがそう言っていた気がする。
だから私は今の貴族社会を勉強していたのに。
当たり前のように刷り込まれていた言葉が、突如として霧のように姿を眩ませた。
「すまないエスティ。まだ仕事が残っているから今日はこの辺で良いかな?」
「はい…」
私の様子に目もくれず、額に手を当て苦悩している。
そんな父の姿は私としても見ていられなかった。
父の書斎を出て、扉を閉めた。
(またお父様との壁を厚くしてしまったかもしれないわね……)
固く閉じられた扉の向こうで父は一体何を思っているのだろう。
大事な娘がどんどん自分の知らない人物に侵されていく。
そんな苦悩と闘っているのだろうか。
父の助けになりたい。
しかし、私の内情を知れば知るほど父が落胆してしまいそうで怖い。
振り返る部屋の扉はまるで、今の私と父の距離を具現化したようなものように見えた。
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