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第1章
10.彼の前世は英雄騎士
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(あれ、もしかして今日の謁見行為で私、正式に婚約が結ばれてしまったんじゃ…)
ヴァリタス殿下に手を引かれるまま宮殿内を歩いている中で、とある重大な事実に気づく。
しかし今頃気づいても後の祭り。
この時ばかりは自分の阿保さ加減にほとほと呆れた。
「こちらでお茶をいたしましょう、エスティ嬢」
案内されたのは晴れやかな庭園だった。
少し離れたところに噴水があり、その周りには背丈の低いツツジが円を描くように囲んでいる。
ツツジの花の香りにつられて蝶々がひらひらと舞っているのがなんとも可愛らしい。
用意された小さなテーブルセットは、お菓子の容器とティーセットを置く程の大きさしかない。
恐らく2~3人用のものなのだろう。
この間王子とお茶をしたときに使用した内のテーブルセットよりもシンプルなデザインだが、所々に施された装飾は細かく美しい。
もしかしたら、あのテーブルセットよりも高級なものかもしれない。
宮殿の使用人たちが美しい所作でティーセットを用意してくれる。
白い陶器には色鮮やかに模様が描かれていて見ているだけでも飽きないような代物だ。
目の前に出された紅茶は、容器に劣らず色がきれいで鼻孔をくすぐる香りはほんのり甘い。
あまり紅茶に詳しくない私でも魅了してしまうような代物ばかりだ。
「では、いただきましょう」
王子が口をつけるのに合わせて私も紅茶を少しだけ口に含む。
「おいしい」
ため息がでそうなほどおいしい紅茶に感動する。
いままで飲んでいたものも高級なもののはずなのに、こちらは格別においしく感じる。
「気に入っていただけてよかったです。さぁ、お菓子もどうぞ」
「はい、いただきます」
大皿に姿勢よく並べられたお菓子たち。
クッキーを手に取り、口に運ぶとさくりと小気味の良い音がした。
(こちらもほっぺたが落ちそうな程おいしいわ)
思わず目を瞑って悶絶してしまう。
宮殿ではいつもこんなおいしいものをいただいているのだろうか。
少し羨ましい。
まぁ、こんなことで嫁ごうとは思えないけど。
「そういえば、この間”前明の儀”を行いまして、私に前世があることが判明いたしました」
突然触れて欲しくない話題が降りかかり、喉がきゅっと締まった。
「そ、そうなのですか。それはおめでとうございます」
少し顔を引きつらせながら笑顔で応える。
しかし、どうしても動揺を隠しきれなかった。
(まぁ、相手がどうであれ、私の前世が誰なのかは絶対隠し通さなければ)
とりあえずこの話題には気のない返事をしようと決め、意識を紅茶に移しながら聞いていた。
そうして気を抜けてしまったのがいけなかったのか、彼の一言に稲妻のような衝撃が走った。
「バートン・クロネテスという人物をご存じですか?」
この場に突如現れた名前に体が硬直する。
どうして今その名前を口にした?
今の話に一体彼とどんな関係がある?
まさか。
まさか――――。
困惑とは裏腹にその真実は私の胸を貫く。
「それが私の前世なのです」
どうして。
なぜよりによって彼なのか。
動揺しながらも、平静を装わなければと考える。
どうにか、紅茶に口に付け心を落ち着かせる。
何か言葉を発しなければと思い、どうにか口を開く。
「彼の英雄騎士…でしたね」
オルタリア王国最初の国王、バートン・クロネテス。
200年前クオフィリア帝国の悪しき王・リヴェリオを殺し、革命を率いた反政府の中心人物。
そして。
私の前世を殺した相手。
(嘘でしょう)
まさか、彼がその英雄の生まれ変わりだなんて。
ただでさえ彼と血のつながりのある王族に嫁ぐのが嫌なのに、それが本人となればさらにその拒絶反応は強くなる。
つまり私は、前世の宿敵の生まれ変わりとあろうことか婚約させられてしまったということだ。
なんという皮肉。なんという不遇。
(いや、不遇なのは彼の方か)
なぜか知らないが彼はリヴェリオをひどく憎んでいた。
それは彼がリヴェリオを殺した時の表情でなんとなくわかる。
あれは正義感から来る憎悪だけではなかった。
その強烈な憎しみを感じたから、8歳の頃の私はその悪夢を見るたびに殺されると怯えていたのだ。
そこまで憎んでいる相手が転生し、自分の婚約者だと知ったら、彼はどうするだろう。
考えるまでもない。
きっともう一度殺すだろう。
そうでなくても、死以上の苦しみを与えたいと思ってもおかしくはない。
