21 / 339
第1章
20.はじめての友達は使用人
「お嬢様……、お止め下さい。これでは私が旦那様に怒られてしまいます」
「じゃあ、この場はこれでおしまいね」
顔を上げてバルタに笑顔を送ると、ぱちんと胸の前で手を叩き、終いの合図にする。
しょうがない上司でも見るように呆れ顔をしていたバルタだったが、キリリとしたいつもの顔に戻ると周りにいた使用人たちを次々睨みつけていく。
彼女に怒られまいと、使用人たちは自分たちの仕事へそそくさと戻っていった。
それは私がぶつかった彼女も同じだった。
「あ!ねぇあなた!」
彼女を逃すまいと慌てて声を掛けて呼び止める。
後ろを向いて立ち去ろうとしていた彼女はピタリと歩みを止めると、ふわりとこちらに振り向いた。
「はい、何でしょうか」
なんというか。
これが彼女の平常運転なのだろうけど、あまりに感情の籠っていない声だから、少しだけ声を掛けたことに後ろめたさを感じてしまう。
一人でに少し落ち込んだものの、気を取り直して彼女に問いかけた。
「さっきのって魔法、よね?あなたが使ったの?」
ピクリと表情が固まった。
正式には全く表情は変化しているようには見えなかったけれど、彼女の纏う空気が変わったのを感じたのだ。
どこかピリついたものに。
「私が魔法を使えるのだとしたら、どうするのですか?」
「え?」
予想もしない答え、というか問いかけに驚いてしまう。
(どうするも何も……)
一体彼女は何を聞きたいのだろう。
その真意がわからず黙り込んでしまう。
すると何かを察したように彼女は目を逸らした。
「使用人が魔法を使うのが、貴族さまは本当にお嫌いなのですね」
その冷たい眼差しは、いままで彼女が負ってきた傷を感じさせるものだった。
ゾクリと背筋が震える反面、彼女にこのまま誤解されたくないと強く思った。
私がどうしようか悩んでいると、その様子からもう用はないと思ったのか彼女はまた背を向けると歩き出してしまった。
「待って!」
どうしてもこのまま別れるわけにはいかない。
思わず彼女に駆け寄り、手を掴む。
顔を見ることができず目を瞑って勢いのまま彼女に本音をぶつける。
「私、魔法が全く使えないの。だから、もしあなたがよければ私に魔法を教えてくれないかしら」
これはきっと彼女にしか頼めないものだ。
ベルフェリト公爵家の中で魔法を全く使えないのは私だけ。両親と兄はもちろんのこと、3つ下の妹までもが多少なりとも魔法を使えている。
しかし私は全く使えないのだ。
もう本当に。これっぽちも、魔法のまの字もないほどに。
しかし父はそのことを逆に良しとしてしまっている。
その理由はただひとえに私の前世がリヴェリオだから。
しかし私は魔法を使えないまま大人になりたくなかった。
私は女だし、力もないから剣を振るう事はできない。
護身術を習ってはいるものの、それだって大して役に立つかどうかわからない。
女性が力の差がある相手に対して身を守る術を持つためには、どうしたって魔法しかない。
いつか一人になったときに身を守る術がどうしてもほしいのだ。
一瞬言葉を詰まらせた彼女だったが、どうしても言いたかったのだろう。
使用人とは思えないほど辛辣な言葉を投げた。
「それ普通、使用人に頼みます?」
痛いところを付かれ、グサリとその言葉が胸を貫く。
思ったよりダメージがでかい。
しかし、私には今彼女にしか頼めないのだ。
「でも、だって、あなたしか頼めないんだもの……」
語尾になるにしたがい声が小さくなってしまう。
口をとがらせながら、次第に視線は下にいってしまう。
「ふっ」
そんな貴族らしからぬ私の様子がおかしかったのか、彼女が微かに噴き出すのが聞こえた。
パッと顔を上げる。
握った手を口元に持っていき、堪えているようだったが、すぐに無表情に戻ってしまった。
ゴホンと咳払いをする。
「わかりました。私で宜しければ教えてさしあげます。でも使えるようになるかは保証できませんよ」
「いいわそれでも、ありがとう!」
どういう風の吹きわましなのだろう。
しかし、彼女がまさか承諾してくれるとは思わず、自然と笑顔が零れる。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「ミリアです。ただのミリア」
「そうミリア!よろしくね。私の事はエスティって呼んで」
「それは無理です」
相変わらず感情の籠っていない声だったけれど、もうそんなことは気にならなかった。
ただ魔法を使えるようになるかもしれないという期待で、今は胸がいっぱいだった。
これが私の初めての友達。
ミリアとの出会いだった。
***第1章 閉幕***
「じゃあ、この場はこれでおしまいね」
顔を上げてバルタに笑顔を送ると、ぱちんと胸の前で手を叩き、終いの合図にする。
しょうがない上司でも見るように呆れ顔をしていたバルタだったが、キリリとしたいつもの顔に戻ると周りにいた使用人たちを次々睨みつけていく。
彼女に怒られまいと、使用人たちは自分たちの仕事へそそくさと戻っていった。
それは私がぶつかった彼女も同じだった。
「あ!ねぇあなた!」
彼女を逃すまいと慌てて声を掛けて呼び止める。
後ろを向いて立ち去ろうとしていた彼女はピタリと歩みを止めると、ふわりとこちらに振り向いた。
「はい、何でしょうか」
なんというか。
これが彼女の平常運転なのだろうけど、あまりに感情の籠っていない声だから、少しだけ声を掛けたことに後ろめたさを感じてしまう。
一人でに少し落ち込んだものの、気を取り直して彼女に問いかけた。
「さっきのって魔法、よね?あなたが使ったの?」
ピクリと表情が固まった。
正式には全く表情は変化しているようには見えなかったけれど、彼女の纏う空気が変わったのを感じたのだ。
どこかピリついたものに。
「私が魔法を使えるのだとしたら、どうするのですか?」
「え?」
予想もしない答え、というか問いかけに驚いてしまう。
(どうするも何も……)
一体彼女は何を聞きたいのだろう。
その真意がわからず黙り込んでしまう。
すると何かを察したように彼女は目を逸らした。
「使用人が魔法を使うのが、貴族さまは本当にお嫌いなのですね」
その冷たい眼差しは、いままで彼女が負ってきた傷を感じさせるものだった。
