34 / 339
第2章
33.高熱の王子
今日は良い収穫があった。
まさか前世が平民だった令嬢に会えるだなんて。
平民といっても私が求める農民の娘ではないかもしれないが、それでも彼女からは確実に今までよりか良い情報を得られるだろう。
ルンルン気分がおさまらず、思わずケーキが並べられているテーブルに自然と足が向かってしまう。
(わぁ、どれもすごくおいしそうね)
品を損なうようなことは決してしないが、できれば好きなものを好きなだけ食べてしまいたい。
今はそれほど気分が高揚していた。
「エスティ……」
ふとこの会場では決して聞こえるはずのない声に驚く。
声のした方向をバッと振り返った。
なんとそこには熱を出して欠席したはずのヴァリタス殿下が私のすぐ近くまで来ていたのである。
か細い声で私の名前を呼んだ彼は、今にも倒れそうな程覚束ない足取りだ。
「ど、どうしたのですか?!ヴァリタス様」
はぁはぁと息荒げに近づいてくる。
顔も結構赤い。
その様子から察するに、相当熱があるはずなのにどうしてここに来たのだろう。
「……エスティがっ、参加すると聞いて、…駆けつけたのです」
「駆けつけたって、どうして?」
「どうしてって……。だって付き添いには、婚約者である私が、必要じゃないですか」
とぎれとぎれに発する声には熱が籠り、はぁはぁと吐く息の荒さからその深刻そうな症状に私でさえ心配になるほどだ。
たかがパーティーのエスコートごときでここまで頑張る必要などどこにもない。
別に今日が初めてではないし、今日は私たちにとって別に特別な日でもなんでもない。
それなのに、どうして彼はここまで必死になっているのだろう。
「しかし、殿下は熱があるのでしょう?こちらに来られるのは無理だと聞いていたので他の方に頼んでしまいましたわ」
彼を安心させるために言った言葉だった。
しかし、彼は信じられない事実を告げられたように目を見開いて驚いていた。
「代理とは誰ですか」
「え?」
「誰のエスコートで、こちらに来たのですか」
声を荒げながらも鋭い眼光で見つめる彼に、すこし身じろぎする。
その様子に気圧され、一瞬言葉に詰まったが別に後ろめたいことなどないし、正直に答える。
「ガーベル伯爵子息ですけど」
すると殿下は苦しそうに表情を歪ませた。
「はぁ……」
「で、殿下?!」
体が前のめりになって倒れそうになる彼の体を慌てて支える。
服の上から触ってみただけでも熱があるのが伝わってきた。
一体どれ程の高熱なのだろう。
無理してまで来るなんて、いつも冷静沈着な彼らしくない。
「とにかく、別室へ行って休みましょう?」
「……一緒に、来てくれますか?」
「はい、もちろんです」
ほっとしたのかガクッと彼の体から力が抜ける。
このままでは私まで倒れてしまいそうだ。
すぐに会場内にいた使用人を捕まえ、休憩できそうな部屋を案内してもらう。
私だけでは支えきれなかったため、声をかけた使用人も一緒に運んでくれた。
「ではこちらでお休みください」
「ありがとう。助かったわ」
笑顔でお礼を言うと、彼も笑顔でお辞儀を返してくれた。
薄暗い中、小さなベッドの上で横になる彼はいつもの余裕そうな彼ではなくて、なぜか妙に嬉しい。
「エスティ、どこにもいかないで。そばで手を握っていてください…」
「はいはい。大丈夫ですよ」
か細い声で私に縋る声は微かに涙声が混ざっている。
そんな彼に少しばかり母性本能を擽られながら、望み通り彼の手を握った。
やはり驚くほど熱い。
全く本当に彼はどうしてしまったのか。
こんな馬鹿な無茶はしないような人なのに。
(もしかして、なにかあった?)