(”絶対に伝えてはならない”から”死んでも伝えてはいけない”になったみたいね)
厳守するのは変わらない。
ただそれを知られた後の私の待遇が変わるだけ。
そう楽観的に考えるしか今は出来なかった。
ヴァリタス殿下に手を引かれるまま宮殿内を歩いている中で、とある重大な事実に気づく。
しかし今頃気づいても後の祭り。
この時ばかりは自分の阿保さ加減にほとほと呆れた。
「こちらでお茶をいたしましょう、エスティ嬢」
案内されたのは晴れやかな庭園だった。
少し離れたところに噴水があり、その周りには背丈の低いツツジが円を描くように囲んでいる。
ツツジの花の香りにつられて蝶々がひらひらと舞っているのがなんとも可愛らしい。
用意された小さなテーブルセットは、お菓子の容器とティーセットを置く程の大きさしかない。
恐らく2~3人用のものなのだろう。
この間王子とお茶をしたときに使用した内のテーブルセットよりもシンプルなデザインだが、所々に施された装飾は細かく美しい。
もしかしたら、あのテーブルセットよりも高級なものかもしれない。
宮殿の使用人たちが美しい所作でティーセットを用意してくれる。
白い陶器には色鮮やかに模様が描かれていて見ているだけでも飽きないような代物だ。
目の前に出された紅茶は、容器に劣らず色がきれいで鼻孔をくすぐる香りはほんのり甘い。
あまり紅茶に詳しくない私でも魅了してしまうような代物ばかりだ。
「では、いただきましょう」
王子が口をつけるのに合わせて私も紅茶を少しだけ口に含む。
「おいしい」
ため息がでそうなほどおいしい紅茶に感動する。
いままで飲んでいたものも高級なもののはずなのに、こちらは格別においしく感じる。
「気に入っていただけてよかったです。さぁ、お菓子もどうぞ」
「はい、いただきます」
大皿に姿勢よく並べられたお菓子たち。
クッキーを手に取り、口に運ぶとさくりと小気味の良い音がした。
(こちらもほっぺたが落ちそうな程おいしいわ)
思わず目を瞑って悶絶してしまう。
宮殿ではいつもこんなおいしいものをいただいているのだろうか。
少し羨ましい。
まぁ、こんなことで嫁ごうとは思えないけど。
「そういえば、この間”前明の儀”を行いまして、私に前世があることが判明いたしました」
突然触れて欲しくない話題が降りかかり、喉がきゅっと締まった。
「そ、そうなのですか。それはおめでとうございます」
少し顔を引きつらせながら笑顔で応える。
しかし、どうしても動揺を隠しきれなかった。
(まぁ、相手がどうであれ、私の前世が誰なのかは絶対隠し通さなければ)
とりあえずこの話題には気のない返事をしようと決め、意識を紅茶に移しながら聞いていた。
そうして気を抜けてしまったのがいけなかったのか、彼の一言に稲妻のような衝撃が走った。
「バートン・クロネテスという人物をご存じですか?」
この場に突如現れた名前に体が硬直する。
どうして今その名前を口にした?
今の話に一体彼とどんな関係がある?
まさか。
まさか――――。
困惑とは裏腹にその真実は私の胸を貫く。
「それが私の前世なのです」
どうして。
なぜよりによって彼なのか。
動揺しながらも、平静を装わなければと考える。
どうにか、紅茶に口に付け心を落ち着かせる。
何か言葉を発しなければと思い、どうにか口を開く。
「彼の英雄騎士…でしたね」
オルタリア王国最初の国王、バートン・クロネテス。
200年前クオフィリア帝国の悪しき王・リヴェリオを殺し、革命を率いた反政府の中心人物。
そして。
私の前世を殺した相手。
(嘘でしょう)
まさか、彼がその英雄の生まれ変わりだなんて。
ただでさえ彼と血のつながりのある王族に嫁ぐのが嫌なのに、それが本人となればさらにその拒絶反応は強くなる。
つまり私は、前世の宿敵の生まれ変わりとあろうことか婚約させられてしまったということだ。
なんという皮肉。なんという不遇。
(いや、不遇なのは彼の方か)
なぜか知らないが彼はリヴェリオをひどく憎んでいた。
それは彼がリヴェリオを殺した時の表情でなんとなくわかる。
あれは正義感から来る憎悪だけではなかった。
その強烈な憎しみを感じたから、8歳の頃の私はその悪夢を見るたびに殺されると怯えていたのだ。
そこまで憎んでいる相手が転生し、自分の婚約者だと知ったら、彼はどうするだろう。
考えるまでもない。
きっともう一度殺すだろう。
そうでなくても、死以上の苦しみを与えたいと思ってもおかしくはない。
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