ゾクリと背筋が震える反面、彼女にこのまま誤解されたくないと強く思った。
私がどうしようか悩んでいると、その様子からもう用はないと思ったのか彼女はまた背を向けると歩き出してしまった。
「待って!」
どうしてもこのまま別れるわけにはいかない。
思わず彼女に駆け寄り、手を掴む。
顔を見ることができず目を瞑って勢いのまま彼女に本音をぶつける。
「私、魔法が全く使えないの。だから、もしあなたがよければ私に魔法を教えてくれないかしら」
これはきっと彼女にしか頼めないものだ。
ベルフェリト公爵家の中で魔法を全く使えないのは私だけ。両親と兄はもちろんのこと、3つ下の妹までもが多少なりとも魔法を使えている。
しかし私は全く使えないのだ。
もう本当に。これっぽちも、魔法のまの字もないほどに。
しかし父はそのことを逆に良しとしてしまっている。
その理由はただひとえに私の前世がリヴェリオだから。
しかし私は魔法を使えないまま大人になりたくなかった。
私は女だし、力もないから剣を振るう事はできない。
護身術を習ってはいるものの、それだって大して役に立つかどうかわからない。
女性が力の差がある相手に対して身を守る術を持つためには、どうしたって魔法しかない。
いつか一人になったときに身を守る術がどうしてもほしいのだ。
一瞬言葉を詰まらせた彼女だったが、どうしても言いたかったのだろう。
使用人とは思えないほど辛辣な言葉を投げた。
「それ普通、使用人に頼みます?」
痛いところを付かれ、グサリとその言葉が胸を貫く。
思ったよりダメージがでかい。
しかし、私には今彼女にしか頼めないのだ。
「でも、だって、あなたしか頼めないんだもの……」
語尾になるにしたがい声が小さくなってしまう。
口をとがらせながら、次第に視線は下にいってしまう。
「ふっ」
そんな貴族らしからぬ私の様子がおかしかったのか、彼女が微かに噴き出すのが聞こえた。
パッと顔を上げる。
握った手を口元に持っていき、堪えているようだったが、すぐに無表情に戻ってしまった。
ゴホンと咳払いをする。
「わかりました。私で宜しければ教えてさしあげます。でも使えるようになるかは保証できませんよ」
「いいわそれでも、ありがとう!」
どういう風の吹きわましなのだろう。
しかし、彼女がまさか承諾してくれるとは思わず、自然と笑顔が零れる。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「ミリアです。ただのミリア」
「そうミリア!よろしくね。私の事はエスティって呼んで」
「それは無理です」
相変わらず感情の籠っていない声だったけれど、もうそんなことは気にならなかった。
ただ魔法を使えるようになるかもしれないという期待で、今は胸がいっぱいだった。
これが私の初めての友達。
ミリアとの出会いだった。
***第1章 閉幕***
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』
なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。
公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。
けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。
処刑まで残された時間は、三年。
もう誰も愛さない。
誰にも期待しない。
誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。
そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。
婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。
けれど、少しだけ優しくした。
少しだけ、相手の話を聞いた。
少しだけ、誤解を解く努力をした。
たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。
「……あなたは、こんな人だったのですか」
「もう少し、私を頼ってください」
「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」
「ずっと、怖かっただけなんでしょう」
悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。
これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あなたがすき、だったから……。
友坂 悠
恋愛
あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。
もともと、3年だけの契約婚だった。
恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。
そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。
それなのに。
約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。
だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。
わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。
こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。
#############
なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、
シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。
初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。
お楽しみいただけると幸いです。