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第2章
32.平民の前世をもつ令嬢
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「申し訳ありません、ビスティーユ嬢。私の配慮が足りないばかりに、あなたに不快な思いを……」
「とんでもないですわ、私は大丈夫ですからお気になさらないでください!」
顔の前で両手を振り、気にしていないとジェスチャーをする。
しかし、気にしないと言われてもそうは言ってられない。
私は公爵令嬢で第2王子の婚約者。気を使ってそういっている可能性が高い。
今だに気を落とした私の様子を見て、何かを思いついたような表情になると明るく私にとある提案をしてくれた。
「そこまでおっしゃるのでしたら、1つ提案がありますわ。私の前では前世の時と同じように平民として接するなんてどうでしょう?」
「えっ?」
意外な提案に少しばかり動揺する。
私は前世が農民の娘だと嘘を付いており、そして今やこの国の社交界全体にそれは知れ渡っている。
しかし所詮は嘘。
そしてその嘘を本当だと周り、ひいてはヴァリタスに本当だと思わせるための裏付けのための情報収集として彼女と接触したのである。
つまり、今の彼女の提案に私はうまく返すことが難しいのだ。
しかし、彼女に心を開いてもらわなければ目的は達成されなくなる。
こうなったらまた新たな嘘を付くしかない。
良心が少しばかり痛むが仕方ないだろう。
「あの、どうされました」
私の動揺を読み取ったのだろうか。
彼女が覗きこむように私の様子を伺っている。心配しているような、不安そうなその瞳に少しだけ罪悪感が滲む。
「いいえ、その。言いにくいのですが……。私まだほとんど前世のことを思い出していないのです……」
その罪悪感を利用し、言いにくそうにする令嬢を演じてみせる。
まるで不安を背負った気弱な令嬢の出来上がりだ。
一先ずこれでやり過ごせるはず。
と、思った私の計画に彼女は先ほどとの笑顔とは異なり真剣な顔になる。
「なぜ、ベルフェリト嬢は前世を思い出したいのですか?」
「え?」
その眼差しにゴクリと唾を飲む。これは下手なことをいえば警戒されかねない。
それにしても、なかなか鋭いところをつく。
田舎の農民の娘の記憶など、今世の貴族社会で生きているなかで全く必要のないものだ。
そればかりか、足枷にだってなりかねない。
それでも思い出したい理由は一体なんなのか、と彼女は問いているのだろう。
もちろんそんな彼女の問いにも答え得る理由は用意してある。
彼女がこれで納得してくれればよいが。
「確かに今生きている中で、必要のないものだと思います。でも、私は前世の事に引け目を感じたくないのです。農家の娘であった私は、それでも教会が好きで、主が好きで。それが叶ってこの世にもう一度生を授けていただきました。その主を信じる彼女の直向きさが眩しくて、憧れていて……。だからこそ前世の私がどんな方だったのか知りたいのです」
彼女の瞳をまっすぐに見据え、嘘を付いていないとアピールする。
じっと私と彼女が見つめあう時間がしばらく続いた。
ガシっと彼女の両手が私の手を掴むと顔を近づけた。
何事かと驚いていると、キラキラした瞳が私を見つめている。
この光景ついさっき見たような…。
「そうだったのですね。なんて信仰深い方だったのでしょう!私も興味がありますわ」
まじか~。
いや、確かに私の嘘を信じてくれるのは嬉しい。嬉しいが。
何もそこまで食いつく?
