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第1章
14.私は今ここにいますか?
しかし、時間が経っても彼の涙は止まる気配が無かった。
(そういえば私ハンカチ持ってたわ)
今更渡すのもどうかと思ったが、渡さないよりましだろう。
テーブルを跨いで彼に届くように腕を伸ばす。
「殿下、良ければこちらをお使いください」
彼はちらりとこちらの方をみると、おずおずと手を伸ばしハンカチを受け取ってくれた。
「貴族の男子たるもの人前で涙を流すべからず」これはこの国の貴族社会ならば基本中の基本だ。
もしかしたら世界の基本かもしれない。
それほど貴族の男性にとって人前で涙を流すのは恥ずかしい行為なのだ。
それが王族なら尚更。
できるだけ彼の涙を見ずに行動したつもりだが、どうしてもこの場にいては気にせざるを得ない。
そして彼は私以上に気まずいはず。
流石にこれ以上この場に留まるのは耐えられない。
「殿下!私先ほどからあちらの庭園が気になっていましたの。少しだけ拝見してもよろしいでしょうか?」
あからさまだが仕方ない。
彼がコクリと頷くのを確認し、「ではいってきますね」と声をかけると席を外した。
(はぁ~、やれやれ)
やっとあの空間から抜け出せてホッとしたのか、深いため息がでる。
まさか彼があんなに泣くなんて思わなかった。
初めて会った時も、謁見室で会った時も彼は年齢以上の大人びた落ち着きを持っていた。
そこからの号泣など落差がありすぎてどう接してよいかわからない。
(でも良かったわ。人並みの少年みたいで)
もしなんの弱みも見せない完璧王子だったら、どうやって婚約解消するべきなのか相当悩むことになるはずだ。
今でも相当難しそうなのに、王子に隙がなければ完全に積んでしまう。
でも相手がまだ未熟な少年ならまだ希望はある。
少年なんてものはまだ自分を完成され切れていない、不安定な生き物だ。
意外とほんの少しの躓きで相手を完全に嫌になることだってあるはず。
(それを少しずつ積み重ねていけばいいのよ)
地道だがこれが一番の成功法なのだ。少し「嫌だなぁ~」と思う部分を蓄積させていけば、いつか爆発するのは世の理。
そうして駄目になっていった人間関係を、私はいくつも知っている。
……あくまで小説の中で、だけど。
(でも話を考えているのも人。ということは十分にあり得ることだということよね)
敵地の中心で決意を新たにしながら庭園を散策する。
先ほど見て気になった噴水まで足を運んだ。
大きな噴水には勢いよく水が飛び出していて、細かな水しぶきが虹を作っている。
ツツジにはピンクの花が咲いていてその周りをひらひら舞う白い小さな蝶々が可愛らしい。
まるでおとぎ話にお姫様と一緒に出てくる庭園みたい。
(私にもまだ可愛らしいものに惹かれる心が残っていたみたいで安心したわ)
ずっと前世のことで頭がいっぱいで、年頃の女の子が喜びそうなものに最近ではあまり触れていなかった。
それは両親も同じで、前世が判明してからそのようなものを与える機会が少なくなっていた。
前世が男で、しかも悪名名高い人物ならば両親がそう対応しても仕方ないだろう。
しかも私は私で前世の事についてばかり調べるようになったら、その延長で政治や経済などの前世で興味のあるものに没頭してしまうようになってしまった。そんな娘に、やれカワイイくまのぬいぐるみだの、お人形だのを与えても喜ばないのではないかと思われても仕方ない。
(というか、半分以上私の行動のせいじゃないの)
ツツジの花をつつきながら一人反省会を行う。
どうしていつも私はそう、自分で自分の首を絞めるのか。
(もうこうなったらやけよ。この庭園で可愛いもの好きを会得してみせるわ)
美しいものに心安らぎ、可愛らしいものに心躍らせる。
そんな普通の女子を取り戻して見せる。
そして、両親に可愛らしい娘だと喜んで―――。
そこでハタと気づいた。
結局私は自分ではなく両親の事を考えて行動しようとしてる。
これは私の感情?
本当に私がしたいこと?