しかし、今彼にそれを問うのは可哀そうだ。
とりあえず、今は安静にしておくのが良いだろう。
「エスティ……」
「?どうしたのですか?苦しいのですか?」
なおも眠らない彼に問いかける。
水か薬でも持ってきたほうが良いのだろうか。
しかし、彼は病人とは思えないほどしっかりと私の手を握り、潤んだ瞳で私を見つめていた。
「あなたはだけは…私の…。私だけのもので、居てください……。あなただけは……」
まさか前世が平民だった令嬢に会えるだなんて。
平民といっても私が求める農民の娘ではないかもしれないが、それでも彼女からは確実に今までよりか良い情報を得られるだろう。
ルンルン気分がおさまらず、思わずケーキが並べられているテーブルに自然と足が向かってしまう。
(わぁ、どれもすごくおいしそうね)
品を損なうようなことは決してしないが、できれば好きなものを好きなだけ食べてしまいたい。
今はそれほど気分が高揚していた。
「エスティ……」
ふとこの会場では決して聞こえるはずのない声に驚く。
声のした方向をバッと振り返った。
なんとそこには熱を出して欠席したはずのヴァリタス殿下が私のすぐ近くまで来ていたのである。
か細い声で私の名前を呼んだ彼は、今にも倒れそうな程覚束ない足取りだ。
「ど、どうしたのですか?!ヴァリタス様」
はぁはぁと息荒げに近づいてくる。
顔も結構赤い。
その様子から察するに、相当熱があるはずなのにどうしてここに来たのだろう。
「……エスティがっ、参加すると聞いて、…駆けつけたのです」
「駆けつけたって、どうして?」
「どうしてって……。だって付き添いには、婚約者である私が、必要じゃないですか」
とぎれとぎれに発する声には熱が籠り、はぁはぁと吐く息の荒さからその深刻そうな症状に私でさえ心配になるほどだ。
たかがパーティーのエスコートごときでここまで頑張る必要などどこにもない。
別に今日が初めてではないし、今日は私たちにとって別に特別な日でもなんでもない。
それなのに、どうして彼はここまで必死になっているのだろう。
「しかし、殿下は熱があるのでしょう?こちらに来られるのは無理だと聞いていたので他の方に頼んでしまいましたわ」
彼を安心させるために言った言葉だった。
しかし、彼は信じられない事実を告げられたように目を見開いて驚いていた。
「代理とは誰ですか」
「え?」
「誰のエスコートで、こちらに来たのですか」
声を荒げながらも鋭い眼光で見つめる彼に、すこし身じろぎする。
その様子に気圧され、一瞬言葉に詰まったが別に後ろめたいことなどないし、正直に答える。
「ガーベル伯爵子息ですけど」
すると殿下は苦しそうに表情を歪ませた。
「はぁ……」
「で、殿下?!」
体が前のめりになって倒れそうになる彼の体を慌てて支える。
服の上から触ってみただけでも熱があるのが伝わってきた。
一体どれ程の高熱なのだろう。
無理してまで来るなんて、いつも冷静沈着な彼らしくない。
「とにかく、別室へ行って休みましょう?」
「……一緒に、来てくれますか?」
「はい、もちろんです」
ほっとしたのかガクッと彼の体から力が抜ける。
このままでは私まで倒れてしまいそうだ。
すぐに会場内にいた使用人を捕まえ、休憩できそうな部屋を案内してもらう。
私だけでは支えきれなかったため、声をかけた使用人も一緒に運んでくれた。
「ではこちらでお休みください」
「ありがとう。助かったわ」
笑顔でお礼を言うと、彼も笑顔でお辞儀を返してくれた。
薄暗い中、小さなベッドの上で横になる彼はいつもの余裕そうな彼ではなくて、なぜか妙に嬉しい。
「エスティ、どこにもいかないで。そばで手を握っていてください…」
「はいはい。大丈夫ですよ」
か細い声で私に縋る声は微かに涙声が混ざっている。
そんな彼に少しばかり母性本能を擽られながら、望み通り彼の手を握った。
やはり驚くほど熱い。
全く本当に彼はどうしてしまったのか。
こんな馬鹿な無茶はしないような人なのに。
(もしかして、なにかあった?)
しかし、今彼にそれを問うのは可哀そうだ。
とりあえず、今は安静にしておくのが良いだろう。
「エスティ……」
「?どうしたのですか?苦しいのですか?」
なおも眠らない彼に問いかける。
水か薬でも持ってきたほうが良いのだろうか。
しかし、彼は病人とは思えないほどしっかりと私の手を握り、潤んだ瞳で私を見つめていた。
「あなたはだけは…私の…。私だけのもので、居てください……。あなただけは……」
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』
なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。
公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。
けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。
処刑まで残された時間は、三年。
もう誰も愛さない。
誰にも期待しない。
誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。
そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。
婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。
けれど、少しだけ優しくした。
少しだけ、相手の話を聞いた。
少しだけ、誤解を解く努力をした。
たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。
「……あなたは、こんな人だったのですか」
「もう少し、私を頼ってください」
「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」
「ずっと、怖かっただけなんでしょう」
悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。
これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
あなたがすき、だったから……。
友坂 悠
恋愛
あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。
もともと、3年だけの契約婚だった。
恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。
そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。
それなのに。
約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。
だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。
わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。
こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。
#############
なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、
シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。
初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。
お楽しみいただけると幸いです。