「私の前世も平民だということは聞いていますね。そのこともあって、あまり社交界に馴染めていないのです。でも今日ベルフェリト嬢とお会いできて良かったですわ」
笑顔で告げる彼女の裏には、貴族の園に馴染めない彼女の苦悩が透けてみえた。
きっと彼女は仲間がほしかったのだ。
自分と同じような境遇の仲間が。
嘘の私の前世を信じ、興味を持ってくれている彼女に罪悪感が溜まりはじめていたときだった。
「あ、あのビスティーユ様」
「あら、皆さま」
ビスティーユ嬢へ誰かが声を掛けた。気づけば近くに友人らしき令嬢が3、4人集まっている。
おそらく彼女へ挨拶に来たが私と一緒だから遠慮でもしていたのだろう。
「ご友人が来たみたいですね。それでは私は失礼いたします」
彼女と関わりを持てたのだから今日はこれで良しとしよう。
とりあえず後日お茶会でも開いてその時にゆっくり話をした方が、私にとっても彼女にとっても気兼ねなく話ができるだろう。
そう思い今日のところは退散することにした。
「また、お話してもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんですわ」
「では、また後日手紙をお送りしますね」
念のため彼女に許可をとる。
立ち上がってその場を後にしようとすると、集まっていた友人の一人が私を引き留めようと声を掛けてくれた。
妙に頬が赤く紅潮した様子から好意をもって誘ってくれているのはわかったがそれに聞こえないふりをしてその場を後にした。
「とんでもないですわ、私は大丈夫ですからお気になさらないでください!」
顔の前で両手を振り、気にしていないとジェスチャーをする。
しかし、気にしないと言われてもそうは言ってられない。
私は公爵令嬢で第2王子の婚約者。気を使ってそういっている可能性が高い。
今だに気を落とした私の様子を見て、何かを思いついたような表情になると明るく私にとある提案をしてくれた。
「そこまでおっしゃるのでしたら、1つ提案がありますわ。私の前では前世の時と同じように平民として接するなんてどうでしょう?」
「えっ?」
意外な提案に少しばかり動揺する。
私は前世が農民の娘だと嘘を付いており、そして今やこの国の社交界全体にそれは知れ渡っている。
しかし所詮は嘘。
そしてその嘘を本当だと周り、ひいてはヴァリタスに本当だと思わせるための裏付けのための情報収集として彼女と接触したのである。
つまり、今の彼女の提案に私はうまく返すことが難しいのだ。
しかし、彼女に心を開いてもらわなければ目的は達成されなくなる。
こうなったらまた新たな嘘を付くしかない。
良心が少しばかり痛むが仕方ないだろう。
「あの、どうされました」
私の動揺を読み取ったのだろうか。
彼女が覗きこむように私の様子を伺っている。心配しているような、不安そうなその瞳に少しだけ罪悪感が滲む。
「いいえ、その。言いにくいのですが……。私まだほとんど前世のことを思い出していないのです……」
その罪悪感を利用し、言いにくそうにする令嬢を演じてみせる。
まるで不安を背負った気弱な令嬢の出来上がりだ。
一先ずこれでやり過ごせるはず。
と、思った私の計画に彼女は先ほどとの笑顔とは異なり真剣な顔になる。
「なぜ、ベルフェリト嬢は前世を思い出したいのですか?」
「え?」
その眼差しにゴクリと唾を飲む。これは下手なことをいえば警戒されかねない。
それにしても、なかなか鋭いところをつく。
田舎の農民の娘の記憶など、今世の貴族社会で生きているなかで全く必要のないものだ。
そればかりか、足枷にだってなりかねない。
それでも思い出したい理由は一体なんなのか、と彼女は問いているのだろう。
もちろんそんな彼女の問いにも答え得る理由は用意してある。
彼女がこれで納得してくれればよいが。
「確かに今生きている中で、必要のないものだと思います。でも、私は前世の事に引け目を感じたくないのです。農家の娘であった私は、それでも教会が好きで、主が好きで。それが叶ってこの世にもう一度生を授けていただきました。その主を信じる彼女の直向きさが眩しくて、憧れていて……。だからこそ前世の私がどんな方だったのか知りたいのです」
彼女の瞳をまっすぐに見据え、嘘を付いていないとアピールする。
じっと私と彼女が見つめあう時間がしばらく続いた。
ガシっと彼女の両手が私の手を掴むと顔を近づけた。
何事かと驚いていると、キラキラした瞳が私を見つめている。
この光景ついさっき見たような…。
「そうだったのですね。なんて信仰深い方だったのでしょう!私も興味がありますわ」
まじか~。
いや、確かに私の嘘を信じてくれるのは嬉しい。嬉しいが。
何もそこまで食いつく?
「私の前世も平民だということは聞いていますね。そのこともあって、あまり社交界に馴染めていないのです。でも今日ベルフェリト嬢とお会いできて良かったですわ」
笑顔で告げる彼女の裏には、貴族の園に馴染めない彼女の苦悩が透けてみえた。
きっと彼女は仲間がほしかったのだ。
自分と同じような境遇の仲間が。
嘘の私の前世を信じ、興味を持ってくれている彼女に罪悪感が溜まりはじめていたときだった。
「あ、あのビスティーユ様」
「あら、皆さま」
ビスティーユ嬢へ誰かが声を掛けた。気づけば近くに友人らしき令嬢が3、4人集まっている。
おそらく彼女へ挨拶に来たが私と一緒だから遠慮でもしていたのだろう。
「ご友人が来たみたいですね。それでは私は失礼いたします」
彼女と関わりを持てたのだから今日はこれで良しとしよう。
とりあえず後日お茶会でも開いてその時にゆっくり話をした方が、私にとっても彼女にとっても気兼ねなく話ができるだろう。
そう思い今日のところは退散することにした。
「また、お話してもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんですわ」
「では、また後日手紙をお送りしますね」
念のため彼女に許可をとる。
立ち上がってその場を後にしようとすると、集まっていた友人の一人が私を引き留めようと声を掛けてくれた。
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