わからない。
どうしようもない焦燥感が私を襲う。
そんなわけない。
私は私の意志でそうしようとしている、はず、なのに。
立ち上がって庭園の向こうに広がる色とりどりのお花畑を見渡した。
綺麗だと思う。
心惹かれている、と思う。
けどそれって本心で思っていることなのだろうか。
また誰かのために思っていることではないだろうか。
(また、私は繰り返すのかしら)
誰かを思って我慢して。
そうして良い様に利用されて最期には捨てられるだけの人間になってしまうのだろうか。
あんなに大好きな両親を思っただけなのに、こんな感情になるなんて、なんてひどい娘だろう。
風が吹いている。
でも乱れる髪になんとも思わない。
まるで空虚な、心のない器みたい。
木々がざわざわと揺れている。
それほど強い風が吹いているはずなのに、私の耳には音が全く届いていない。
(そういえば私ハンカチ持ってたわ)
今更渡すのもどうかと思ったが、渡さないよりましだろう。
テーブルを跨いで彼に届くように腕を伸ばす。
「殿下、良ければこちらをお使いください」
彼はちらりとこちらの方をみると、おずおずと手を伸ばしハンカチを受け取ってくれた。
「貴族の男子たるもの人前で涙を流すべからず」これはこの国の貴族社会ならば基本中の基本だ。
もしかしたら世界の基本かもしれない。
それほど貴族の男性にとって人前で涙を流すのは恥ずかしい行為なのだ。
それが王族なら尚更。
できるだけ彼の涙を見ずに行動したつもりだが、どうしてもこの場にいては気にせざるを得ない。
そして彼は私以上に気まずいはず。
流石にこれ以上この場に留まるのは耐えられない。
「殿下!私先ほどからあちらの庭園が気になっていましたの。少しだけ拝見してもよろしいでしょうか?」
あからさまだが仕方ない。
彼がコクリと頷くのを確認し、「ではいってきますね」と声をかけると席を外した。
(はぁ~、やれやれ)
やっとあの空間から抜け出せてホッとしたのか、深いため息がでる。
まさか彼があんなに泣くなんて思わなかった。
初めて会った時も、謁見室で会った時も彼は年齢以上の大人びた落ち着きを持っていた。
そこからの号泣など落差がありすぎてどう接してよいかわからない。
(でも良かったわ。人並みの少年みたいで)
もしなんの弱みも見せない完璧王子だったら、どうやって婚約解消するべきなのか相当悩むことになるはずだ。
今でも相当難しそうなのに、王子に隙がなければ完全に積んでしまう。
でも相手がまだ未熟な少年ならまだ希望はある。
少年なんてものはまだ自分を完成され切れていない、不安定な生き物だ。
意外とほんの少しの躓きで相手を完全に嫌になることだってあるはず。
(それを少しずつ積み重ねていけばいいのよ)
地道だがこれが一番の成功法なのだ。少し「嫌だなぁ~」と思う部分を蓄積させていけば、いつか爆発するのは世の理。
そうして駄目になっていった人間関係を、私はいくつも知っている。
……あくまで小説の中で、だけど。
(でも話を考えているのも人。ということは十分にあり得ることだということよね)
敵地の中心で決意を新たにしながら庭園を散策する。
先ほど見て気になった噴水まで足を運んだ。
大きな噴水には勢いよく水が飛び出していて、細かな水しぶきが虹を作っている。
ツツジにはピンクの花が咲いていてその周りをひらひら舞う白い小さな蝶々が可愛らしい。
まるでおとぎ話にお姫様と一緒に出てくる庭園みたい。
(私にもまだ可愛らしいものに惹かれる心が残っていたみたいで安心したわ)
ずっと前世のことで頭がいっぱいで、年頃の女の子が喜びそうなものに最近ではあまり触れていなかった。
それは両親も同じで、前世が判明してからそのようなものを与える機会が少なくなっていた。
前世が男で、しかも悪名名高い人物ならば両親がそう対応しても仕方ないだろう。
しかも私は私で前世の事についてばかり調べるようになったら、その延長で政治や経済などの前世で興味のあるものに没頭してしまうようになってしまった。そんな娘に、やれカワイイくまのぬいぐるみだの、お人形だのを与えても喜ばないのではないかと思われても仕方ない。
(というか、半分以上私の行動のせいじゃないの)
ツツジの花をつつきながら一人反省会を行う。
どうしていつも私はそう、自分で自分の首を絞めるのか。
(もうこうなったらやけよ。この庭園で可愛いもの好きを会得してみせるわ)
美しいものに心安らぎ、可愛らしいものに心躍らせる。
そんな普通の女子を取り戻して見せる。
そして、両親に可愛らしい娘だと喜んで―――。
そこでハタと気づいた。
結局私は自分ではなく両親の事を考えて行動しようとしてる。
これは私の感情?
本当に私がしたいこと?
わからない。
どうしようもない焦燥感が私を襲う。
そんなわけない。
私は私の意志でそうしようとしている、はず、なのに。
立ち上がって庭園の向こうに広がる色とりどりのお花畑を見渡した。
綺麗だと思う。
心惹かれている、と思う。
けどそれって本心で思っていることなのだろうか。
また誰かのために思っていることではないだろうか。
(また、私は繰り返すのかしら)
誰かを思って我慢して。
そうして良い様に利用されて最期には捨てられるだけの人間になってしまうのだろうか。
あんなに大好きな両親を思っただけなのに、こんな感情になるなんて、なんてひどい娘だろう。
風が吹いている。
でも乱れる髪になんとも思わない。
まるで空虚な、心のない器みたい。
木々がざわざわと揺れている。
それほど強い風が吹いているはずなのに、私の耳には音が全く届いていない。
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お楽しみいただけると幸いです。