悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

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第1章

19.魔法を使う使用人

自宅についても気分は優れないままだった。
夕方に向こうを出たものだから、着いた頃には完全に日が沈み夜の帳が降りている。

玄関を開けると使用人たちが数人で迎えてくれた。
広い玄関ホールには橙色の灯りが優しくホール全体を照らしている。

しかしそのぼんやりとした灯り加減がまるで私の今の心の状態を表しているようで、さらに気を落としてしまう。
そのままとぼとぼと歩いたのがまずかった。

「きゃっ!」

誰かと思いきりぶつかってしまい、体のバランスが崩れた。
尻もちをつくと思い、その痛みを覚悟して目を瞑る。

(あれ?痛くない)

というか地面にもついていない。
訳が分からず目を開けると私の体はぶつかった瞬間の態勢のまま、ふわりと宙に浮いていた。
そのままふんわりと地面に降ろされる。

なにが起きたのかわからず、混乱する。
私の体は羽根でできているわけじゃないし、この間転んでしりもちをついたときはすごく痛かったから、私の体が元々おかしな訳じゃない。
ということは。

(これって魔法?)

久しぶりに、しかも自宅で魔法に掛かるなんてなかったため少し驚く。
私が驚いたまま茫然としてしまい、一向に立ち上がらないことを気にしたのか、近くにいたメイドが私に手を差し出した。

「申し訳ありません。大丈夫ですか?」

「えぇ、ありがとう」

恐らく私がぶつかってしまった相手だろう。
彼女のなんでもなさそうな様子を見るに、どうやら私だけがダメージを受けていたらしい。
ほっとしてその手を取った。

私の手を握ると、軽々と私の体を持ち上げて立たせてくれた。

(それにしても可愛らしい方ね。こんな方いままでいたかしら?)

栗色の髪に同じく栗色の瞳。この国ではごく一般的な髪と目の色である。
しかし、均等に配置された顔のパーツが、彼女に目を惹くかわいらしさを与えている。

それに加えて二重の目にピンクの唇、見れば見る程魅力的だ。
そっちの気は一切ないはずなのに、一瞬ドキリとしてしまう。

……いえ、本当よ。
確かに王子には感じなかった胸のときめきだけれども。

思わずじっーと見つめてしまい、逆に目を逸らせなくなってしまった。
しかし、私が顔を凝視しているにも関わらず彼女は嫌がって顔を背けるどころか、全く表情を変えない。
その様子に少し違和感を覚えたときだった。

「ちょっとミリア!大事なお嬢様に怪我でもあったらどうするつもりなの?!」

慌てたメイド長のバルタがスカートの裾を手で持ち上げながら駆けつけた。
恐ろしい形相で叱るバルタに対しても全く表情を変えずに淡々とした声で謝っている。

(もしかしてこの方、あまり表情が表に出ない方なのかしら?)

それとも何物にも動じない、強い心臓の持ち主なのか。
お叱りを受けるその姿は、傍からみるとなんとも異様な光景である。

「あの、大丈夫よバルタ。私怪我もなにもしていないし」

「そういう問題ではありませんお嬢様」

はぁ…。と深いため息を漏らすバルタの様子をみるに、彼女のこれはいつものことなのだろう。
とはいえ、今回は私が100%悪い。
とりあえず私が謝ることでこの場を納めてしまおう。

「ごめんなさい。私が考え事をしていたせいで、あなたが責めれてしまったわね」

頭をさげると周りの使用人たちがぎょっとしてざわざわと騒ぎだす。
普通、貴族が使用人や庶民に頭を簡単に下げることなどあり得ない。

それは貴族というものがどれだけ権力を持っているのかというのを示すためであり、ただ単にプライドがどうとかそんな簡単な話ではないのだ。
しかしここは私の自宅で、私はまだ権力なんて持っていないただの子供。
そういうものを振りかざすのは、もう少し大人になってから、外で思う存分振るえばいい。
それに、このまま放っておいてしまっては、せっかく彼女が助けてくれた恩を仇で返すことになりかねない。

本当はいけないんだろうけど、今は許してほしい。
私が頭を下げ、なおかつ周りが騒ぎはじめたものだから、バルタもこれ以上彼女を責める気になれなくなったのだろう。
もう一度ため息をついたバルタにはもう怒りの感情はなかった。
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